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4話 変わる関係

 夕方、お茶会というなの戦場から帰宅したリノルはしょんぼりしていた。

 女性陣から人気があるフミアの妻で、他国から嫁いできた新妻ということで囲まれた疲れ以上に、フミアに嫌われたことが気がかりでショックを受けている。

 リノルの方が帰りが遅かったので、フミアが出迎えをしてくれたがよそよそしさは変わらなかった。

「リノル様、大丈夫ですか? 朝からお元気がなさそうに見えます」

「シャ、シャランさん......」

「なんでしょう......?」

「旦那様に嫌われてしまいました......!!」

「へ?」

 かくかくしかじか、リノルはシャランに昨日からフミアの自分への態度が可笑しいことをシャランに説明した。

 説明を聞いていたシャランは、(私が余計なこと言ったから?)と罪悪感に苛まれた。

「大体事情はわかりました。 フミア様本人に直接聞いてみるのは如何でしょうか?」

「?!」

「フミア様は顔に出やすい人なので、もし、リノル様を嫌っているのなら、嘘をついてもわかるはずです」

「さあ、食堂行きましょう」


(ど、どうしよう)

 リノルは悩んでいた。

 直接本人に嫌いと言われたり、嫌ってるような態度を取られたら立ち直れる自信がリノルにはないのだ。

 フミアだけではなくリノルも、相手への接し方に躊躇が見られるので結婚初日よりも距離がある雰囲気になってしまっている。

「リノル様は私のことをどう思っていますか?」

 おずおずとリノルは遠回しにフミアに聞いてみた。

「それは......」

 フミアの返答に困っているような様子に、リノルは悪い方向へしか考えられなくなってしまった。

「変なことを聞いてしまい申し訳ありません」

 リノルは唇を小さく噛んだあと、ふんわりと笑った。

(政略結婚なんだから変に期待しちゃ駄目だよ)


 寝室に行くのを渋り、自室にこもっているリノルはソファーでうつ伏せになっていた。

 使用人達が声をかけてくれるが、動けないぐらい眠いからここで寝ると主張し、頑なに動こうとしなかった。

(嫌いな人と同じベッドに寝るなんて、しばらくしたら体壊しちゃうよね......)

 フミアに気を遣って自室で寝ることにしたのだが、リノルは胸がもやもやして眠れる気がしなかった。

 軽く体でも動かそうと、起き上がったリノルの目に留まったのは、フミアがくれたテディベアだった。

 リノルは戸棚の上に飾ってあったテディベアを手に取ると、どこに仕舞おうか部屋を見渡した。

(仲良くなれたかなって勘違いしてたことを思い出して辛いな)

 テディベアを見ていると、リノルの目頭が熱くなってきた。

 視界が歪んでいく。

(あーあー、政略結婚なのに馬鹿みたい)

 頬を伝う涙に、目を背けていた感情が呼び起こされる。

 止めようとするも溢れ出してしまう感情に嗚咽の声を上げる。


 ドアがノックされた。

 リノルは泣き顔を見られるわけにはいかないと涙を拭った。

 部屋に入ってきたのはフミアだった。

(私は私のことが好きじゃない人のことが好きなんだ......)

 言葉にしてみると余計に心がぐちゃぐちゃにかき乱されるようだった。

「リノル?!」

 泣いているリノルにフミアは血相を変えて走り寄った。

 リノルはフミアに背中を向けた。

「お見苦しい姿をお見せしてしまい申し訳ございません」

「何があった?」

「何でもありません」

「取り敢えずソファーに座れ」

「一人にさせてください......」

 涙声で弱弱しく自分を拒絶するリノルに、フミアは伸ばそうとした手を止めた。

「わかった」

 フミアの足音が遠のいていく。

(これでいいんだ、私たちは政略結婚なんだから)


(これから何十年もこうして一緒に暮らしていくの?)


 フミアの手がドアレバーに触れた瞬間、

「フミア様、私と別居してください」

 その言葉にフミアが咄嗟に振り返った。

 泣き腫らした目からぽろぽろと涙を流し続けるリノルが、悲痛な表情で立っていた。

「私は、好きな人に嫌われているのを耐えられるほど出来た人間ではありません」

「我儘だとわかっています。 ですから、援助等は結構です。 自分一人で生きていきます」

「旦那様に辛い思いをさせたくないです」

 フミアに嫌われることもそうだが、何より、フミアに気を遣われるのがリノルには苦しかった。

 自分で好きな人を苦しめたくはなかったのだ。

「申し訳ございません、旦那様。 好きになってしまってごめんなさい」

(私なんかが好きになったらいけない人なのに)

「リノル」

 体が正面から優しく抱きしめられた。

「誰がいつお前のことを嫌いだと言った?」

「態度に、出てたじゃないですか......」

「悪かった。 お前を嫌ってたわけではなく、お前ことが好きだからどう対応したらいいのかわからなかった」

「えっ」

 フミアのリノルを抱きしめる力が強くなった。

「俺はリノルのことを愛してる」

「お前が嫌だと言っても俺はお前を手放すつもりはない」

「旦那様?」

「俺の妻は生涯でお前だけだ」

 リノルが見上げると、フミアはリノルの涙をそっと人差し指で拭った。

「愛してる」

 照れながらも断言するフミアにリノルは、恥ずかしいやら申し訳ないやらで、挙動が可笑しくなった。

「あ、ありがとうございます...... 早とちりしてごめんなさい」

「謝らなくていい。 お前が自分に自信がないことをわかってたのに、変な態度をとってしまった」

「俺には至らぬ所が多々あると思うが、これからもどうか隣にいてほしい」

「こちらこそよろしくお願いします」

 これからの二人の関係を表すかのように、しっかりと手を握り合っていた。

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