カルラ・フレーミヒ
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………………
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「ん………」
幸せを感じた最期の光景。最初で最期の初恋の夢。もう何度目になるか解らないその夢から覚めると、最初に少女の覚醒を出迎えたのはカーテンの隙間から射し込む朝日だった。
「朝…………」
まだ少し眠たい眼を強引に見開きながら、ベッドから立ち上がると、少女はその深紅の髪の毛を手で撫で付けながら、洗面所へと向かう。
そう、今見た夢は前世、いや、転生前の自身の記憶。病弱だった自分の一番最期の幸せな時間の記憶。それを夢に見たのだ、それ程までに自分にとって大切な想い出。
「カルラ、起きたの!?」
と、洗面所に響く他の女性の声。カルラと呼ばれた少女はそれを聞いて。
「起きてるよ!!」
と、元気良く返事をする。
カルラ・フレーミヒ
神道 愛奈が転生した新な姿。この世界に生まれて今年で18年目。色々と不安もあるが、それでもこの世界での人生は充実している。
まず、前世と違い身体が健康なのだ。それだけでも幸福なのだがこの世界には地球には無かった魔力が存在する。
………………まぁ、だからと言って何だ、と言う訳では無いのだが、そのお陰で今カルラはある職業につく事が出来た。
それは、人を治す職業。医者では無いが、それに類似するこの世界では必要不可欠な職業。
回復士に。
「カルラ、今日の任務は?」
「ん〜、昼からかな、何か城塞都市シャリオから来る冒険者の支援だって」
「へぇ、シャリオって言ったら大都市じゃないの、そんな所から来る冒険者って、もしかして危険な任務じゃないでしょうね?」
「お母さん、冒険者の任務何だから大なり小なり危険はつきもの、それにパーティーが危険にならないように、私みたいな回復士がいるんだから」
ガッツポーズを見せて母を安心させるカルラ。そしてそのまま椅子に座り朝食を食べ始める。
「それに、朝は朝で巡回任務もあるしね……」
そう言って、コップに用意された紅茶に口をつけるのだった。
〜カルラの住む村近くの街道〜
「ロルフ、この辺り?」
「ん、まぁなシャリオからかなり離れた辺境だけどな」
「良いと思う、私は好きだなぁ、ねぇジーベルさん?」
「あぁ、この辺りは比較的魔物のレベルも高くは無いし、何と言ってもロルフの故郷は更に辺境奥地に入る中継点、そのお陰で冒険者も多い、周辺の治安も悪くは無い………」
二人よりも若干落ち着いた感のある青年、ジーベルと呼ばれた男は、少女の問いに淡々と答える。
「それにしてもロルフ、今回の任務おわったらさぁ、どっか遊びに行かない?」
話をガラリと変更して、少女の一言。だがそれを聞いたロルフは表情をしかめ。
「あのなリーザ………」
「ん、なぁに?」
「まだ、任務も始まって無いのに、終わった後の話何てすんなよ!」
「えぇ〜、だってぇ!!」
「だってもクソも無い、今は任務に集中しろよ、ですよねジーベルさん?」
「まぁ…………な」
苦笑しながら、二人に視線を向けるジーベル。と、そうこうしているうちに街道の先にポツポツと建屋が姿を現す。建屋の周囲には、それなりに頑丈そうな柵が張り巡らされ、魔物の侵入を阻んでいた。
「もしかしてさぁ、アレがロルフの故郷?」
最初に反応したのはリーザ。嬉しそうにロルフを見つめ問いの答えを求めてくる。それを見て、何処か懐かしむような笑みを浮かべ。
「そうだな、14の時に冒険者になるために村を出たきりだから、三年振りだな………」
久方ぶりの故郷。手紙は何度か送っていたがそれだけ、それ故に胸に込み上げるものがあった。それに。
「アイツも元気かな?」
誰に聞かせるでもなくポツリとそう呟くのだった。
〜同刻 村から少し離れた森林内〜
「ゴブリンとオークだ!!」
「数は少ない、カルラ後方に退避して怪我人の手当てを!」
「はいっ!!」
名前を呼ばれ指示を受けると、カルラは素早く身体向上を自身にかけ怪我人を後方に運び出す。
「安心してください、回復をかけますから」
魔力を集中し、怪我人のダメージ箇所に回復魔術を施していく。
「済まねぇなカルラちゃん………俺行けそうかい?」
「出血量が多かったら止めるところですけど、幸いにそれも無いですし、傷が塞がり次第戦列に戻って貰って構いませんよ」
「そうかい、やっぱりカルラちゃんはすげぇなぁ、こんだけの実力があってB級下位なんて信じられねぇなぁ」
回復していく傷口を眺めながら、村の自警団の男はカルラを褒める。しかし、当の本人は苦笑いを浮かべ。
「何行ってるんですか!王都やもっと大きな都市の回復士ならもっと手際も回復力も上ですよ、私なんてまだまだです!」
「そうかねぇ、シャリオの治療所の回復士も凄かったけどカルラちゃんも負けず劣らずだと思うけどなぁ………」
「買い被り過ぎです、さぁ終わりましたよ、戦列に復帰するんでしょ!?」
「おっとそうだった、さぁて援護に行きますかね!」
近くに置いていた長槍を握りしめ、男は再び自警団の仲間の元へと向かっていく。
「数は少ないですから無理をしないで下さい、無理して傷を負ったら回復しませんよ!!」
「はは、カルラちゃんは厳しいなぁ、了解解ったよ!!」
長槍を突き上げて、走っていく男の背中をみてカルラも距離をとりながら次の負傷者を探す。
彼らは自警団であって冒険者ではない、その為に魔導石の武器を所持していない。
だが、そんな彼らは普通の武器を手に取り、村のために今日も戦っている。そんな彼等を誇らしく思いながらカルラ自身も自らの仕事に邁進する。
「一対一で当たるな、常に多人数で押し返せ、なぁに多少の怪我はカルラがいるんだ自警団の力を見せてやれ!!」
軽装ではあるが自警団のリーダーが団員に発破をかけて鼓舞する。それに呼応して団員達も声を上げてゴブリンやオークに当たっていく。
こうやって日々散発する魔物討伐を、カルラは後方支援と言う形でこなしていくのだった。