第14話:彼等を殺せますか
「せっかく残った雷鳥の魔石もパアだぜ。ひでーことさせやがる」
一行の目の前には、石枷を手足に嵌められた『羅銘露』のメンバーが転がされていた。全員石の棒でしこたまにブチのめされて気絶している。
感心して見下ろしているエルレアたちを振り返ってトキが口を開いた。
「エルレアさんに訊きたいんですけど。彼等を殺せますか?」
「う……」
迷宮に入る前に聞かれたことであるが、エルレアにはできる気がしなかった。狩りや探索の過程で動物や魔物の生命は散々奪ってきたが、人殺しを一度経験してしまうとそれで何かの一線を超えてしまいそうに思えた。ヒトまで獲物の一種に見えるようになってしまうような気がするのだ。無力化した人間にトドメを刺すとなると尚更である。
拘束された『ハザウィック』の者たちに目を向ける。実際に矢をつがえるイメージ、喉笛を切り裂くイメージをしてみても、やはり彼等の人生を奪う想像、彼等の家族や知り合いから彼等を奪う想像は、エルレアの手をガクガクと震わせた。
「ひ、人を手にかけるのは、やっぱり、できる気がしません……すみません……」
うつむいたエルレアに歩み寄ったトキは、その肩に手を添えた。
「でしょうね。だから戦闘も任せていただきました。この場で全員始末してサッパリ忘れりゃあ後腐れないですけど、下手人が俺だとしてもエルレアさんは少なからず気になるでしょ。別の選択肢だな」
パーティーにとって最善の選択を、自分の覚悟のなさで取れなくしている、ということだ。うつむいたまま、ヴェガの方をチラリと見る。足元が目に入るが、その表情まで見ることができない。怒っているだろうか……。
「すみません、すみませ――むぷぅっ」
エルレアの前につかつかと歩み寄ってきたヴェガが、杖を置いて、ムニュリと頬を両手で挟み込んだ。目が合う。その表情は穏やかだった。
「エルレアちゃん、謝らなくて大丈夫。できないって、すぐに判断できたのは偉かったわ。悪いとしたら、事前に適切な準備を十分にしないで迷宮に踏み入った私達が悪いの。可能性は想定してたんだから」
準備……先に人を殺す経験をさせておけばよかったということだろうか……。
エルレアはこの意図を完全には理解できなかった。
「それは帰ってから反省しましょうね。でも今は、じゃあこれをどうするかが問題よ」
「謝らなくていいってのはホントその通り。いまやれる中から選びましょう。対人は、追々だ」
「ふぁ、ふぁい……ふぁりがろうごあいあす……」
ありがとうございます、とうまく発音できなかったエルレアのほっぺたは、クスクスと笑うヴェガの手から解放された。
「1番、このまま転がしとく。2番、枷を解いて起こして放つ。3番、『収納』にブチ込んで連れ帰る。4番、先にダメオを帰す」
あ、確かに『収納魔法』に人を入れる緊急手段がある、というのは前にも聞いたことだった。
指を折って手早く対応案を列挙したトキとそれにうなずいているヴェガを、エルレアは交互に見た。
「1は殺すのと同じでしょ、却下ね。3も絶対イヤ。自宅や金庫に強盗を押し込めるみたいなものだもの。中で目覚めてゲロなり便なりブチ撒けられたらたまったもんじゃないわ」
「メンバーが一緒に入って見張っとくって手も一応あるけどな。まあ『収納』内部に、こんだけ敵意を持つ人間を入れたくないのは同意。2もこの状態だと半ば見殺しみたいなとこあるし、かと言ってまた襲われかねない中で治療してやるほどの義理はない」
このまま帰還するのであれば、残存魔力を気にする必要もないため、エルレアとしては医療魔法を施しても良かったが、いま何かを言う資格はない。『羅銘露』が帰還したとすると、治療院ないし『ハザウィック』の医療術師に安からぬ代金を支払って治してもらうのだろう。治療提供による営業妨害についてはそもそも『ハザウィック』のルーセントから指摘されたことでもあり、ここで余計にこじらせることはできなかった。エルレアは黙って俯く。
その頭をトキがポンポンと撫でた。
「思うとこあるのはわかりますよ。治してやりゃあその後ほったらかしても後ろめたくないしね。ただこの場で治すのは彼等への信用がなさすぎるんでやめてほしいです。大丈夫、エルレアさんは申し訳なく思う代わりに俺達に感謝してくれりゃあいい」
「フフッ、そうね。ドップリ感謝漬けにして私達から離れられなくなってしまってもらおうかしら」
冗談めかしたヴェガの表現に、エルレアの表情もやや明るくなった。
「は、はい、はい、ありがとうございます、もう十分に感謝漬けなんですけど、もっともっと感謝します」
ヴェガが転がっている冒険者のひとりを杖で小突く。
「じゃあ4番ね。起こして先に『大噴門』に戻らせましょう。意識を失ったまま『幽門』に単に蹴り込むんじゃあ、彼等の記憶してる『座標』は使えないものね」
「でも結局、最初から譲って先行させたのと変わらなかったということになってしまいました……」
「ううん、あの場でただ譲るのはありえないわ。こっちの名前を教える必要はなかったのにトキくんがわざわざ名乗ったでしょう。ナメられたらタダじゃ置かない、ってのは『ハザウィック』の専売特許じゃないのよ」
自分起因で、取れる対応が歪なものになってしまったにも関わらず、すぐに次善策に目をやって、責めるどころか気遣ってまでくれる。ふたりの配慮に感動して涙目になるエルレアだった。




