こうして私は
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この世界に転生して数年は、ここがどこの世界かを調べることはできなかった。だって、夜以外は必ず近くに人がいるもん!!人がいる時はこの世界についてあまり調べられないのに、日中はずっとこれだもん!!なんでさ!!まあ、赤ちゃんだからね!仕方ないけれど!!!
ふう、八つ当たりはこれくらいにしよう。
なんと、私は今世でも美少女になりそうなのだ!前世でも結構美少女だったから、今世ではそこまで美少女じゃないかもなぁ……と思っていたら!
当然そう思った理由もある。
一つはうちの両親めっちゃ美形。元々侯爵令嬢だった母さんが一目惚れして結婚を申し込んだくらいにはお父さんはイケメン。お母さんは、学園でお父さんと出会うまで婚約者がいなくても許されるぐらいの美人。
そして、私はお兄ちゃんもいて、お兄ちゃんはお父さんより少し優し気なイケメン!そんな両親の娘であり、お兄ちゃんの妹である私はきっと美少女になるに違いない!
二つ目は、今私は5歳くらいだけど、それでも美幼女なのよね。サラサラなピンク髪、とてもキラキラしている黄色い瞳!
つまり、もうとっくに(見た目だけ)サクセスしてるってこと……!?それはものすごくウェルカム。
「ローズ。今日から勉強しようね」
「はーい、おかあさま」
そしてウェルカムなことがもう一つ……。私は今日から、勉強する!つまり、この世界を知れるという事だ!ここは魔法と剣のファンタジーな世界だから、より一層楽しみ~。
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さて、問題が発生しました。というか、なんで今まで気づかなかったの、私~!
私の頭があほだったことは置いといて、ここって前世で直前にめっちゃハマってたゲームの中じゃない!ピンクの髪に黄色い瞳って、乙女ゲーム『ダイアンサス』のヒロイン、ローズ・ゲルプじゃん!
というか、私の名前ローズだし!!なぜそこで気が付かなかった!!
「ハッ!!」
つまり、私が惜しいな~と思っていた組み合わせ、ヘルブラオ×ヴィオレができるじゃん!わーい!
そして私は推しと結ばれる……!前世でなんかとてつもない善行を積んでいたんだわ!身に覚えはないけど!絶対そう!
という事は、ここもしかして『ダイアンサス』と同じ出来事が起こるんじゃ……?じゃあ、すぐさまヴィオレと仲良くなって、ヘルブラオとカップリングしてもろて、私は学園に入学するまで、ひたすら自分磨き、かな?!
――この世界にヴァイスがいるなんて……。
ヴァイスは他のキャラと毛色が違う。このゲームには隠し攻略対象というキャラはいなかった。でもその代わり、攻略対象に隠し事や悩み事が多かった。特に多いのがヴァイスだが、そのヴァイスは最初、いつだったか紫苑に胡散臭いと言われるくらいには何もわからなかった。
孤高の存在。
最初は少し気になっただけだった。
敬語を使って周りと距離を取る彼の心を知りたかった。
仮面の下に隠された素顔を知りたくなった。
ヴァイスの本当の名前を知りたくなった。
そして――なぜ人を殺す仕事をしているのか、彼の抱える過去を知りたくなった。
私は、彼と過ごす内に彼の秘密を知って、彼の持つ荷物を少しでも肩代わりしたかったのだ。
正直に言うと、ヴァイスの秘密のだいたいを知っている。ゲームでも出てこなかった秘密。それはまだヴァイスがローズをそこまで信用していなかったのだろう。裏設定として闇に葬られた彼の秘密。私は、その秘密も知って、彼を本当の意味で理解したい。
まずはヴァイスに好きになってもらう事から!そして、好きになってもらうには、会う機会を増やさなければならない!そのためには同じクラスに入らなきゃいけないけれど、私はしがない男爵令嬢……。男爵令嬢がSクラスに入ることは常識的に考えてあり得ないこと!
グロリオサ学園は、入学試験の成績で優秀な人ほどクラスが上になる。一番上がSクラスで、一番下がEクラス。大体家で優秀な家庭教師を雇っている家は入学試験の成績もよく、逆にそこそこな人を雇っている家はそんなに成績もよくない。
だからゲームのヒロインは最初Cクラスからのスタートだった。ゲームの進行に応じてS~Eクラスにクラス替えできたが、クラス替えは進級のタイミングしかない。
つまり、最初にSクラスに入ることが決定しているヴァイスとは最短で1年同じクラスになれないという事だ。
結局は、入学試験の成績は金で買える。どんなに公平と謳っている学園でさえも。でも、そう言っているからこそ、入学したら、成績を金で買うことはできない。
男爵令嬢でありながら、ローズがCクラスに入学できたのは、魔術試験の成績がSクラスでも勝てる人が全くいないと言っていいくらい良かったからだ。
それでもCクラス。ヴァイスと同じSクラスに入るには、全てが高水準でできないと話にならない。男爵令嬢が入学時点でもう既にSクラスだった前例は一度もない。私が作らなくては……!どこぞの誰かが「恋は盲目」と言ったみたいに!
私はやり遂げる!
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「くしゅん」
「大丈夫か?風邪、か?」
「大丈夫。なんかちょっとな鼻がむずむずとしただけだから。誰か私の噂でもしているのかな?」
「まあ、噂にならない方がおかしいだろうな。俺とお前が婚約したから」
「それは確かに大ごとね。世間にとっても……私たちにとっても」
青髪の少年と紫髪の少女が仲良く話していた。その年に見合わない大人びた口調は、昔からの知り合いのようだったが、実際に二人が出会ったのは、つい一週間前だ。
「まさか、こうなるなんて……」
「でも、こうなってよかったのかもな」
「そうね。赤の他人よりはずっとマシ。――私は、あなたのことを信じているから」
「俺もだ」
「ヘル、あの二人は……」
「どうせ、転生先は決まり切っているだろ。あそこじゃなければ、転生していない」
「そうね!」
「ヴィー。俺は絶対に、お前を破滅させない」
「信じてるわよ」
二人の手は、強くつながっていた。