第8話 生かしておけない
本を馬車に置き、ボクは散策の続きをする事にした。
久しぶりに宿に泊まりたい……それと、最近ずっと非常食ばかりだったから、美味しい物食べたい!
腹が減ってきたので、ボクは地図を見て、良さげ料理店を探した。先程の図書館でのように、【使者】は目立つので馬車の中で、待機させた。
「ごめんね、使者」
ボクは【神父】と共にラーメン? という料理を売りにしている店へと向かった。初めて聞いた料理で、興味が湧いたのでこの店にした。
店は木造の小さな店だったが、客が沢山いて混んでいる。人気なのだろう。ボクは最後列に並んだ。
店の外には、見た事のない文字が書かれている、看板が立っている。多分店の名前だろう。
看板の横にはラーメンについての説明が書いてある。
ラーメンとは異世界の料理で、この店の店長も異世界人らしい。
異世界人とは勇者になる素質がある者で、上光国、下光国にしか伝わらない勇者召喚魔法で呼び出した者達。上光国と下光国にこれがなければ、植民地になっているらしい。これは光の神様への感謝祭で、神父と共に祈りをした時に知った事だ。
そんな事よりもラーメンだ。
ラーメンの魅力は様々な味を掛け合わせて、美味しいだし汁や、柔らかいお肉に、麺の程よい噛みごたえを楽しめるという物、と紹介されている。
これを見ただけでよだれが垂れる。
ぐぅ~~
お腹が鳴った。早くラーメンを食べたい……。
ボクは何故かお腹が減りすぎて、【神父】に支えてもらった。
「お、お嬢様ちゃん大丈夫かいな?」
ボクの前にいたおじさんがボクを心配する。そして、周りの人もボクの様子を見て、心配し始めた。
お腹が減っているだけだよ……。
変な事で目立ってしまった。ボクは【神父】に支えるのを辞めさせた。
「だ、大丈夫です」
「そうかい、辛い時は前譲るで。お前さん初めてやろ、ワシがここに初めて来た時もラーメンの想像だけでお前のようなっとたで」
「そうですか……」
「ラーメンを待つの地獄やろ? 皆お前さんと同じ気持ちや。あの1杯の為に命かけてるで、ラーメン並びは戦や! そしてな……」
何故かラーメン並びについて熱く語られたが、まあ、それについて深く考えるのは辞めよう、うん。
語られながら、時は過ぎていき、やっとラーメン店長の中に入れるようになった。
「い、戦に勝った! やった!」
自分の番になったので、つい叫んでしまった。
メニュー表を見て、とりあえずおすすめと書いてある醤油ラーメンを頼んだ。メニューを聞きに来たのは黒髪のお姉さんで、この世界に来てから初めて黒髪の人を見た。
しばらくすると、ラーメンが運ばれてきた。とても香ばしい匂いがする。
ズルズルズル……
ラーメンの食べ方がよく分から無かったので、他の客の食べ方を真似しながら、啜ってみた。
するとスープの旨みと温度が口の中に広がり、身体中を温め、そして、麺の程よい食感。これが交互になってボクを満足させた。
美味しすぎる~!
ボクはラーメンをすぐに食べ切り、次へと次へと頼んだ。
***
「お、お腹がいっぱいだぁ~!」
食べ過ぎて、ボクは神父に抱えてもらっている。恥ずかしいが、仕方ない。ラーメンが美味し過ぎるのが悪い。
ラーメンを作れるお友達が欲しいなぁ、あの店の店主とか隙あらば、お友達にしよう。直接親友コース!
沢山食べて、眠いがやる事はやらなきゃいけない。共通試験の日程を聞けていなかったので、また図書館に行く事にした。
先程とは違い、人が少なくなって、今なら要項を詳しく見れる。特に実戦の基準や対戦のルールも確認しなければいけない。
共通試験の日程は4月1日で、入学手続きは4月5日、入学式は4月8日だ。
共通試験の実戦は学院によって違い、ミーナ学院の場合はLv20程度の魔物と戦うらしい。評価基準はダメージトレード、タイムの2つだ。
ミーナ学院の入学費は1年で100金貨だ。そして、学院は3年制らしい。
これで受験について欲しいデータは全て手に入った。
図書館を出ようとした時だった。見覚えのある連中と出会したのだ。
この前出会った令嬢と少年、白いローブを着た魔術師――今はフードを被っていなくて、その素顔は20代半ばに見える女性だった。
最悪な再会だ。しかし、奴らはボクを見ても何も反応しない。
そうか、ボクはあの時と違って服も変えてるし、髪型も変えてるからか。
奴らはボクの視線に気付いたのか、声を掛けてきた。
「お嬢ちゃん、どうかしたか?」
魔術師が声を掛けてきた。もちろんボクは少し後退した。ボクは魔術師を対象に魔力探知を使った。Lvは62、Fatherよりも強い。
「!? まさか!」
青年はボクの正体に気付いたようだ。そして、魔術師も令嬢もボクの正体に気付いた。
【神父】がボクを庇うように前へ出る。
「お前、まさかここにいるとはな……しかし、お前軍の魔術師ではないようだ。神官か?」
どうやらボクを神官だと勘違いしているようだ。【神父】が隣りにいるからか。
「違う、逆に君は何なんだ、どうしてこんなにも強い」
ボクは最大限の警戒をした。Fatherよりも強いなんて、ボクには想像がつかない。
「私はミーナ公爵家当主、スカーレット・ミーナだ。そんなに身構えなくても良い、ここでは手を出さない、それではお前は何なんだ?」
「ボクか……ボクはね、旅人みたいな者だよ、どの組織にも属していないさ」
「なるほど、旅人か」
「今ので信じたの!?」
「私は天性のカンがあってな、人の善悪や本質、過去を大まかに見抜けるのだ。ちなみにお前は何故か善だが、怯えているな……嘘に」
え? ボクの本質、ボクの……
「死ね」
【神父】が切り裂く聖剣と浄化する聖剣を同時に出して、魔術師に切り掛る。しかし、魔術師の何かの魔法によって、【神父】は拘束され、身動きが取れなくなった。
ボクの本質、ボクの……、それを知る奴は生かしておけない。
「禁術・蛇」
ボクの右腕全体から血が流れる。その血がドス黒い棒状の物に変わり、高速に分裂して、蛇となって、魔術師に襲いかかった。
ボクのLvは31だが、禁術系統の魔法は奪ってきた命の数だけ強くなる。それが間接的でも、ボクが本心からこれはボクが殺したと自覚すれば問題ない。
禁術は使用条件が重く、副作用も重い。弱い禁術ならば副作用は軽いが、強い禁術だと万全の状態じゃないと自身が死亡する場合もある。そして、強い禁術程、特定の使用条件がある。
ボクの使用した禁術・蛇はボクの心の傷をトリガーに発動出来る。代償は腕一本。
魔術師は魔法で防御を試みるが、全て蛇によって溶かされていく。
「えげつない魔法だ、な!」
魔術師は剣を持った。その剣は禍々しい黒色のオーラを放っていた。
その剣で蛇を切ろうとするが、剣の刀身が溶かされた。
「おいおい、この剣、一応魔剣なんだけど、マジかよ」