第11話:モグリ野郎
ここまで倒した魔物は数十匹にのぼる。地上の活動では考えられない密度だ。一匹一匹はさほど大きくないが、素材も魔石もかなりの量を得ることができていた。
とはいえ、『胃袋』の入場税は一人当たり二十五両(約100万円)というえげつない金額で、今日ここまでの獲得素材だけでは採算は合わない。いざ大金獲得だと勇んで迷宮に挑戦するものの、魔石も売ってどうにかトントン、という程度の冒険者も少なくないそうだ。
「この『双手紐』の魔石は、乾燥に使われるんで最近工業需要が高いんです。取込効率が悪い反面、換金性がいいんで、カネに困ったら真っ先に売るのはコイツかな。まあ俺達の基本方針はレベルアップ偏重で全取込ですけど」
様々な魔物や魔石について、都度してもらう解説は、人名やグループについての知識とは異なり、すんなりと頭に入っていく。やっぱりこういう話のほうが自分には合っている、とエルレアは思うのだった。
「迷宮滞在によっても魔素は身体に取り込まれてます。『胃袋』入りを控えてたんで止めてもらってた『晃之雉』の大型魔石の取り込みも残ってるし、この後の成長が楽しみですね」
魔石取込は思わぬ副作用をもたらす場合があるので、実戦直前には避けるべきだ、というのがトキたちの教えである。雷魔法への適性を見せたエルレアに対して、雷鳥の魔石はぜひ使ってみるといい、とふたりは言ってくれた。得意属性と同じタイプの魔物から得られる魔石は効果が強くなる可能性が高い、というのは実証されているわけではない迷信にすぎないが、そういうものもよすがにしたい気持ちが冒険者にはどこかにある。
「そういえば、『晃之雉』の魔石はどういうことに使えるんですか?」
「魔力を流すと光を放つタイプのやつですね。特性としちゃ、あんまり珍しくないかも。いまも小さいのを身体につけてるでしょう。『第二階層』でも迷宮産の天然品を見かけますよ」
「あ、じゃあ『第二階層』は暗闇というわけではないんですね」
「ええ、そのかわりこの手の魔石はサイズに応じて、壊れると最悪視界をやられちまうような強烈な光を放つんで、ヘタに流れ弾を当てないなんかの配慮は必要になりますけど」
周囲に警戒はしつつも色々と話しながら進んでいる中で、道の先に、ほのかな赤紫の光が揺れているのをエルレアは見留めた。『大噴門』で見たのと似た魔力光である。
「アレが今回のゴールですね。最後まで油断しないように」
◇◇◇
『幽門』は多少膨らんだ程度の通路、すこしカーブになっている箇所にあった。人の背丈ほどの赤紫の光の膜が、地面からすこし浮いてかすかに揺らいでいる。『大噴門』と同じく向こうの様子は伺い知れない。回り込んでみても同じである。
前後の魔物を追い払い、罠を探って、周囲の安全を確保した、と思った矢先。一行が来たのと逆の方向から、人の声がした。
「あったぜ! 『幽門』だ! 帰還できる!」
「あら、『沙巌熊』を狩りそこねたグループかしら。別の道から一周つながってたのね」
「うおっ」
トキが急いで棒を振るった。音もなく前方から飛んできた拳大の石礫を払ったのである。エルレアの眼前で軌道を変えたその石は、斜め後ろの岩壁に衝突して砕け散った。
怒号が道の先で聞こえ、火炎魔法を放ったと思しき赤い光が見えて爆音が響いた。
「『沙巌熊』連れだ。ヌケヌケと『幽門』を先に通らせるわけにはいかないが、こちらも即座には飛び込めないな」
エルレアがまだ『大噴門』への帰り方を教えてもらっていないからである。トキは咄嗟に地面を棒で突付き、土の防護壁を『幽門』の前に作り出した。
「なんだテメエら!? どけェッ! ウチは『ハザウィック』の『羅銘露』だぞ!!」
土煙が渦巻く通路の先から走ってきたローブの男が怒鳴りつける。
「ラメロだかダメオだか知りませんけど、この場に先着したのは我々です。こちらが先行しますから後からゆっくりとどうぞ」
トキが落ち着いて応じた。
「ゆっくりしてる暇はねえんだよ! 『ハザウィック』を知らねえのか、モグリ野郎!!」
また飛んできた石弾を横っ飛びに躱しながらその男が言った。メンバーに当たらぬ軌道と見てトキは無視する。他に三人の男性も走ってきた。土煙の奥、やや警戒しているのか『沙巌熊』はまだ姿を見せないが、話している間にも数発の石礫が撃ち込まれてきている。
「モグリ? 迷宮に潜ってる経験はおたくより随分あると思いますがね。それよりも、あんたらがちょっかいかけた魔獣をどうにかしてくださいよ、名高い『ハザウィック』さん」
トキは背後に後衛組をかばいつつ、『幽門』への先行を許さぬよう陣取りながら、この別パーティーに冷たく言い放った。後ろから来た剣士が叫ぶ。
「ランス、『幽門』突破はひとまず無理だ、奥に走れ!」
「お、おいメルロ、ド低能どもが、畜生!!」
『羅銘露』の四人が通路を駆け抜けていったのを見届けてから、トキも冷静に言った。
「『沙巌熊』は狩り切ったほうが安全だな。ただここだとさすがに戦いづらすぎる。ちょっと手前にあった広場に移ろう。石弾は俺が処理するから、ヴェガが先行してくれよ。ダメオからの攻撃を間違って喰らわないようにな」
「はーい。氏族名を出して道を譲らせようなんて、ダサい小物だわ。水の膜は張るけど、エルレアちゃんも前方に集中してね」
一行は迅速に後退を開始した。




