第3話 村へ
コケコッコー! コケコッコー! コケコッコー!……
泊まっていた宿に設置してあった時計のアラームが鳴った。ボクは魔法にはそこまで詳しくない為、これの仕組みはよく分からない。何回聞いても不思議だ。
確か止め方は……あ、こうだ。
ボクは手を時計の上に置き、アラームは鳴り止めた。久しぶりにアラームを設定して寝たので、止め方を思い出すのには時間がかかった。
ベットから出たボクは朝食を済ませ、パジャマのまま【使者】と共に宿を出た。【Father&Mother】は宿屋で待機させた。
このまま人形の町の服屋へ向かった。
転移前の世界では世界中の皆がボクのお友達だったので、服装を気にする必要はなかった。しかし、この世界はそうでない為、身だしなみには注意する必要がある。
ちなみに昨日ボクが着ていたのは作業がしやすい作業着だった。ちょっと臭い。
服屋で気に入った黒色の大きめなドレスを取って試着したが、髪が長くてボサボサなせいで合ってなかった。髪の毛なんてもう1年以上髪を切ってなかった為、ドレスを着るまでは気にしていなかった。
「このまま美容院に行くか!」
ドレスを【使者】に持たし、ボクは美容院へと向かった。
美容院に入り、髪切り専門の人形に髪を切ってもらった。自分のボサボサで長すぎた銀髪がだんだんと短く綺麗になって行くのを見て、気分が良かった。
先程は合わなかった黒色のドレスは、今着てみると異常に似合っていた。サラサラした銀髪ツインテール、非常に整った顔と藍色の瞳、15歳に相応しい小さな体型、全てが合っていた。
我ながら美しい。
この後、宿屋に戻って朝食を取って長旅に必要な物を揃えた。
人形の町での食事はボクしか取らない為、【クラスメイト】が探索して討伐した魔物の肉を使って料理を作っている。探索は結構進み、この森には目立った物はなく、魔物は強くてもLv30ぐらいだと分かった。そして、ごく稀に人を見かける。
***
準備が整ったので、馬の代わりに人形の馬が使われている馬車に乗り、【使者】を連れて出発した。町の防衛を考えて【Father&Mother】は町に残した。
馬車の中には非常食や水、着替えなど様々な長旅の必需品を置いた。そして、転移前の世界の金貨銀貨などや、特別な人形を作る為に必要な魔石なども。
***
出発時は周りには木しか無かったが、数時間ぐらいすると木が少なくなり、やがて村らしき物を見つけた。建物はほぼ全て煉瓦で出来ていた。非常にタイミングが良い。
「こんにちは! すみません、この村に物を換金出来る場所はありますか?」
早速村人を発見し、馬車から降りて換金出来る場所を尋ねた。久しぶりに敬語を使った。
「おお、見ない顔だね。こんにちは、旅商人かい? 雑貨屋ならここから真っ直ぐ行って、右に曲がった所だよ」
「はい、ボクは旅商人みたいなものです。道を教えていただき、ありがとうございます!」
親切な人だ。非常にお友達にしたいが、我慢だ。そして、やっぱり敬語は使いにくくて、硬い。こんなのを使ってたら、一生お友達が出来ないような気がした。仕方ないが。
ボクは村人の言う通りに進み、雑貨屋に辿り着いた。
「こんにちは! これを換金したいのですが、可能でしょうか?」
ボクは転移前の世界の銀貨を10枚出した。本当は金貨を出したかったが、相場より低くかったら、損害が大きい為、銀貨にした。
「こんにちは! おお、銀ですか、調べますね! 鑑定」
雑貨屋の店主はスキルを使用した。おそらく銀の純度や本物かどうか調べる為のスキルだろう。
「どれも純度が高いですね、しばらくお待ちください」
店主は算盤を出して、計算した。
「計1金貨になります。よろしいでしょうか?」
「はい! ありがとうございます」
転移前の世界の銀貨10枚でこの世界の金貨1枚。これがこの世界の相場かどうかは後、いくつかの町などを回って確かめる必要がある。
「すみません、地図って売ってますでしょうか?」
「はい、もちろん。この国の地図でしたら、1枚1銀貨です」
「買います」
ボクは1金貨を出した。お釣りは9銀貨だ。どうやら1金貨=10銀貨らしい。このような知識がどんどん手に入る感じ、とても素晴らしい。
買い物を終えたボクは馬車に戻った。
「敬語疲れるわ〜」
疲れたので、【使者】に膝枕してもらった。そのまま、先程手に入れた地図を開いた。
ボクがいる国の名前は上光国と言うらしい。今いる場所は辺境に近く、反対側に下光国がある。
つまり、人形の町のある森は2つの国に隣接している。しかし、2つの国を繋ぐ道が他にも複数ある為、この森は使われてないのだろう。
王都と言えば一番繁栄している場所だから、とりあえずボクの目的地は王都である。あまり大きな国では無い為、順当に行けば数日で着くだろう。
「す、すみません!」
「!?」
馬車の外から声がした。ボクは馬車のカーテンを開けた。
外を見ると面識のない太ったおっさんがいた。
「何か用ですか?」
休憩中に話しかけられてイラっとしているので、嫌そうな顔を向ける。
「す、すみません、今晩は光の神様への感謝祭でして、雑貨屋で貴女様を見かけ、と、とても美しく!可憐で、可愛くて……と、とにかく貴女のような方に是非、聖女様役をやって欲しいなと思いまして、声を掛けました……」
おっさんは弱気で震えながら、要件を話した。
「光の神様への感謝祭? 聖女役?」
「ま、毎年3月1日に行われる光の神様への感謝を示す祭りの事ですぅ、聖女様役は神父様の真似などをする人の事で、き、基本は美しい女性が担当します。美人だと盛り上がりますから……」
「ボクに何かメリットはあるのですか?」
すると、おっさんはこんな事も分からないの? のような顔をしてきた。
「メ、メリットはもちろんあります! 今年の聖女様役になった方々には聖女の令牌という上光国で通行料を払わなくてよくなったり、各ギルドで身分証明書として使える物が手に入ります!」
役割は神父の真似事だけなのに、通行料を払わなくなるのも、身分証明書になるのも便利だ、この世界でボクの身元保証人も居ないし、都合が良い。
だが、ボクに取ってデメリットが何1つない。旅をしているボクには都合が良すぎるし、ずっと気弱で震えていたのが気になる。
元からそういう性格ならば、最初から見知らぬボクに話しかけないし、嘘をついてる人は罪悪感に襲われて気弱になるんだよね。
「ボクを誘うの、君にとって何のメリットがあるの? ボクにとって、都合良すぎないかな?」
軽い笑顔を向け、冷たい目でおっさんを見て、冷たい口調で話した。そして、殺気を出す。間接的とはいえ、沢山の人を殺って来たんだ、殺気を出すなんて造作もない。
ボク、嘘は嫌いだからね。嘘がつけないようにしないと。