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開幕のベルが鳴る。

よろしくお願いします。

そして、閲覧有り難うございます。

〜日本 某所〜


外は雲一つ無い快晴。天気も良く散歩をするにはもってこいの日和だ。しかし、そんな気持ちのいい光景を部屋から眺める一人の少女。


そう、そこは病院で飾り気のない個室の病室。その為に、部屋の中はシンとしていて、何処か物悲しげ。


「はぁ…………」


そう言って、大きなため息を吐いた少女は、自分の身体を預けているベッドから半身を起こし、近くのテーブルに置いてあったスマホをとり窓から画面へと視線を移す。


…………


何の感慨も無く画面を見つめる少女。画面には今日起きた事件や時事ネタ等のニュースが並べられており、その中から気になった記事を開いて目を通して行く。


駕籠の中の鳥…………


日々変わっていく話題を妬むように、自分を自虐する言葉。


もう何年も病室生活が続き。自分がかつて住んでいた家の部屋すらも懐かしい想い出になろうとしていた。


「何時…………退院出来るのかな………」


病室には誰もいない。そんな静かな空気にあてられる様に少女の口からは弱気な言葉。と、それと共に目から溢れだした涙が頬を伝う。


「帰りたい………な……」


震える声で誰に聞かせるでも無い言葉は、最後まで言葉を紡ぐこと無く、顔に押し付けられたクッションの中へと消えていく。


そうして、クッションで鳴き声を抑えていたその時、病室のドアを優しくノックする音が少女の耳に響く。はっとして少女が素早く袖口で涙を拭い。


「どうぞ」


そう言って入室を促すと。病室の入り口から二つの人影。一人は車椅子に乗った一つ年下の少女。もう一人は学生服を来た少年。二人は入室するなり笑みを浮かべ、手をあげると。


「来ちゃったよぉ!愛奈さん」


「すまないッスね愛奈ちゃん」


「真美ちゃんに、純一さん」


簡単に挨拶をしてベッドの近くへと来る。すると。


「愛奈さん聞いてよ、私は良いって言ったんだけど、心配だからって、兄さんまでついて来て」


「当たり前ッスよ、愛奈ちゃんもだけど、お前も病人なんッスから」


「てか、ここ病院だし、何かあったらナースコールしますぅ!!」


「はぁ、愛奈ちゃんごめんね」


「いえ、気にしないで下さい、私も何時も楽しませて貰ってますから」


「ですよねぇ〜、さぁ兄さん、ここからはガールズトークなんだから出ていった!」


「はぁ、じゃあ一時間後に迎えに来るッスから…………愛奈ちゃんに無理させちゃ駄目ッスよ」


「はいはい、じゃぁねぇ〜!」


と、真美の言葉を背中越しに聞きながら純一は病室を後にするのだった。


………………………


束の間沈黙。


別段話す話題が無いわけでも無かったのだが、何故か二人は笑みを浮かべながら沈黙する。と。


「純一さんって、何時も笑顔でしかも優しいね」


「えぇ〜愛奈さん駄目ですよ、兄さんの笑みは張り付いた作り笑いですよ!」


「そうなの?」


「そうですよ、外面はいいんですよ、だから愛奈さんには言っときます、兄さんに恋しちゃ駄目ですよ!後悔します!」


「そう………何だ、でもヒドイ言われようだね?」


「普通なら言いません、私の大切な友人、愛奈さんだから言うんです!」


「はは…………」


車椅子の為にあまり自由には動けないが、それでも真美は胸を張って忠告する。そしてそれを聞いて苦笑する愛奈。それでも場の空気は和やかなままだ。


「でも、そうだとしても私には羨ましいかな」


「羨ましい……?」


「うん、何時も一緒にいてくれるから」


「そうですかぁ?何時も学校帰りに寄ってくれますけど、正直私としてぼっちじゃ無いかと心配ですよ!」


「ぼっち?純一さんが?」


「えぇ、彼女…………はいない方が良いですけど、こう毎日顔を出されると心配になります!」


ドヤ顔で純一の心配をする真美。だが一人で話し始める彼女を見ても、嫌な顔一つせずに愛奈は耳を傾け続けている。


「兎に角、兄さんには今度しっかりと友達を作る、もしくはもっとコミュニケーションをとるように忠告しないと!って私ばっかり話しちゃってますね」


と、頭をかいて真美はペロリと舌を出す。


「気にしないで、私はそんな真美ちゃんを見るの好きだから」


「愛奈さぁん、優しすぎですよぉ、ビジネス優しさの兄さんとは大違い、愛奈さんがお姉ちゃんだったら良かったのにぃ」


「ふふ、私も真美ちゃんみたいな元気な妹が欲しかったなぁ」


「てか、今は病人ですけどね」


「そだね、お互いに…………」


と、そう言ってお互いに噴き出すように笑い合う。幸せな、暖かい雰囲気の漂う空間。今、この時だけは、お互いに病人であることを忘れられる。


「はぁ、やっぱり愛奈さんといると楽しいなぁ………」


「私も、真美ちゃんとお喋りするのが、毎日の楽しみだよ」


にこりと満面の笑み。


「愛奈さぁん、今の笑顔私が男なら惚れちゃいますぅ」


「ありがと、私も男だったら真美ちゃんの事、放っておかないよ」


「じゃぁ、相思相愛ですね」


「だね!」


そこで再び笑い声。今度はお互いに腹を抱えて笑う。


はぁ……………楽しいなぁ………何時までもこんな楽しい時間が続けば良いのに…………


心中。言葉には出さず、愛奈は真美を見てそう独りごちる。普通ならば当たり前。だがしかし今の自分にはそれを望む事すらが難しい。


そう考えた矢先。愛奈は激しく咳き込む。


「あ、愛奈さん」


真美とて車椅子。直ぐにはコチラに来ることが出来ず咄嗟にナースコールに手を伸ばそうとするが。それを手で制して。


「だい…………大丈夫だから………少し咳き込んだだけだから………」


「でも………」


「心配しないで………ほら、ましになってきたから」


まだ咳き込んではいるが、最初よりはマシになり、笑みを浮かべアピールする愛奈。そうだこんな事でこの幸せな時間を取り上げられたくはなかった。


「ごめんね、もう落ち着いたから………」


そう言って、手をひらつかせて元気さをアピールし、再び会話を再開させるのだった。

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