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アイリスの花~貴方に贈る一輪の花~  作者: 七海飛鳥
第一部 第一章 ようこそ、グロリオサ学園へ
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ジレンマ

一日目は、クラスメートと話すことなく終了した。向こうはこちらを遠巻きにしているし、僕は僕で何を話したらいいかわからない。結果、誰とも話すことなく一週間が終わった。



「私は分かってましたけどね」

「そもそも猫と例えられるくらい警戒心の高いお方がそう簡単に誰かと親しくなれたら、あの方も貴方にそう言う命令を下さなかっただろうさ」

「それは、そうだけれども」

僕は、普段からよくいる2人に相談してみた。このまま4年が過ぎ去っていくとしか考えられなかったからだ。


「まだ始まったばかりですし、もう少し気長にやりましょう。あまりに性急に動いてもダメでしょう?」

「それは……そうだけれど………」

正論ではある。確かに師匠は、ただ友達を作れ、というならわざわざ命令にしない筈だ。


「そもそも胡散臭そうなやつに人は近づきたくないと思うからなぁ」

「僕って胡散臭い?」

「なんというか、なんとなく心からの笑顔じゃないなって感じがするのが胡散臭さを醸し出している」

「う」

傷付いた。どうもすることのできない範囲を思いっきり刺された……。


「まあ、『白猫』様でも同じだから、今更なんですけれど」

「そんなに胡散臭い?」

「雰囲気イケメンだから胡麻化せはしそうだがな。ただ美形に慣れている奴は無理そうだ」

「師匠からも今まで胡散臭いとか言われたことがなかった」

「あの方は貴方のことがとてもよくわかるので、胡散臭いよりもかわいいとか、そういう感情が勝るのでしょう」

でも、そう言われたところで、直せそうにもない。一応これは幼少期からある根深いものだからだ。


「まあ、頑張れ」

何か突き放されたようだが、仕方ないのだろう。僕はその場を後にした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Rose


「ねえ!見た!?生ヴァイス!」

「ハイハイ、学力試験のところで見たわよ」

「俺はまだだな」

グロリオサ学園の入学試験。そこで私はヴァイスを見た。


「魔術試験で後ろだったの!流石ヴァイスね、とんでもない結果を残していたわ」

「始まったよ、ヴァイスオタクが」

「ほら、次の試験に行くよ」

「ええ~もうちょっと堪能させてよ~!」

「時間ないからダメ」

そう言って、ヴィオレこと紫苑は私を引きずって次の試験に向かった。


ヴァイスかっこよかったな~。あのミステリアスな感じ!迂闊に近づいてはいけない雰囲気がいい!ああ、この世界にカメラあったら、絶対にヴァイスを取りまくるのに!!

いや、落ち着け。落ち着け私。それはストーカーで相手からめっちゃ嫌われる行為。きちんと模範的なファンじゃないと、下手すれば一生関われないかもしれない!



「なんかいたわ。速攻で試験官を負かせたたぞ」

「はあ?!なんであんたが見れるのよ、その雄姿を!」

「そりゃ見れるだろ。たまたま近かったんだし」

「あーあ。私も冒険者になりたいな~」

「家から止められてるんだろ」

そう。ヴァイスが冒険者だから、同じ冒険者ならヴァイスと会う機会が多くなるのでは?!と思い、なろうとしたのだが、お父様とお母様に止められてしまった。顔を青くさせて。

けれどグリューンこと翠が冒険者になったのを聞いて、とても嫉妬している。なんで私はなれないのよ!



「本当に、ローズはヴァイスのことになると突拍子もない行動をとるな」

「昔からでしょ。思ったことには一直線だったじゃない、この子」

「……そうだな」

ヘルブラオこと蒼夜が、呆れ気味に言った。


「まあ、本人に迷惑かけていないだけマシか」

ヘルブラオの言葉に、私以外の皆が賛同したのは言うまでもない。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ああ!一週間が終わってしまった……」

「何で話しかけなかったんだよ」

「だって緊張する」

「俺らの前であんなに言うのは恥ではないのかよ……」

グリューンが呆れたように言う。


「だって、ヴァイスはあんなに高貴な雰囲気を出しておきながら、スラム民なんだよ?『持たざる者』なんだよ?いくら男爵令嬢とはいえ、貴族の私が急に話しかけたら、変に思われるじゃん」

「もうとっくに変に思われていると思うから、今更気にすんなよ」

グリューンが呆れているが、そういう配慮がないのもどうかと思う。


「リュンって『持たざる者』がどういう存在か知らない?」

リュンとはグリューンの愛称である。


「知ってる。ファミリーネームがない子のことだろ」

「そう。親に捨てられた可能性がある子よ。普通の孤児だったら、ファミリーネームがないなんてことないし、あったとしても孤児院にいればファミリーネームをつけてくれる。けれどそうじゃないのは、孤児院にも拾ってもらえなかったという事よ」

「ローズが言いたいのは、それでも生き延びれているってことは、それだけ警戒心が高いという可能性がある、という事でしょ。なのに、スラム民にとって縁のない世界の人物である貴族が何の理由もなしに近づけば、親しくなれるチャンスがなくなっちゃうかもって不安なのよね?」

「そういうこと!」

ヴィオレはやっぱり私の言いたいことを理解してくれる!


「でも、向こうだってお前の視線には気が付いているだろ。それで話しかけないのもより警戒してしまうのではないか?」

「そうなの。明日話しかけようと思ったんだけど……」

「それ意味ねぇだろ」

ヘルブラオの言い分ももっともだ。だから、私もそろそろ話しかけたいなぁって思ってて……。


「休日開けたら俺から話すから。問答無用だ」

「問答無用ですか……」

「これを機に腹くくれ。今のお前はストーカーとあまり変わらんぞ」

「それはやだ!」

「じゃあ、仲良くなって合法的にヤツを見ろ。仲いい友人なら、それだけ見られてもストーカーとか思われないだろ」

「そうだね!たまにはリュンもいいこと言うじゃない!」

「本当に、お前俺の扱いな!」

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