第6話 勝利
「切り裂く聖剣! 穢らわしい魔族共を切り裂いてください」
神父は何かのスキルで剣を出し、それを振った。
ファァァン!
振った直後、無数の斬撃がウーノに襲いかかり、素早さが取り柄の彼女でも避け切れなかった。
それを食らってウーノは腕を1本落とすが、その隙にドゥーエが神父に殴りかかる。
「無駄です。聖域!」
神父の周りに光の壁が出現し、ドゥーエの殴りかかった方の手はそれに当たり、燃えてなくなってしまった。
やはりLv30では相手にならない。
神父のスキル1つで、ウーノとドゥーエは神父に近づけなくなった。
「弱い癖に無駄に攻めてきますね。実力差を分かっているんですか? ん? 見えざる壁が解除されたようですね、この魔族達は君の手下ですか?」
神父がこちらを睨んだ。ボクはドキッとした。
今攻撃されると何も出来ない!
「まあ、良いでしょう。心は汚くても、見た目は美しいのですから」
せ、セーフ。
神父は再び戦闘態勢に入る。
ウーノとドゥーエに加え、【使者】が参戦した。そして、トレが怪我したウーノとドゥーエに対し、回復魔法を使い、癒す。
「ヒーラーですか、厄介ですね」
戦闘の基本は一番厄介なヒーラーから倒す、常識だ。もちろん神父もそれを分かっているようだ。
「早く片付けますよ、浄化する聖剣! はぁ!」
神父は先程の剣に加え、新たにもう1本剣を出した。それは剣なのに刀身が実体ではなく、光になっていた。
【使者】が槍2本を使ったタイムラグなしの連撃を神父に対して、行った。
「このゴーレムも厄介ですが、まずはヒーラーからですね。見えざる壁」
神父は【使者】の攻撃を避け、壁で【使者】を閉じ込めた。その隙にウーノとドゥーエが神父に対して攻撃を仕掛ける。
「邪魔です」
片方の剣から斬撃を繰り出しウーノを引かせ、もう片方の剣でドゥーエを真っ二つにした。
「ドゥーエ!」
それを見て、心が傷んだ。
人形の最大の強みは明確な死がないという事だが、親友があんな状態になれば悲しくなるのも必然だ。
今のボクには見ている事しか出来ないのが辛い。
トレは【使者】を囲んでいる壁に対し、解呪の魔法を使い、ドゥーエに対し、回復魔法を使った。
【使者】を囲んでいた壁は無くなり、ドゥーエも元通りに戻った。
「鬱陶しいですね。魔族の癖に連携ごっこですか、聖域!」
神父の周りに光の壁が出現した。トレの方に向かって走る。しかし、【使者】は光の壁を無視して、神父にまた連撃を仕掛ける。
神父の使っている聖域というスキルはどうやら【使者】に効き目が薄いようだ。それもそうだ、【使者】は鉄製であり、半端な炎が効く訳ない。
「邪魔なゴーレムだ、お前から片付ける」
神父はとてもイライラしているようだ。
【使者】の連撃を神父は剣でいなしながら、斬撃でじわじわダメージを与える。しかし、トレの回復のおかげでほぼ無傷だ。
剣で迎え撃つという事は、神父の壁を出すスキルには制限があるという事だ。
ほぼ無傷な【使者】を見て、神父は焦りを感じたのか、強引に光の刀身の方の剣で【使者】を斬る。
【使者】はそれを受けて、片腕が無くなったが、もう片方の手で槍を神父の腹を貫く。クリティカルヒットだ。
「くそぉ、忌いましい! ヒール!」
神父は自分に対して、回復魔法を使った。【使者】もトレの回復魔法を受けたが、如何せんLvが少し離れており、回復が遅い。
しかし、神父も余裕はなく、スキルの使いすぎでもう魔力があまりないように感じる。
だから、光の壁はもう無くなった。そこにドゥーエが殴りかかった。
神父は剣を降って、斬撃を出して迎撃した。
斬撃を大量に受けて、ドゥーエの攻撃が止まったが、神父がこの斬撃を彼女に対して使ったのは間違いだ。
ウーノが神父に向かって攻撃する。神父はもう片方の剣でウーノを向かい打つが、この剣ではウーノに対応出来ない。
ウーノは神父の背後を取って、背中を切り裂いた。
「くそぉ!」
神父は即座に後ろを向いて斬撃を放つが、前から【使者】が槍で神父の頭を貫いた。
神父の頭から血飛沫が飛び、膝から崩れ落ちた。
【使者】が槍を抜き、神父はその場に倒れる。戦いは勝利に終わった。
トレはすぐにボクに対して解熱魔法をかけた。すると、すぐに身体は楽になって動けるようになった。
「ありがとう、皆。おかげで助かったよ」
やっぱりボクは孤独じゃない。
ボクには沢山のお友達たちがいる、ボクは幸せなんだ。
***
トレが神父の死体を綺麗に修復して、馬車に運んだ。修復するのはネームドにする為に完璧な死体が必要だからだ。
神父は親友を傷つけたが、戦力を考慮してお友達にする。
【Father&Mother】は、拠点の防衛の為に拠点にいて欲しいので、神父のような強者は特例でお友達にする事に決めたのだ。
ボクはおっさんの死体を探したが、おっさんが壁となった所には灰しか残っていなかった。おそらく光の刀身の剣で跡形もなく、燃やされたのだろう。
とても残念だ。ボクに惚れたと言っていたし、よっぽどボクのお友達になりたかったのだろう。
まあ、お友達になれなかったのは残念だけど、別に悲しむ必要は無いかな~お友達じゃないし。
そんな事よりも神父をネームドにする事の方が大事だ。ボクは先程のピンチをも忘れ、新戦力にワクワクした。
ネームドにするのは親友や家族だけだと決めていたが、この世界では戦力が不十分な為、これからは戦力の高いお友達も特例でネームドにする事に決めた。
ネームドにするメリットはスキルが受け継がれる事だ。普通の人形はスキルを持たないのだ。
早速準備を始めた。人形の町から持ってきた各種人形造り用のアイテムを出した。そして、人形の脳を用意した。
村人達に気付かれないよう、村を少し離れて作業着に着替え、作業を開始した。
まずは生成で鉄を作り、それを分解で神父の死体サイズの骨になるように削る。
鉄を生成分解するのには魔力を結構消費してしまう為、魔力回復薬を飲んだ。ほとんどの回復薬は効果が薄いが、この作業分の魔力を時間をかけてならば、回復するのには問題ない。
「禁術・屍化」
そして、特殊な魔法を使い、神父をゾンビとして生きかえらせた。ゾンビとして生きかえらせるのは、この次の作業で神父を燃やす為、死体が燃やされて、魔力が消えるという事態を起こさないようにするからだ。
次にそれを燃焼の魔石で燃やした。そして、トレが回復魔法をかける。
すると、ゾンビはドロドロになった。ゾンビは苦しそうにした。ボクは手袋をはめて、ゾンビの身体に手を突っ込んで、内臓や骨を無理矢理、中から取り出した。
その次に、先程作った骨を神父の中にはめ込み、人形の脳をゾンビの頭の中に入れた。
その後、硬化の魔石でゾンビを固め、生成で粘土を作った。その粘土を先程手を突っ込んで穴だらけになった場所に埋めた。
「禁術・屍化」
硬化の魔石でゾンビが絶命したので、もう一度ゾンビとして蘇らせた。
再び燃焼の魔石でゾンビを燃やし、トレに回復魔法をかけてもらい、ドロドロにし、硬化の魔石で硬化させた。
これで完成だ。今回は無理矢理人間を人形にしたような姿をしていなく、普通の人間に見える。ネームド作りが上達したのかもしれない。
「さあ、起き上がって、神父」
すると【神父】は起き上がった。【神父】は今後間違いなく活躍するだろう。