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地味パーティーのエルレアさん  作者: 甘栗八
第1章 生きて帰る力
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第1話:ニャニャ番

 このあたりではあまり見かけることのない金髪の森人(エルフ)が大きな荷物を背負って冒険者ギルドの門を叩いたのは、陽皇暦(ようこうれき)1240年初夏のことだった。




「『エルレア』さん、森人(エルフ)、女性、72(ニャニャじゅうに)歳、専門は医療術師(ヒーラー)ですね、お間違いニャいですか」


 控えめな声で登録情報を復唱したのは猫型獣人の受付嬢だ。確認を受けたその森人(エルフ)、エルレアはコクリと頷いた。


「こちらが仮登録証にニャります。記載のとおり、エルレアさんの受付番号はニャニャ番ですね。お時間にニャりましたらお声がけしますので、この部屋の(ニャか)でお待ち下さい」


 手元の用紙になお何事か記載したその女性――『ミケ』という名札をつけている――は、それとは別に、掌ほどの大きさの薄く四角い木片を差し出した。いましがた確認された情報が整然と記されている。

 ニャニャ番…………数字の七が端に書かれていた。

 エルレアは礼を告げてその仮登録証を受け取ると、受付から後ろに離れた。




 森人(エルフ)のエルレアは、ロンデル公領バナデアの冒険者登録を受けようと、山奥の故郷を出てきたのであった。この迷宮都市ザバンは、冒険者の街としてバナデア内でも特に名を馳せており、同業者組合(ギルド)の活動も盛んで、季節ごとに大規模な登録審査会が開かれるのだ。


 壁際に寄って周囲を見渡すと、同じ志望者であろうか、複数人がこちらをチラチラと伺っていた。ギルドの建物内にはベテランと思しき冒険者の姿も見えたが、七番という貰った番号が示すとおり、独特の慣れなさを見せる先客らしき者が、数えると確かに六名ばかりいる。触れ回られていた受付開始時刻からほどなく着いたつもりだったものの、都会は自分の感覚よりも(せわ)しないということかもしれない。

 誰かに話しかけてみるべきものか迷ったエルレアだったが、生来の人見知りもあって、視線には会釈を見せるのみにとどめ、ひとまず受付嬢からの案内を待つことにした。勇気を出して踏み込んだものの、田舎者にはこの街の風はすこし怖気づかせる何かがある。


 加えて。エルレアには左目のまわりから頬にかけて小さくない火傷痕がある。幼少期の事故で負ってしまったものだ。危険と隣り合わせの冒険者の世界では多少まぎれるかとの期待を少し持っていたが、受ける視線の一部はどうもやはりその引き攣れた皮膚に集まっている気がしてしまうのだった。




 受付時に下ろしていた首元のスカーフを鼻まで引き上げたエルレアは、しばらくの間、壁際の目立たぬ場所に立って、なんとはなしに室内を控えめに見回していた。

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