ニ
続き……
揺れる足場など私の敵では無い!
シュッシュッと軽く飛び移り、次々と突破していく。
「最後99人目のフユちゃん、まるでダンスのステップでも踏んでいるような軽やかな足取り! この体力試験を合格したのは僅か15人。16人目の合格者になれるでしょうか!」
司会者の声が聞こえるけど、なれるでしょうか! じゃなくて絶対合格するのよ!
ロープを持つ手に力を入れる、落ちるもんですか! 次の平均台まではここを登りきらなければならない。
「おぉ! これは凄い。今回の体力試験最速記録だー! 残すは平均台のみ」
スーハースーハー……よし。平均台を駆け抜けるわよー!
トンッと小さくジャンプして助走をつける、目指すは50メートル先のゴールだ。
10……5…3,2,1…
「ゴーーール!! やりました! これで知識試験へ進めたのは99人中16人。
合格した受験者の皆さんは次に備え一度、控え室へ戻ります」
会場の大歓声が聞こえる。まずは体力試験合格。次は知識ね、
「やったわね。お互い次も合格しましょう」
ポカーン美少女のニーオさんに肩を叩かれて、お互いの合格を喜ぶ。
「まぁ! あのトレ殿下に申し込みしたのはアナタね。呪いの事すら知らずにここへ来るなんて、おめでたい頭ね」
うちわで口元を隠すチビッ子。えーっと……誰?
「今、アナタ私の事こどもだと思ってバカにしたでしょ!」
うん。バカにはしてない。でもチビッ子だとは思った。
「これでも16歳なんですからね! 何よ、少し胸が大きくて、腰がくびれているからって! 私だって…私だって! まだ成長期なんだからね!」
うちわを向けられても、チビッ子にしか…… え?16歳?
「同じ年……」
「あらあら、オッタじゃない。チビッ子が何しに来たのかしら?」
私の同じ年のチビッ子と、ニーオさんは知り合いらしく。二人でギャーギャー騒いでいるが、真ん中に私を挟むの止めて欲しい。
「この厚化粧! そろそろエット殿下を諦めたら?」
「ホホホ。断崖絶壁の幼女をフェム殿下がお相手するとも思えませんが?」
おぉ。乾燥とうもろこしを持っていたら、美味しいポップコーンが作れそうなほど。バッチバチの熱い火花が散る……
いや、マジで熱いんだけど?
「南国にたて巻きロールは似合わない!」
シュボ!!
「チビッ子は氷ガリガリ食べていれば良いのよ!!」
ピキッ!!
これは、魔法かい? ねぇお二方。私の存在忘れているよね?
「燃えてしまえ!」「凍ってしまえ!」
パチコーーーン!!!
「殺す気かぁぁあぁぁーーー!!!」
二人の後頭部を思いっきり叩き、自分の命を死守する。
「「何するのよ!!」」
「フフ……フフフフ…。もし二人のせいで婚約試験へ出られなくなったら、夜中に忍び込んでネッパー神と同じ髪型にしてやる……」
※説明しよう。
アッチィ共和国の国教であるネッパー教。
共和国民はネッパー神へ毎朝、祈りを捧げるのである。
島々が集まって出来た国だが、ネッパー信仰はどの島でも共通しており、アッチィ共和国は宗教問題も無い。
ネッパー神。豊かな髪、強靭な肉体、意思の強い眉毛(一本に繋がっている)、素敵なポーズ(サイドチェスト)とても個性的なお姿なのだ。
説明終わり。
ジロッと二人を見ると、ガタガタ震えながら抱き合っている。あれ? いつの間に仲直りしたのかな?
「「ごめんなさいぃぃぃ」」
「仲良しが一番よね」
にこりと笑えば、コクコク頷いた二人。
ふと、控え室をキョロキョロ見ると99人から16人になりガラーンとしている。私達三人以外は皆さん机に向かい必死にペンを動かしていた。
ヤバい。次は知識試験だった。
カバンから問題集を出してギリギリまで勉強しなきゃ。
いくら違う皇子へ申し込み書を出したからと言っても、最終試験へ行けるのは上位5名。負けられない戦いだ!
両隣の二人も、ハッとして問題集を出す。控え室はペンの音しかしない。
暫く、そうしていると、ガチャリと扉が開いた。
「次の試験を始めますので、受験者は会場へ移動します」
扉を出る時、係員から受験者専用帽子を受け取り、カポッと被る。風で飛ばされないように顎ヒモをキュッと締めれば、準備完了。
よし! 必ず合格するぞ!
******
「さぁ、皆さん次は知識試験が始まります。現場のフォッティさん、皆さんの様子はどうでしょうか?」
「はい。こちら知識試験会場では、皆さん帽子の早押し○ボタンチェックをしております。ボタンを押す度に帽子から○がピコンと飛び出しております。皆さん聞こえますでしょうか?
《ピンポン、ピンポン…》
皆さん、真剣な表情で私もあまり大きな声を出さないようにしております。現場からは以上です。司会のティオさんへお返しします」
「フォッティさん、ありがとうございます。いよいよ知識試験の開始になります。会場の皆さん、では、カウントダウンをご一緒に! 5・4・3・2・1・始め!」
「問題です。我がアッチィ共和国のしゅ…
ピンポン。
「ノル島!」
「オンセさん、不正解。一回お休み、問題を続けます。
我がアッチィ共和国の宗教は」
ピンポン。
「ネッパー教!」
「フユさん。正解です」
20問正解で早抜け、それが終われば5問連続正解しなければ逆バンジーで、最後尾に回されてしまう。
「オッタさん。不正解。逆バンジー始め」
「ギャーギャー…」
白熱する試験会場。観客のボルテージは上がり、気温も上がる。
「次はフユさん。連続5問正解で合格です。では、第1問…」
まだ、合格者はいない。両親とツーセン島の皆が見守る中、私は女性出題者の声に全神経を集中する。
逆バンジーへの挑戦権は3回まで、既に二人脱落していて私の前に居たニーオさんも一度目は、空高く打ち上げられていた。
ギュッとゴムを握りしめ、1つ1つ丁寧に答えて行く。
出題者の声が、「正解です」と告げる度に会場が固唾を飲む。
「最終問題です。ネッパー神の特徴を2つお答え下さい」
「豊かな髪型はアフロ、素敵なポーズはサイドチェスト!!」
「………………フユさん。正解です。知識試験はこれで合格になります」
ワァー!! おめでとう!!
逆バンジーのゴムが外されて、フラフラする足に力を入れる。やった……トップ合格だ…
「知識試験トップ合格は、なんとフユさん! 彼女はあのトレ殿下へ申し込みをした唯一の受験者です。現場のフォッティさんフユさんへインタビューお願いします」
「はい! こちら知識試験ゴール地点からお伝え致します。フユさん先ずはおめでとうございます」
「ありがとうございます! ツーセン島のみんなから学んだ事が実を結びました!」
「この次は魔力試験になりますが、意気込みをどうぞ!」
「もちろん! 次もトップ合格してトレ殿下の婚約者の座を必ず手に入れてみせます」
「気合い十分ですね。フユさんありがとうございました。現場からは以上です。司会のティオさんへお返しします」
試験はまだ続いているけど、フフフフ…やったわ! 体力・知識試験を合格よ。次は魔力試験、絶対合格してやる。
先に控え室へ戻る為に、試験会場から抜けると1人の女性?
「フユと言ったかしら? あんたトレ様の呪いをちゃんと理解しているの?」
広い肩幅、ネッパー神のような筋肉質な身体が分かる服は、ピッタリ張り付いたボディーコンシャス、そして……
「ギャー! 魔神だぁぁあぁ!!」
なんと言う事でしょう。
バッサバサに付けた付け睫は軽く風をおこし、真っ赤な口紅は大きな口をより大きく際立たせ、頬にのせたチークはグルグルほっぺ。極太アイラインと紫色のシャドーで瞳を大きく見せているが、つぶらな瞳である。
「ま、ま、魔神じゃないわよーー!!!」
長い髪をバッサ!と背中へ流した魔神が私に近づく。ヒィッ。コワッ!
「あんた、私のトレ様と本当に結婚出来ると思ってんの? 」
フンッと私を見下す魔神。
「もしかして、あなたが女装の魔法使い?」
「あら? 少しは知っているみたいね。そうよ、私が魔法使いのベラ。トレ様の妻になる女よ」
魔神妻……なんかネーミングだけはカッコいいね。しかし!
「私だって、トレ様の婚約者になる為に努力したのよ! 絶対に魔神妻になんかさせないんだから!
でも、私が16歳になるまでトレ様に婚約者が居なかったのは、魔神の呪いのおかげよね。魔神には感謝してるのよ」
「ッ、魔神じゃなくてベラよ! 何、魔神で定着させようとしてんの! 本当に嫌な女ね」
「魔神……ですよね。だって、ヒィー!!って返事する真っ黒な全身タイツを着たシモベがいそうだもん」
「それは、魔神じゃなくて怪人よ!」
「フフ…魔神はツッコミ上手です。カンサーイ島へ営業に行きましょう」
「あんた何なのよ! いいわ、せいぜい婚約試験を頑張る事ね。トレ様の呪いを解くのは私しか出来ないのよ」
オホホホホー……
魔神は高笑いをして消えてしまった。
それにしても、呪いかー。どんな呪いか魔神に聞けば良かったのに、うっかりしてたわ。
続く……