第12話:アダマスと愉快なダメオたち
通路を走りながらトキが連携について話す。
「呼び名決めるぜ。手負いっぽい『沙巌熊』は、『アダマス』でいいや。無事な別の同種がきたら『ブジアダマス』な。『羅銘露』の面子はローブの魔法使いが『ランス』、剣士が『メルロ』、後は知らねーけど持ち物で区別して『斧ダメオ』と『弓ダメオ』だ」
「エルレアちゃんは覚えらんないんだから統一してよ。『杖ダメオ』と『剣ダメオ』、いいわね」
随分滑稽な名前である。エルレアは吹き出しそうになって口元を抑えた。
「プッ、はっ、はい! アダマスと愉快なダメオたち、ですね。わかりました!」
ヴェガのほうは遠慮せずに吹き出した。トキが続けて言う。
「『沙巌熊』は、急所である頭部への衝撃は血を濁らせて臓器が一気に悪くなることが多い。胴体側にヘタな有効打を入れちまうと硬化しすぎて皮の品質が下がる。火属性の攻撃はあんまり効かない。もう手遅れな可能性もあるけど、できれば高圧水流で喉元を一息に撃ち抜きたいな」
「動き止められる? 射程短めだし、圧し込めた水は制御が難しいの。以前に似た狩りはやったことあるけど、ここまで荒れてる奴には自信ないわよ」
「痺れさせて動きを奪おうか。エルレアさん、矢で電撃を見舞ってやってください。腕か脚が標的。俺が肉弾戦で移動範囲と攻撃方向を制限します」
「は、はい、がんばります! 自力での強化魔法には時間かかるんですが……」
「最初は沼で足場奪いましょうよ。そのあとアダマスはトキくんが面倒見てね、私はエルレアちゃんの準備を守るわ」
「オーケイ、ヴェガはダメオのちょっかいも警戒な。トドメ直前まではそっち優先でいいから。素材が狙えなさそうなら俺が頭を叩き割るよ」
◇◇◇
目的の広場にはパッと見たところ、ダメオたち、もとい『羅銘露』の姿はなかった。奥で様子を伺っているか、もしくはぐるりと一周回り直して『幽門』へと向かいなおしているか。
先に広場の壁沿いに展開したヴェガが魔法の水を生み出して入口通路付近の地面を薄く覆った。その背後でエルレアは魔力のチャージを開始する。
「おいおい、てんで無傷じゃねーか。怒らせるだけ怒らせやがって。素材が無事で嬉しいぜ」
目標のアダマスを視認したトキが、岩石弾の射線を切りつつ魔法の水の後方に屈んで地に掌をつける。そして、この魔獣が広場に突入してきたタイミングで、ヴェガとアイコンタクトを交わした。
「「砂乱・泥沼」」
一帯の地盤がサラサラの砂となり、かさを増してぐるぐると渦を巻き出した魔法の水と勢いよく混じり合って一気に泥沼と化す。駆けてきた四本の脚を取られた魔獣はズルリと滑って体勢を大きく崩した。そこにトキが立ちはだかる。
「ブオオォォッッ!!」
咆哮とともに立ち上がって剛腕を振るうアダマス。その丈は十尺(約3m)ほどであろうか。エルレアが見たことのある熊よりもかなり大きかったが、より長く目立つ腕をのぞけばおよそ似たような形態である。
不安定な足場に下半身を取られて力を込めきれていないものの、その一撃一撃はかなりの速さで、至近距離での連撃は亜竜の攻撃と比べてもなお捌きにくそうにも映った。泥の飛沫がバシャバシャとあたりに舞う。トキは自分は泥沼に入らぬ位置を保ちながらひたすら六尺棒での牽制を続けている。なまじな打撃は入れられないのだ。
この泥沼を制御しているのは水魔法であるため、ヴェガは広場後方を警戒しながらもあまり大きな動きはできないでいる。
怒るアダマスが両の前腕を泥水についた。
ズズン!!
人の背丈ほどある複数の石の棘がその前方の地面から突き出る。間一髪で飛び退ったトキ。そのまにアダマスは泥水から躍り出た。と、着地間際の二本の後ろ脚にトキが手に持つ石の六尺棒を投げつけた。単なる投擲かと見えたそれは、当たった脚部に変形して巻き付き、絡め取った。さながら石でできた足枷である。再度足をとられたアダマスは両腕で地面を叩いて転がり、その場に留まることを拒否した。追いながら牽制を続けるトキに、安定した地場を得て岩石弾を生み出し撃ち始めるアダマス。トキは射線が後衛ふたりに向かぬよう誘導しながら躱している。
ヴェガはアダマスの泥沼脱出を見るや、その制御を放棄してトドメの魔法の充填にかかっていた。
「いけます!!」
「こっちもいいわよ!」
「オラァァァッ!!」
エルレアの合図にヴェガが呼応した時、広間に響いた三人目の声にトキが後方を見た。斧を振りかざしたダメオである。斧ダメオはその武器をアダマスに勢いよく投げつけた。
唸りをあげて回転しながら飛ぶ両刃斧。
「『砂編帷』!!」
ここまでの下拵えを台無しにしかねない斧ダメオの投擲攻撃は、トキが咄嗟に発動した土の防護壁に反らされ、辛くもアダマスへの命中を免れた。しかし、その背後でトキの横からアダマスの長い腕が唸りを上げた。
ドスッ
「ブギャアアアアッ!!」
エルレアの雷の矢が、トキに達する前にその腕を捉えていた。
「いい子ね。『青薊仙刺』」
痺れて瞬時固まったアダマスとの距離を詰めたヴェガの杖から、圧縮された水の塊が、強烈な勢いで一本の筋を描いた。それは魔獣の喉元を貫いて、背後の硬い岩盤にまで深い穴を刻んだ。
コヒュ……
断末魔の呼吸音を微かに鳴らした後、アダマスは腕を力なく二度振って、ドサリと崩折れた。泥水にまみれた毛皮からバチャリとした水音が鳴った。
『沙巌熊』素材、保全完了である。




