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アイリスの花~貴方に贈る一輪の花~  作者: 七海飛鳥
第一部 第一章 ようこそ、グロリオサ学園へ
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実力試験にある穴

次で最後の試験だ。

実技試験は、学園が用意している武器の中から好きな殺傷能力のない武器を一つ選び、試験官とタイマンで勝負する試験だ。

魔法は使わず、純粋な身体能力だけで戦う。


制限時間は5分。場外、武器破壊、戦意喪失、戦闘不能と審判が判断すればそちらの勝利となる。


ということは制限時間を迎える前に試験官に伸されてしまうこともある。試験官はそれなりに手加減はしてくれるが、遠慮はしない。

まだ、先天的な才能に大きく左右される魔術試験よりも優しいのは事実だ。試験を受けていた受験生が次々と担架で運ばれていくのに目をつぶれば、の話だが。



「よろしく頼む!」

緑髪の青年が大声で叫ぶ。彼は大剣を選んだようだった。


彼の試験を見ていると、彼は自分と同じくらいの大きい武器を器用に振り回して相手に攻撃したり、反対に相手の攻撃を防いだりしている。

他の受験生は見るに堪えない惨条ではあったが、彼は試験官といい勝負をしていた。


大きな歓声がしたのでそちらを見ると、あの緑髪の青年が試験管を倒していた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「次!」

僕の番がやってきた。僕は、ナイフを選んだ。戦い方的に今ある武器であれば、ナイフが一番戦い慣れている武器にそっくりだったからだ。


「そんなのでいいのか?ほかの者は剣とか槍とか使っていたが。ナイフは弱いぞ」

「これで行きます。僕はこれで慣れているので」

そう言う試験管の武器はロングソードだ。


「そうか。では、試験を開始しようか」

そう言うと、先程までとは比べ物にならないくらい早くて重い。


「なぜ、僕だけ難易度が上がっているんだ?」

「何をわかりきったことを。当然、SS級冒険者だからに決まっているだろうが」



――師匠、なぜわざわざSS級冒険者の顔で学園に通わせたのですか?目立ってしょうがないのですが。



心の中で師匠に対しての恨み言を吐くも、目の前の状況は変わらない。

5分なんて、耐えれそうにない。できれば耐えたいのだが……。

僕の消極的な考えを感じ取ったのか、相手は更に攻撃を激しくする。


右上から振り下ろされた剣をナイフで軌道を逸らして避け、真横に薙ぎ払われた剣はバックステップで躱し、真正面からの突きは体制を低くし、相手の懐へ飛び込むことで避けつつカウンターを食らわす。


激しく戦っているようでその実、僕は攻撃を躱し続けているため、試験官にダメージが蓄積される。


SS級冒険者は国に一人いるかどうかなくらい少ない。目の前の男も、よくてA級届くかどうかの腕前しかない。


つまり、あまりに早くに倒したら注目されることは間違いない。



「降参」

「はい?」

「降参しまーす」

「試験管、降参。よって受験者の勝利!」

「え、ちょ」

まだ制限時間の半分も過ぎていない。いくらなんでも早すぎる。


「まだやりたいのか?でも、俺はいくら逆立ちしたところで、お前には勝てない。これ以上は時間の無駄だ」

「……」

正直、ぐうの音も出ない。恐らくは、僕が手加減をしていたという事もわかっているのだろう。

僕は苦い思いを隠しつつ、爽やかな笑みを浮かべた。


「ありがとうございます」

「ああ、入学を楽しみにしているぞ」

「……」

受験生の中でどよめきが起こった。僕はその中をすっと抜けていき、師匠にどう文句を言おうか問う算段をしていた。


それは現実逃避も兼ねている。入学したら、色々と騒がしくなることは決定事項になってしまった。


入学試験の成績は貼り出されることはない。そのため、学力試験でどんなに高い点数をとっててもある程度は隠すことができる。

魔術試験は目撃者はいるし、ある程度は話題になるだろう。だが、試験官はともかく生徒の方は直前に眩しい光で目を潰されていた。ほとんどの受験生の目が回復する前に結果を出したため、話題になったとて、気にするほどでもない筈だ。


だが、これだけ生徒がいる状況なら、もし目立つことをすれば必ず話題に上るだろう。

例えば、2分くらいで試験官を倒した受験生とか。


そもそも実力を隠しやすい表の身分なんていくつもあるのだから、そのうちの一つにすればよかったのに、なぜ冒険者の身分なのか。命令された身である以上、命令を破るつもりはないが。


何がともあれ、入学試験は終わった。ギルドに帰って溜まっている筈の書類仕事に打ち込むとしよう。



さて、問題を起こした部隊の処罰の内容は、とりあえず謹慎が無難か……。でもあそこは何度も問題を起こしてきたからな……。もう一段階は厳しくてもいいだろう。


後は、宰相の弱点を探って欲しいという依頼については、その依頼主の名を宰相にリークして終わりかな。どちらを選ぶかは火を見るよりかは明らかだし。


それと、見習いの強化訓練も必要か……。それの予算案にも目を通さなければならない。


頭を本格的に抱え始めた僕の後ろには、とある令嬢の影があった――。

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