SS級冒険者
――試験当日
僕は、師匠が予め手配していた受験票と共に受験会場へと向かった。
師匠からは、方向音痴で試験に遅刻しないように口を酸っぱく言い含められていたので、事前に道を覚えた。
どうしても、道を覚えることができなかったため、最終的には屋根の上を使ったが。
「ここか」
馬車が長い行列を作っていた。だが、その中に僕のように徒歩で来た者はいないようだ。
それもそうだ。グロリオサ学園は由緒正しき学園だ。貴族が多く通う学園で、馬車で来れない平民が入学したいと思う事の方が少ないのだ。
グロリオサ学園の入学試験は大きく三つに分けられる。
一つ目が筆記試験。ここアベリア王国の歴史や魔術理論、地理や数学など、バラエティの富んだ科目の学力試験だ。
二つ目が魔術試験。魔力量の多さと適性の強さを見られる。
三つ目が実技試験。武器を使って実際に試験官と戦い、魔法に依らない戦闘力を図る試験だ。
僕は、一週間前に突然師匠にここに通うように言われたため、普通なら何年もかけてこの入学試験に備える筈が、何もしていない。
僕はこの国で最も大きい闇ギルドのギルドマスターなため、この国の歴史など、貴族が普通に学んでいることに加え、それ以上のことも習得している。
そのため、グロリオサ学園がこの国の最難関の学園でも、受かる自信はあるが、その時まで僕は闇ギルドが経営している学園に通うものだと思っていた。
「貴族が多い学園なんて、煩わしいことこの上ないというのに……」
正直、あまり気乗りしていない。元々僕が通う予定だった学園は、まともに通わなくとも卒業はできる。所謂裏口卒業というやつだ。裏社会の人間なら、そういうことはよくあることだ。
「貴族と今更交流を持って何になる。うちは、貴族からの依頼も多いというのに。そもそも依頼が多すぎて人手が回っていない状況なのに、更に依頼を増やしてどうするつもりだ……」
「おい!どこ見て歩いてんだ!」
あまり前を見ずに歩いていたからか、前から歩いてきた貴族に面倒ないちゃもんをつけられた。
いきなり騒ぎ立てる、典型的な貴族の坊ちゃん。面倒ごとの予感しかしないため、無視してその場から立ち去ろうとした。
「お前だよ、そこの仮面野郎!この俺様にぶつかるなんてな!!」
「僕ですか」
「そうだ、お前だ!俺様はお前にぶつかられて怪我をした。ほら、どうしてくれるんだ?」
ハァ、情けない。そもそもすれ違いざまに肩すら触れていないというのに、どうやって怪我を負わせることができるだろうか。
「僕がやったという証拠は」
「は?平民風情が偉そうに……!証拠など、この俺様がやられたと言っているのだから十分だろう!」
「先程から、僕を平民だからと見下しているが、これを見ても何か言えるか?」
この押し問答が長引くほど、無駄な注目を集めてしまう。僕はSS級冒険者であることを示すオリハルコン製の冒険者カードを相手にしか見えないようにして示す。あまり権力を誇示するのは好きではないが、こういう輩には一番効く。
「は、これがどおし……SS級冒険者?!」
騒ぐことは目に見えていたので、闇魔法《静寂》をかけ、情報が漏れないようにした。
「この出来事は忘れろ。でなければ……」
「わ、わかりました!いちゃもんつけて申し訳ございませんでしたあああぁぁぁぁ!!!!!!」
そう言い、走ってこの場を後にする男を見て、僕は溜息を吐いた。
「全く……。やっていることがスラム民と全く同じなことに気づいていないのか……」
「まずは、学力試験か。……一人だと迷いそうだから、人の流れに沿って行こう」
意地を張って試験を受けれませんでした、ではお話にならない。一旦僕は、自分がちょっと方向音痴であることを認めた。