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地味パーティーのエルレアさん  作者: 甘栗八
第1章 生きて帰る力
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第17話:丸め込まれました

 魔石の配分を一段落させた三人は、その後、いくつかの商店を巡って、エルレアの顔をあわせて売りながら、素材を売却してまわった。

 さすが十万都市、その経済は、大金とはいえ亜竜一頭の素材代金程度かるく賄えてしまう。自らの装備用に残す道もあったが、たしかな製作所との伝手が要るなど取り扱いが難しくなるため、シンプルにすべて換金してしまうことにしたのだ。そして、依然渋るエルレアに無理やり収納魔道具を開かせて、ヴェガが分け前を捩じ込んだのだった。


 時刻は日も暮れようかという頃である。ふたりから打ち上げに誘われたエルレアは、一も二もなく誘いに乗った。

 街中には特定の冒険者の氏族(クラン)が縄張りにしている店も少なくないが、そういうところには他所の冒険者は好んでは立ち寄らない。街の中心部からすこし離れたところにある『黒羊歯亭(くろしだてい)』がふたりの贔屓の酒場で、賑わってはいるものの冒険者は少なめで比較的落ち着いて食事ができるのだという。東欄鶏(トウランケイ)佐可瓜(サカウリ)の生姜煮込みが絶品だと聞いて、いい加減からっぽだったエルレアのお腹が鳴り響いた。




「エルレアちゃんは、泊まる場所は決まってるの?」


「いえ、登録の前日に街に来たのですが、その時は郊外にテントを張ったんですよね。今日もそうしようかと思ってました」


 卓についた三人は飲み物を片手に食事を待っていた。今後の予定についてヴェガが水を向ける。


「そう。お金のない駆け出しだと、野宿だとか家畜小屋を間借りしたりというのも多いけど、手持ちがそれなりにできたんだから、ちゃんとした拠点を定めちゃったほうがいいでしょうね。追い剥ぎに遭ったりもするし、そうでなくても女性は狙われやすいもの」


「実際、この店にも商店からつけてきた奴が入ってるからな」


 あ、そうなんだ……!!


 三人のテーブルは奥側の壁沿いである。エルレアは周りを見渡してみたが見当がつかなかった。故郷の森で鍛えた勘や感覚は決して鈍いわけではないエルレアだったが、人が多すぎるこの迷宮都市では誰が誰やら区別がつかないのだ。振り返ってみるとナバテの野営地でも、成果を得た冒険者たちは明らかに他人を警戒していた。


「盗人だけじゃなくて投資勧誘とか寄付依頼とか、どこまで悪質かはわからないけど、とにかくたかろうとする小蝿は出るのよね。とりあえず今夜は私達の定宿(じょうやど)に来ればいいわよ。空いてなくてもうちの部屋に入れてあげる。でも、その前にしておきたい話があるの」


「ああ、打ち上げに誘った手前もあるから寝床はいずれにせよ融通するとして、その話をしておこう」


 トキは酒杯を置いてエルレアに向きなおった。なんのことかとエルレアも身構える。報酬は既に分配しきった。食事が運ばれてくる前だし、まだこのお店の会計のことではないと思うのだけれども、あぶく銭ももらってしまったことだから全額自分持ちでもやぶさかではないな……。

 そんな見当は大外れした。


「エルレアさん、俺達のチーム、『悪食(アクジキ)』に入りませんか?」


「……えっ」


 エルレアにとってはまったく予期せぬ申し出だった。

 ドのつく初心者とベテランとの実力差は如実に目にしたばかりだし、生活水準もかたや野宿前提、もう一方は数百両(数千万円)の収入にも眉を動かさないチームである。エルレアはあの大型黒竜どころか、四伎鴉(ザッパ)の臭いを嗅いだだけでも一目散に逃げ出さなければならないような卑小な存在なのだ。


「あっ、えっ、でも! 身の程が違うように思うと言いますか! あからさまに足手まといなんですけれどもっ」


 取り乱すエルレアに、ふたりが背景を説明する。


「俺達の主な関心事は、迷宮攻略と探しものなんですが、ここんとこ行き詰まってましてね。一定以上の出力がある医療術師(ヒーラー)か、耐久力のある前衛を探しているところだったんです」


「トキくんこないだ階層主に片脚を千切られちゃってね、そこでギブして逃げ帰ってきたんだけど、街で完治させるのに医療院をハシゴしなきゃいけなかったし、全部で五百両以上かかったのよ」


「まあカネは稼ぎなおせばいいんだが、回復に時間がかかってリハビリも必要だったんで、完全に仕切り直しになっちまったからな。継戦能力が足りてないんですよ」


 あっさりと語っているが物凄い窮地な気がする。そんな状況でも生き延びられるんだ……!!?

 エルレアには、「何があろうと生きて帰る」といったトキの言葉が、違った重みをもって自然と思い出された。そして、そんな状況に自分が果たして対処できようか、とも思う。たしかに医療魔法が使えるという一点だけ取れば、多少の貢献はできそうではあるが……。


「それにね、実力があるなら誰でもいいというわけでもないの。生真面目でストイックなトキくんに合わない冒険者って多いから」


「言ってくれるぜ。人の好き嫌いが激しいのはヴェガが一番だろ」


「その私は、エルレアちゃん()いいのよ」


 ふたりとも、人当たりはかなりいいように感じてきたけれど、意外と苦手な人も多いのだろうか……?? 思い返すと志望者の一部はやや幼かったり、あまり込み入った話が嫌いそうだったりしたから、落ち着きの目立つ『悪食(アクジキ)』はその手の人たちとは反りが合わないのかもしれない。


 実力問題はさておき、ヴェガの言葉は、エルレアには嬉しかった。この数日の協働を通して、二人のことを尊敬しはじめていたし、最初から医療術師(ヒーラー)の勧誘を含みにしていたのかもしれないにせよ、良くしてもらったという思いも非常に強い。どこを気に入ってもらったのか自信はないものの、実際に性格的な相性もそう悪くないのでは、という感覚もあった。

 ただ、この()()()()()実力が一番の問題なのだ。うーうーと唸りながら逡巡を続けるエルレアに、トキが言う。


「ちょっと別の角度で話しましょう。駆け出しの冒険者は、ふつうに行くとこの先、活動レベルの合う他のパーティーに勧誘されたり自分から入れてもらったりするか、どこかの大型派閥、いわゆる『氏族(クラン)』の傘下に入る、というのが王道になります。今回の他の合格者もそうするはず。完全に独力で活動するにはさすがに経験が足りてなさすぎるんでね」


「あっ、はい、誰かと組むべきだと仰っていただいていましたね」


「で、新人だけで組むとすぐに死にかねないし、氏族(クラン)に取り込まれると部外者が気軽に誘えなくなることもよくある。まあそれは別に普通のことなんですが、俺達はエルレアさんには少なくとも俺達の協力者でいてほしいんですよ。だから、表現を選ばずに言うと、先に唾つけときたい。仮に今後別のグループに移るにしてもね。有望新人に先んじて話をできるのは、監督官チームの裏の権利でもあるんです」


 ()()()、というのは、ともに冒険に出ずとも場合によっては帰還後に医療魔法を集中的にかけるだけでも役に立てる、という意味である。彼等は復帰のために治療院を何軒も回らなければいけなかった。

 そもそもザバンの迷宮に入るには制限が課されているのだという。パーティーの一員になったとしても、エルレアが二人とともに()()ことはひとまずない。最初はその認定を得るために広範なクエストで一緒に活動して、経験を積んだり魔石を得たりしながらスキルアップしていくことになる。危地においてお互いに背中を預けられるだけの信用を培う時間も必要だ。その過程で志向の違いが明らかになれば建設的に別れることも当然の選択肢である。この先もしも別の派閥に移ったとしても、(ふる)い仲間に治療を請うのなどは名分も立ちやすい。


「……また丸め込もうとしてますね」


 彼等と組んだ場合の今後について話すトキに、エルレアはジトッとした視線を向けたが、その目は笑っていた。


「私、丸め込まれました。お世話になりたいです」


 ついていけるかどうかはわからないが、この二人は、自分に無茶なことを求めて犬死にさせたりはしない気がする。それがエルレアにとっての直感で、結論だった。彼等にとって自分がどう役に立つのかは、彼等に判断してもらえばよいのだ。

 ふたりは大いに笑顔を見せた。


「嬉しいわ、仲良くしましょうね」


「ありがとうございます。地味なパーティーですが、後悔させませんよ」


「はい、おふたりとも、あらためてよろしくお願いします」


 三人で乾杯する。

 トキは厨房の店主に、にこやかに声をかけた。


「新メンバー門出の景気づけだ。店の会計はウチが全部持たせてもらいましょう。好きに頼むように言ってください」


 にわかに全体が活気づいた。

 客の中には謝意を示しに来る者も多く、トキがひとりひとりと笑顔で酒杯を鳴らしていく。祝ってくれると嬉しい、そう紹介されたエルレアも激励の声をかけられるなどして、何度も挨拶を返した。

 一段落して、ふと疑問が浮かぶ。客の中には追い剥ぎ志向の者もいたはずでは……と耳打ちするエルレアに、ヴェガも囁いた。


「そういう小物は、こう切符のきれるような相手に下手な手出しはしてこないわ、()()()()に預かれればそれでいいのよ。それに、客の中には冒険者もいるから、私達のメンバーとして、まとめて顔を売ってもらったのよね」


 ああ、()()()()()、というのはこういうことからか。単純にゴキゲンなだけじゃなくって、奢りにも意図があるんだ。どこまで計算だか私にはわからないな、エルレアはそう思いながら、早速そうしてもらったことがむしろなんだか誇らしかった。自分を求めてくれているということなのだ。他にも色々な冒険者はいるのだろうが、自分はこのふたりと一緒にやっていく。酒場の客を見回しながら、覚悟が定まった気がした。




 三人の前にも、名物の煮込みの他さまざまな皿が運ばれてくる。

 黒羊歯亭(くろしだてい)の夜は、明るく和やかに更けていったのだった。

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