第4話 危機
「すみません、すみません、すみません、すみません、すみません!」
おっさんは土下座して、泣きながら謝ってきた。やはり都合の良さすぎる物には裏がある。
「何で謝るんだい?」
もちろん殺気を向けて話す。おっさんはさらに怯えた。これを見る限り、嘘はつかないだろう。
「じ、じ、じ、実は……」
おっさんは言うのを躊躇っているようだ。ボクは軽く笑顔を見せて、
「何か隠し事をしているようだね。 それを言ったら何もしないよ、安心して」
殺気を少し抑え、安心させた。
「実はこの村の神父、狂ってるんです! 毎年聖女様役の方を解剖して……この時期は外からの客が多く、お、俺の役目は聖女様役を探す事で、それで村で見掛けた、飛び切り美しい旅人をこうして、誘って……好みに合う程、神父様からの報酬も良くて……」
「ふーん、なるほどね~」
「ゆ、許してください! もうしません、絶対にしません……」
「別に怒ってなんかないよ? 寧ろ君が嘘をつかなくて、ボクは嬉しいぐらいだ、君は素晴らしいよ」
「ほ、本当ですか!?」
「ボクが嘘をつくような人に見えるとでも?」
「い、いえ! あ、ありがとうございます!」
おっさんに向けていた殺気を完全に抑えた。おっさんは安心したように見えた。
「その神父様とやらが、仕掛けて来るのはいつかな?」
「祭りが終わる頃、聖女様役が酔い倒れた時ぐらいです! その時までに村から出れば大丈夫のはずです!」
「教えてくれてありがとう!」
ボクは満面の笑みをおっさんに向ける。おっさんは、先程向けられた殺気を忘れたかのように赤面した。
正直な人は嫌いじゃないよ、君をお友達にしたいぐらいだ。だけど、今は我慢だ。あの神父様とやらの力も未知数だし……迂闊な殺しは良くないね。
本来は安全を考慮して、断るのが良い。しかし、聖女の令牌はボクにとって都合が良すぎる為、絶対に欲しい。
「時間になったら呼んでね~」
「はい! あ、衣装はこちらです!」
おっさんは聖女様役の衣装をくれた。聖女に相応しいぐらい、黄金で装飾されている豪華な衣装だ。
村では自力で購入出来ないぐらいの値段だろう。
こんなのを各地に毎年配っているとするならば……いかに教会の力が強大かが分かる。
おっさんが去った後、ボクは馬車のカーテンを閉め、再び【使者】に膝枕して貰った。
「今日はよく疲れる日だね、使者」
ボクは【使者】の顔を触りながら、話しかけた。ゴーレムなので、もちろん反応はない。
「ボクのしてる事、友達ごっこで、気味が悪いとか昔、言われてたな~でも切り刻んでやった時の顔は最高だったよ、やめてくださいやめてくださいってね。笑えるよ。ボクにあんな事言わなければ、お友達になってたのに残念だね~」
ボクは昔の事を思い出して、ニヤニヤした。
「それに比べ、君は積極的にボクとお友達になってくれた。本当にありがとう、使者――いや、お兄ちゃん」
おっと、話してたら眠くなってきた。まだ時間はありそうだし、少し寝るとしよう。
***
「聖女様! もうすぐ時間です!」
馬車の外から声が聞こえ、ボクの目が覚めた。
「んん……? あ、そうだった!」
外はもう暗い、光の神様への感謝祭はもう始まる頃だろう。
「ごめんね、ちょっと待って! 今から着替えるから!」
ボクは大急ぎで聖女様役の服に着替えた。そして、馬車から降りた。
「とても似合ってます! 本物の聖女様みたいです……とても素敵です!」
「そう? ありがとう~」
めっちゃ褒められた。
この人、頭がおかしいのかなあ~? さっきまでボクに怯えてたのに。まあ、どうでも良いや。
ボクはおっさんについて行った。【使者】も少し距離を取らせて、ついてこさせた。
しばらくすると村人達が集まっている場所に来た。村人達はボクを見るとざわつきはじめた。
「美しい……」
「聖女様だ……」
「娘にしたい……」
「神父様、今年の聖女様役です!」
村人達の中心には豪華な衣装を来た若い男性がいた。この人が神父だろう。
「トンさんご苦労様です、そして、聖女様よろしくお願いします」
若い男性は笑顔をこちらに向けた。ボクも笑顔を返した。
「こちらこそよろしくお願いします」
ボクは話しながら、魔力探知を神父に対して使用した。Lvは48……戦ったら負ける。
「では、早速ですが、光の神様への感謝の儀式を始めます。さあ、皆様、祈りの準備を。そして、聖女様、私と共に祈りを」
すると頭の中に神父の声が響いた。
〘 私の声が聞こえますか? 聞こえましたら、目を閉じてください〙
驚いた……こんな魔法、いや、スキルか? 初めてみた。この世界に来てから初めてが多い。
〘 聞こえますか?〙
あ! 聞こえる、聞こえるよ
ボクは目を閉じた。
〘 では、私がここに早めにセリフを伝えますので、私に合わせて言葉や祈りをよろしくお願いします〙
ボクは言う通りにした。
「「光の神よ、我々愚かな人類に導きと加護をくださり、誠にありがとうございます。どうかこれからも愚かな我々を導いてくださいませ。私達は貴女様の剣であり、盾であります。闇の邪神の軍勢を必ず討ち滅ぼして見せます。だから――」」
神父に合わせて移動や礼をして、1時間ぐらい経った後に終了した。
こんなにも長いなんて思わなかった。喉が枯れそうだ。
「皆様、お疲れ様です。さあ、宴会ですよ、思う存分楽しんでください!」
神父のその言葉に村人達は先程の真剣の雰囲気から解放された反動で大喜びし、各々宴会の準備を始めた。
「俺、今日は酔い倒れてやる!」
「聖女様と一緒に飲みたい!」
「俺が聖女様と一緒に飲む!」
「聖女様、貴女のお名前をお聞きしても?」
神父が話しかけできた。
「ボクの名前はエリカです、貴方の名前はなんでしょうか?」
「エリカ……博愛の花、良い名前ですね。私の名前程つまらない物はないので、回答を遠慮しても良いかな?」
「そうですか」
ボクの名前が博愛の花ってよ、笑えるね。エリカは博愛の花ってよりも、寂しさ、孤独の花と言った方が正解だよ。ボクから悪い印象を持たれたくないから、言葉を選んだんだね。
大嫌いな名前だ。でも、この名前を捨てないのには理由があって……とりあえず、ボクは孤独じゃない!
ボクにはお友達が沢山ある!
『友達ごっこで気味わり~』
『うわ〜きも』
『あいつには関わらない方が良いよ』
ボクの脳内に今日の昼、馬車で思い出した昔の記憶が再び、蘇った。しかし、今回は気持ち良い物では無かった。
お友達ごっこなんかじゃないし! 君達の方がキモいし! お前らなんかと関わりたくないし!
「だ、大丈夫ですか?」
神父の言葉でボクは我に返った。
「!?」
「体調が悪いのですか? 確かに1時間近く祈りを捧げましたからね」
「いえ、大丈夫です。」
「無理をしないでくださいね。もうすぐ宴会が始まりますので、楽しんでくださいね。あ、そうでした。これをどうぞ」
すると神父は、聖女の輪郭の模様が彫ってある黄金で作られた令牌を渡してくれた。
これが聖女の令牌か、これで目的は達成したから、もう村を離れようか。
「すみません、すぐに村を離れます」
「体調が悪いから、ですか?」
「はい」
嘘はついてない。実際頭痛はしてるし、喉も痛い。そして、寒いし、暑い。
多分熱だ。タイミングが悪すぎる……。
「では私の屋敷で休んでください」
「いえ、馬車の中で休むので大丈夫です」
どうしよう…… フラフラしてきた……。
「貴女、立っているだけで限界そうですし、私の屋敷で休みましょう」
「い、いえ」
神父は気味の悪い笑みをこちらに向ける。
ヤバイヤバイ、想定外な事が起きた。本当にどうしよう。
立っているだけで限界だ。【使者】を呼ぶか……。
【使者】は何故か遠くで待機していて、動かない。神父が何かをしたのだろうか?
【使者】助けて……ボクを助けて……。
お兄ちゃん……助けて……お願い……。
しかし、ボクがいくら呼びかけても【使者】は動かない。
ボクはやっぱり孤独なのかも知れない……。