第6話:ナメられたら殺す
ギルドには午前のうちに来るようにと言われていた。その前に腹ごしらえをすることにした一行は、大通りのカフェテラスでパンケーキなどを突付いている。
エルレアは先程の疑問についてトキにも聞いてみた。
「さっきヴェガさんが、うちは『よくいる中堅ハンター』扱いだって仰ってたんですけど、中級冒険者というのは実際みなさん亜竜や雷鳥を苦にしないほどの方たちなんでしょうか?」
紅茶をすすりながら答えるトキ。
「相性次第なとこありますけど、『晃乃雉』に手も足も出ないようなら中級の看板は掲げらんないかな。中堅どころと言っても幅は広いですが、大型黒竜には苦戦するチームも多いと思いますよ」
やはりあの亜竜は別格だったということか。棒術と補助魔法を主体に無傷で立ち回っていたトキとて、ひとりでは決め手を欠いていたようにも思われるから、同レベルの冒険者が集まりさえすれば良いというものでもないのだろう。見せていないだけで別に切り札を持っている可能性もあるが、いずれにせよ高威力の攻撃手段がなければ、なかなか太刀打ちできないような怪物だった。
「私から見ると『悪食』ってかなり上の方に感じられまして。あっ、初心者の私を入れていただいたので、いまはちょっと格を下げちゃってるとは思うんですが。商会側からあんまりきちんと認知されてなかったのが不思議な気がしたんです」
「ああ、メサキ商会は、この街の最大氏族『ハザウィック』と付き合いが深い老舗なんです。俺達は外様だから扱いには差をつけられてるわけ。だから基本的にボスも顔を見せないしパーティー名とかもロクに呼ばれないですけど、裏ではある程度の情報はちゃんと押さえられてますよ」
訪問からすぐに当主が出てきたのもそういうことか、とエルレアは納得した。ただ、他にも商店は色々とある中で、待遇を下げられ気味の商会と敢えて付き合っている理由はなんだろう。
そう疑問に感じたところ、横からちょうどそれに対してヴェガが口を挟んだ。
「今日あそこを選んだのは男爵家への意趣返し? 商会経由で冒険者の大手に事情がさっさと伝わるのを狙ったのよね?」
「意図したのはそのとおりだけど、男爵家がどうこうっつーより多方面への親切かな。『ハザウィック』が真っ向から吠え面かかされたらリアルに修羅場見るだろ」
「あー、確かにそうかも」
仮に今回のものが『ハザウィック』系列で受注したクエストだったならば、彼等は喧嘩を受けて立ったに違いない。密猟教唆犯の処罰を代行するという名目でトーレア村を根こそぎ血祭りに上げ、その対価と言い張って資源全品を手元に留める、くらいのことはやったはず。そうトキはエルレアに向けて解説した。
「血の気の多い方たちなんですね……」
使者ナータンへの協力者程度はいたかもしれないと言っても、トーレア村民からしたらたまったものではない話だ。
「ナメられたら殺す、というのが徹底してるのよ。凶暴というよりも自衛の一種ね」
「男爵家が受注者の素性まで調べてたかというと、ナータン殿の態度を見た感じじゃあ、なんとなく怪しいもんでした。運良く武闘派を引かなかっただけ、と考えると、ツェリークさんにとっちゃあ二重にヒヤヒヤもんだったかもな」
ちなみに、エルレアの所属についてちょっかいをかけてきたのは『カデュアル』というまた別の派閥である。どこが出てくるにせよ、もしもこの手の大型氏族が男爵家との全面抗争を始めると、冒険者ギルドやザバンを治めるロンデル公まで巻き込んでの大騒乱につながりかねない。そして男爵家の姿勢だけを見ると、これは雷鳥の件に留まらず今後も起こりうる話なのだ。トラブルを未然回避できるようにはツェリーク側でも手を回すだろうし、だからだろうかメサキ商会側も既に部分的な情報は押さえていたが、『悪食』としてもその手の混乱は好ましくないので、ひとまず最も好戦的なグループに自分たちからも注意を促しておいたのであった。
といっても、男爵家にギルドと『悪食』がしてやられた、というのは直接氏族に赴いて共有するようなことでもないし、愚痴をこぼすほど仲良くもない。間接的に耳に入れておくには商会経由がちょうどよかった。メサキ商会との付き合いしかり、こういう距離感を保った情報のやりとりには、いくつかの経路を用意しておくのがいいのだ。
話の流れで色々な事情が出てきて、エルレアはいいかげん頭がパンクしそうである。うーんうーんと唸りだした様子を見てヴェガがたしなめに入った。
「トキくん、難しいわよ。エルレアちゃんが戸惑ってるじゃない」
「ご、ごめんなさい、複雑すぎて……」
「いえ、こちらこそ脱線してすみません。もともとは商会っつーよりも、我々の立ち位置の話でしたっけ」
そうだった。
自分からすると物凄い実力者に見える彼等は、ザバンの中では周りから注目を受けたり特別扱いされたりというには値しないものなのだろうか、というのが出発点なのだった。迷宮で敗退したせいでナメられている、とも言っていたけれど……。
コクリと頷いたエルレアにヴェガが答えた。
「エルレアちゃん加入前の私達は、ザバン迷宮の到達深度で全体13位だったの。上位十傑がトップクラスとすると、中の上、というのが適切かしら」
「ふたりでそれって、かなり凄いのでは……?」
「いえ、人数の少なさは自慢になりません。十傑にはソロの冒険者もいますから。それに、俺達はもっと深層まで行けるつもりだったんですよ。でも、このままだとちょっと無理があるな、と気付かされたのが前に言った敗退なんです」
「あの階層主戦の勝ち筋はリスキーすぎたものね」
彼等は二名体制に限界を感じ、自分たちに足りないピースを埋められる仲間を必要としていた。では、最初から実力者が揃っているグループに加入すれば、難関に挑むにあたっても協働しやすかったのでは? 全体13位の強豪ならば、氏族なども無碍には扱わないのではないだろうか。
そんな疑問がエルレアの頭に浮かんだ。初心者にわざわざ手間と時間と魔石を投資する道を選んだのはどうしてだろう。
「たとえば氏族に入ったら、優秀な仲間がすぐに増えたりはしないものなんでしょうか?」
尋ねてみたエルレアに対して、トキは苦笑いを浮かべて顔の前で手を振った。
「ヴェガだけならエースチームに入れたんですけどね。出直しにあたって一応いくつか話は聞きましたが、俺は器用貧乏なんで、大手からはどこも二線級の働きアリ扱いだったんです。ペアをバラされちまうなら入る意味はなかったんで」
「えっ、だって、トキさんは本当になんでもできるのに」
「いえ、トップランカーと比べると俺は低出力すぎるんですよ」
「ザバンは魔力量で構成員のティアを分けるところばかりだもの。節穴揃いよ」
ヴェガが面白くなさそうに言う。
「ていうかそもそも、氏族に成果を上納して分け前にあずかる、っていうスタイルは、私達の方針に合わないの。迷宮敗退直後で買い叩かれたのもリスペクト感じなくて気分悪かったし。やっぱりインディーズが合ってるわ」
迷宮攻略と探しもの、がふたりの関心事だと言っていたことをエルレアは思い出した。確かに、大型派閥に入って目的物を得られたとしても、それが手元に回ってこないならば本末転倒である。
「迷宮に入らずに訓練を続けているという意味でいうと、私もおふたりの目的を邪魔してますよね……」
「いや、だから、そりゃあ先を見越した話なんですって。卑屈になんないでくださいよ」
エルレアはなんとかふたりに何かを還元したかった。今回の貢献もなかったことになってしまい、この数週間というもの半ば彼等に養われているだけになっている。
「……迷宮挑戦、いまの私にもできるものなのでしょうか」
そんなエルレアの呟きに、トキが大きく反応した。
「おっ、じゃあエルレアさん、一回迷宮を実際に見に行ってみましょうか!」




