第5話:よくいる中堅ハンター
翌日。
取り引きのある商会のひとつに朝イチで入ったエルレアたちは、旅程の中で『晃乃雉』以外に狩猟、採取していた素材の買取を見積もってもらっていた。
「先のクエストの件、すこしお聞きしましたよ。獲得資源が召し上げになったとか。お気の毒様でございましたな、仕留めるのも大変だったでしょうに」
「ずいぶん耳が早いですね。さいわい腕利きの弓使いがおりまして、落とすのはまあ順調だったんですが、しっかりとバラすのには苦戦しました。今回の顛末は別として、あまり実入りが伴わないなら積極的に狙いたい獲物ではないかもしれません」
噂のパーティーの来訪と聞いて顔を出した、ここ『メサキ商会』の当主マジリッドの言葉に、トキが苦笑しながら返した。街の施設を回る際には、このように貢献を立てながら新顔である自分のアピールをさりげなくしてくれることが多く、そのたびにエルレアは背筋がムズムズするのだった。
「状態のいい『晃乃雉』はどこも垂涎ですよ。南方デラダピーク峡谷の辺りでは比較的よく見る魔物だと聞きますが、素材の保全が難しい手前、流通はごくごく限られておりまして、バナデアだとなおさら出回らんのです。わたくしどもとしてもぜひ実物を拝見したかったところでした。これに懲りず今後見かけられた際には是非ともご融通いただきたいものです」
面倒な獲物への興味をなくしそうだと聞いたマジリッドが、いかに価値のあるものかを力説する。
「ご興味お持ちいただけてたとは、二匹目のドジョウを探すのも悪くないかもしれませんね。もう少し具体的にお話しをお伺いしておいても?」
獲得素材の明細を取り出したトキは、マジリッドに促されて奥の机へと移っていった。
残されたヴェガとエルレアは、見積のために店員が買取素材を検めている間、そばの柔らかい椅子に通された。普段は立って待っているのだが、今回はすこし待遇がいい。
「当主の方をお見かけするのは、亜竜素材売却の時以来です」
「私達も、おたがい顔と名前は知ってるっていう程度でしかないわ。あちらからすればウチはよくいる中堅ハンターでしかないからね。今回わざわざ出てきたのは、ゼーナビイェタ方面の状況を深堀りしておきたいのかしら」
声を抑えて話すエルレアにヴェガもひそひそと答えた。
討伐主体の緊急依頼だったために事前には覚束なかった相場調査の補完がこちらの目的だったが、先方としても裏事情を聞いておこうということで噛み合ったのである。『悪食』が普段からことさらに注目されているわけではないのだ。
亜竜を落としてなお平然としているほどのこのふたりが有象無象扱いとは、迷宮のお膝元の大商会とは凄いものだ、とエルレアは思った。
「この『三槍鹿』の角など特に、素晴らしい素材保全技術が伺えますな。『晃乃雉』に限らず今後ともご贔屓にあずかれますよう」
トキが当主との会話を終えたのは、ちょうど見積の済んだ頃合だった。マジリッドの言葉のどこまでが真意でどこまでが追従かエルレアにはわからなかった。とにかく順調に代金を受け取って一行は商会の門を辞したのだった。




