[レビュー02] 黒井雛様の「悪女と蜥蜴」
イチオシレビュータイトル:赦しと解放の物語
投稿日:2016年09月24日
作品タイトル:悪女と蜥蜴 https://ncode.syosetu.com/n6637dl/
作者:黒井雛様 https://mypage.syosetu.com/416215/
(レビュー本文)
幾重にも呪いがかけられた状況から、この物語が始まります。国自体が陰鬱な影に覆われています。
皇太子の寵愛をめぐって毒殺未遂で投獄された「悪女」愛蘭。彼女は本来の自分とは違った人生、権勢を求めて人を蹴落とし陥れる生き方を強いられています。
幽閉された地下牢の看守は、呪われた「蜥蜴男」。醜いと蔑まれ孤独に苛まれながら、王家に服従を強いられる呪いにかかっています。
二人が出会ったことにより奇跡が始まります。
はじめは篭絡して利用するつもりだったのに、蜥蜴男の誠実さに心揺れる愛蘭。語らう度、食事を共にする度、つのる想い。あの人に値しない悪い女だけど共に生きれたら、と儚い夢。しかし処刑の日は残酷に近づくのでした。
交錯し高まっていく情念の渦の中で、物語はクライマックスを迎えます。そして人々は知るのです。呪いを解き国を言祝ぐ(ことほぐ)奇跡の名は愛であると。
人間の娘と異形との純愛を描いた素晴らしい小説です。
死刑囚と看守との極限的な状況で、情念が高まっていきます。「悪女」と「蜥蜴男」の本来の姿は何かというところで工夫がしてあって、ネタバレになるから書きませんが鮮烈であります。
これは祝祭的な物語でもあります。呪いをかけられた国。過ちから嘘と汚辱にまみれた悲惨な国。それを解放し言祝ぐ大いなる力。これは公共の場で上演するに足る素晴らしい内容を含んでおります。私は歌劇「トゥーランドット」と能曲「賀茂」を連想し、力強くフィナーレに向かっていくこの小説の感動に震えたのでした。
レビューはあらすじが大半という奇妙な書き方をしています。感動の中心を描くのに必要だと思って当時はそう書いたのですが、今見るともう少し違う書き方があっただろうとも思います。
黒井雛様は他にも「婚約破棄られ悪役令嬢は流浪の王の寵愛を求む」や「悪女ファウステリアの最期」などの優れた小説をお書きで、「異形」をロマンチックに力強く描くのに長けてらっしゃいます。