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地味パーティーのエルレアさん  作者: 甘栗八
第2章 小賢しい会話
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第4話:おかんむり

 クエストを受け続けているこのしばらくの期間は出先で泊まることのほうが多かったものの、迷宮都市ザバンに帰還する都度、行きつけの酒場『黒羊歯亭(くろしだてい)』で食事を摂るのが一行の恒例になっている。




「慈善事業に、乾杯ー」


 投げやりに言うヴェガに合わせて、金阪穂米(キンサカホマイ)の醸造酒を注いだ酒杯を鳴らす『悪食(アクジキ)』メンバーたち。普段から酒類を口にするのはヴェガくらいだが、今日は全員飲む気分である。素材をとられていったあの後はさすがに気が抜けて、夕刻から開いていたところにギルドから直行したのだった。


「なんていうか、物凄い豪腕でした……。お(かみ)が絡むと成果を取られることがある、と以前おっしゃっていましたけど、根こそぎ全部持っていかれてしまうこともあるんですね」


 医療術師(エルレア)の所属先についての氏族(クラン)からの横槍はギルドが突っぱねた、と聞いたが、男爵家は流石に権力が強すぎたということだろうか。


「あそこまでのは初めてです。ああいう横取りがまかりとおるとなると、この先ザックァハト管内の依頼を受ける冒険者はいなくなっちまう。後先のない暴挙っつってもいい」


 その言葉を聞いて、今後の豊作は約束されたでしょう、というトキの台詞は、豊作をもたらす雷を呼んで男爵領で暴れまわる『晃乃雉(ハンディナ)』の退治などを、このさき冒険者に頼れると思うなよ、という意味だったとエルレアは気付いた。

 確かにこの件が広まると、事前に男爵家による直接承認でも受けなければ成果が保証されないと見た冒険者は、男爵家の絡みかねないクエストをことさら忌避するようになることだろう。


「そうなんですね……。ただ、使者の()()()()さんは、雷鳥討伐の準備は進めていた、と仰っていました。私達は軍隊の邪魔をしてしまったんでしょうか?」


 ヴェガが吹き出した。


「プフッ、なるたん……。()()()()は白々しかったわね」


「ああ、()()()()殿のアレね。あんなもん真っ赤なウソですよ。単に諸事情で討伐部隊の手配に時間がかかってたんだとしたら、事前に俺たちが村で状況の聞き取りをした時点で、男爵家配下に調査くらいは先行されてなきゃおかしい」


「あっあっ、()()()()さんでした……」


 使者の名前を間違えてワタワタしているエルレアを気にせず、盃に口をつけながらトキは話を進めた。


 男爵家は、雷鳥の資源は欲しいもののうまく狩る自信はなかったところ、討伐依頼に冒険者が手を挙げたというから獲物だけせしめよう、という魂胆だったのだろう。

 素材確保手順に自信がなかったか、そもそも『晃乃雉(ハンディナ)』を狩ることすらできないのかはわからないが、自分たちで倒せないならば、最低でもナバテの間引き依頼よろしく駆除依頼を直接出すというほうが正道だったはずである。しかしそうすると得た素材はふつう冒険者のものになる。依頼に際して全素材の買取を前提に組み入れたり、そもそも素材の納品を成功条件にしたり、ということもできるが、面倒なクエストほど割高になる。どう見てもそこの報酬を渋ったように思われるのだ。それゆえ『悪食(アクジキ)』が『晃乃雉(ハンディナ)』を始末するまでは素知らぬ顔で泳がせておいて、その後完了報告がなされる前に急いで依頼の差し止めを行った。


「あんまり推測で悪意ばかりを疑うのは不毛ですけど、トーレア村には、何かしら言い含められて俺達を引き留めにかかった奴はいたんじゃないですかね」


「あ……私が治療を申し出てしまったから……」


「いいや、滞在を延ばしたのはパーティーの総意です。俺もあの辺りで色々と情報収集する必要がありましたから」


 その情報収集が()()に駆られてのものなのかというと、彼はただ空いた時間を有効活用しただけであったようにも思えたが、エルレアはトキがこのように言ってくれている配慮に多少救われた気持ちだった。




「私には実際どのくらいの価値があるか正確には見積もれてないんだけど、『晃乃雉(ハンディナ)』ってザックァハト家が正面から買い取れないほどの高級資源なの?」


 焼き鳥の串を頬張り終えたヴェガの言葉に、エルレアはもぐもぐしながらそちらを見た。

 ……今回の素材の相場がよくわからなかったのは、ヴェガさんもだったんだ。

 売却は売却で簡単ではないのである。


「狩りの後に近隣で耳にした話をもとにした憶測でしかないけど、男爵家はどうも新規に有力貴族かなんかと姻戚関係を結ぼうとしているみたいだ。もともとついてるロンデル公系列とは別のさ。それで何かと持ち出しがかさんでる上、引き出物にも箔をつける必要があったんで今回のやりくちに出たんじゃねーの」


 そう言ってからトキは顎に右手を当てて軽く考え込む様子を見せた。


「……もしザックァハト男爵が別の派閥に鞍替えしようとしているとすると、ギルドの横っ面を派手に張ったのも、中長期で付き合う気がないからっつーことか? ゼーナビイェタ地方はきな臭くなるかもな。更に探る価値もあるぞ……?」


 独り言を呟いている姿に、エルレアはベテランの状況分析の凄まじさを再認識した気がした。よその統治者の事情を仕入れると、そういう警戒までできるようになるのか……。先ほど、どこまで必要だったかわからなかった、と自分が思った情報収集も、すぐに活用できてしまう。


「あくまでも仮説のひとつでしかないからね。この手の勘繰りはトキくんの趣味みたいなものだから、あそこまでは真似しなくてもいいのよ」


 ほえー、と目を見張っていたエルレアにヴェガが小さく忠告した。




 ふたりを向き直してトキがまた口を開く。


「ああ、相場の話だったな。量が違うから亜竜から比べると桁は落ちるにせよ、それより希少な雷鳥資源もかなりまとまった値になるはずではあった。払えない額じゃあないだろうが男爵家が自前で持つには身の丈に余る贅沢品かもしれない。奴等の懐具合は俄然気になってきたから、道中で得た他の資源を捌きがてら、一応明日商店であらためて取引価格を確認してみるか。俺達からすると、カネの問題っつーより、コケにしてくれたなって感じだけどな」


 盃に口をつけたヴェガも同意を示す。


「ほんとよね。でも、今回一番おかんむりだったのはツェリークでしょう」


 その言葉を受けてエルレアは、ギルド長が終始しかめっ面だったことを思い出した。ただ、もっとも痛手を被ったのは、やはり命懸けでタダ働きさせられた我々『悪食(アクジキ)』なのではなかろうか。


「あれ、ギルドは別に損はしてませんよね?」


「いや、恣意的な法運用で手元の契約を反故にさせられたってのは、正面からツラに泥をベッタリ塗られたってことなんですよ。ギルド側の精査不足ってことにされたっつってたでしょう。冒険者がゴネれば、ギルドがまず素材を買い取ってから男爵家に返納するって形にしなけりゃいけなかった。まあ大型氏族(クラン)でもなけりゃあギルド相手にゴネ通すパワーはないんですが、俺達にだって持ち逃げとか素材を滅茶苦茶にするという選択肢はあったわけでね」


 下手に前例を作ると類似の件の裁きに困る。冒険者ギルドには、全冒険者にこの手の補填を行ってゆくだけの財政的余裕があるわけではない。この件に絞ると、ツェリークが迷宮に潜りでもすれば『晃乃雉(ハンディナ)』素材の代替物程度は入手できるだろうが、その間、今度はギルド運営がおろそかになる。トップ自ら金策に駆けずり回ってばかりもいられない。そもそもそういう第一線で働くことを控えてまで冒険者のために共同体の整備に献身してきたのがツェリークなのである。迷宮都市ザバンを直轄統治するロンデル公に傘下男爵の横暴を直訴する手もないではないが、それとてどれほどかかるかわからない面倒事なわけで……。


 トキの説明でエルレアは、彼がギルド側の顔を立てると言っていた意味が理解できた。我々が突っ張ったとしたら、この件が犯罪クエストを公開したツェリークたちの不始末という形で確定してしまったのだ。これ以上関係者を悩ませないためにも、男爵家に追及を止めさせる形で『悪食(アクジキ)』が損失に甘んじたのである。その上で、依頼者の村民も罪に問われないとは使者から言質を得たが、それはまあこの話の中では単なるオマケである。


「なるほど……難しいですが、ギルド側こそ危機一髪だったんだということはなんとなくわかりました」


「明日もギルドに顔を出すよう言われたでしょう。金銭は期待できないにせよ、あちら側から何かしらの便宜は図ってくれると思うわ」


 冒険者もクエストばかりこなせれば良いというものではないのだ。エルレアは社会の難しさに頭がぐるぐるしてくるのだった。

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