喪失の始まり/start to Lose my memory
様々な建物が立ち、沢山の街灯が街を照らし、人は人とぶつかりながら通る、この街はいつも明るい。
空を見渡すと、満月が出ていると言うのに街がその光を目立たなくさせている、現代。
「今日も、何もないな」
僕、黒島涼は日々刺激に欠ける生活を送っていた。彼女は居るが、、、、
「涼、一緒にまたデート行こうね」と言い腕を組んでくるぐらいには、僕にべったりだ。
僕の、唯一に支えは彼女、鳥居咲だ。こんな、僕に刺激を与えてくれる存在。今の僕は、彼女が居ないと刺激がなさすぎて、廃人になってしまうと思う位だ。
「また、明日」といい、別れる。
そして、家に帰ると、何もない殺風景な自分の部屋が広がっている。
「退屈だ。とりあえず退屈しのぎの睡眠でもとるか〜。あ、これまた、お母さんからだ。」
僕の出身は田舎で、上京して都会の学校に進学した為に母から、定期的に物資が送られてくるのだ。
荷物とともに手紙が添えてある。そこには
定期的に、顔を出しにきてね。お父さんも、もう怒ってないだろうから。
僕が、都会の学校に進学した理由は、とにかく父と離れたかったからである。
「今考える必要はないだろう。後で考えれば良いや。今は寝よ。」
パッジャマに着替え、歯磨きをするために洗面台に向かうとき酷い頭痛に襲われた。目眩がして、意識が飛んでしまっていた。
次に起きたときには、驚く事に病院だった。記憶はないが、マンションのエレベーターの前で力つきたようだった。考えていると、白衣に身を包んだ、中年男性がやってきた。
「貴方誰?」
「起きましたか。私は、主治医の斉藤と申します。あなた様の治療を担当させていただく事となりました。」
「で、治療って事は病気ってことですよね、僕の病状は何だったんですか?」
「大変申し上げにくいのですが、新型の難病で、記憶の喪失から始まりいずれ、死に至る病気です。」
死ぬと聞かされ、焦ったがみっともない姿を最後に晒すなんて、嫌だったので堂々とする。
「そうだったんですか。僕の寿命はどれくらいなんですか?」
「これも、大変申し上げにくいのですがあなた様の寿命は、一年と半年です」
そういう、医者の声は震えながらも申し分けなささみたいなものを感じた。
「親と、彼女に連絡しても良いですか?」
「良いですけど、必ずどちらかには来てもらって下さい。伝えたい事があります」
「分かりました」
親とは、仲違いして上京したため電話したくなかった。なので、彼女に連絡する。
「咲、僕もう長くない。」
「どうして?」
「難病が発症して、余命一年半だって、あと呼ばれてるから、病院まで来て。」
「冗談でしょ。病院に運ばれたからって嘘つかないでよ」
少し黙ると、察したのか
「嫌だ、なんで涼が死ななきゃいけないの?、ねぇ、どうして、どうして」
今にも泣きたそうな、声で咲が話している。
電話を切ると、咲の対応で寂しくも感じてしまっている。
その後、咲が到着し、主治医の個室に案内される。
咲はというと、泣きはらした顔で、僕の話に全く気を向けてくれない。
「始めさせていただきます。病名は、新型難病Ⅶ型であり、さっき説明した通り、記憶障害から始まり、記憶を失った後、死に至る病気です。」
「それは、分かったですけど、涼の病気を治す方法はないんですか?」
「今のところはまだ」
「でも、今回咲まで、呼んだ事には訳がありますよね?」
「その事なんですが、議会がこの病気を発症した人のみにですね、時間旅行をする権利を与えると言う事を決定させたんです。」
「時間旅行?そんな事出来るんですか?」
「まだ発表していない機密事項ですが出来ます。コンセプトは『最後に未だかつてない思い出を』だそうです。そして、彼女さんを呼んだ理由は、基本的に障害を持った人が、途中で記憶を失って帰れなくなる事を防ぐために身近な、人を旅行に連れてってもらっているんです。」
「そうなんですか。で、いつからなんですか?」
「それはあなたが決める事です。やり方については明日改めてお伝えするので、また来て下さい。今日のところは以上です。」
個室を出て、咲に話しかける。
「なんか、ごめん」
「涼が謝る事じゃないよ、今度の時間旅行楽しもうね。」
「無理して、行かなくても俺一人で行くし、咲を巻き込めないよ」
「いいよ、私が行きたくていくんだから。気にしなくて良いよ。親にも言っておく」
「何か申し訳ないけど、これから一年半、頼んだよ」
「涼、宜しくね」
そういう彼女の顔は、涙が滴っている。そして、その涙は西日を反射して彼女の顔を美しく際立たせている。
「おいしいご飯食べにいかない?」
「いいよ、涼のおごりね」
「これから、一年半付き合ってもらうから良いよ」
「やった、ありがと。」
これから、どんな事が待ち受けているのかこの時の僕は知らなかった。