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異世界転移させてくれ

作者: 芸人もドキドキもどき

勢いのみで書いた。

後悔はしていない。


昨夜遅く日付変更が見えるくらいの時間、『耳で聴きたい物語』コンテストなるものの見出しと応募対象となる作品の欄だけ見て書き出しを開始するも、書き終わった後に改めて応募期間見たら先月末までだということに気づいて打ちひしがれた深夜2時。


いつもの掛け合いだけの漫才形式に直せばよかったのではと省みたりはしてます。



 「頼む! 頼むーーー!」


 時は日が高く昇りきった昼、閑静な住宅街の人も疎らな通りに突如として脈絡のない言葉が大声に乗って流れてくる。


 通りにいた幾人かは何事かと声の主を探す。

 周囲を見回したところ、通りのど真ん中に堂々とそれはいた。


 車も走るようなそれなりに幅のある通りのど真ん中に土下座している男性とそれを受けて困った顔をしている女性の二人がいたのだ。

 どうみても土下座の人が発した言葉だろうことは構図を見ることで即座に分かる。

 男性は体格はいいものの青年と呼ぶほどの歳でないであろうことが高校の制服を着ていることから見てとれる。

 同様に女性も男性と同タイプの制服を着用していることとやや幼さも残る顔立ちから少女と女性の間くらいであろうことも見てとれる。


 端から見たら何をしているんだと思われるとおりに周りの人は興味深そうに眺めている。


 「ごめんなさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃ」


 流石に周りの視線にいち早く気づく体勢である女性は居た堪れなくなったのか、土下座を敢行し続ける男性を置き去りとするように逃げ出していく。どんなに恥ずかしがっていても、しっかりと通る良い声である。


 土下座をしていた男性は女性が逃げ出したのに気づくと、勢いよく立ち上がりこれまた綺麗な姿勢で走って追いかけて行く。


 変わった二人が去った住宅街。今日も今日とて平和である。




 場面変わって、住宅街の端にある人気もないとある公園。


 「もう本当に、だいちゃんはなんだっていきなりあんなことするの!」


 先程の女性は公園のベンチに腰掛けながら手にした缶ジュース片手に醍ちゃんと呼んだ先程土下座していて今も綺麗な土下座をしている男性に向かって怒り出す。


 「もうそれやめて!」


 流石にしつこい土下座に嫌気がさしていたであろうか、目の前の男性の土下座を止めさせる。


 「それじゃあ詠菜えな、OKしてくれるんだな」


 醍ちゃんと呼ばれる男性はついに願いかなったと言わんばかりに顔を上げると、これでもかのにこやかフェイスで勝手な解釈を伝える。


 「それとこれとは話がちがぁーーーう!」


 立ち上がった男性の勘違いした言葉に対して詠菜と呼ばれた女性は持っていた缶ジュースを握りつぶさんばかりの勢いで絶叫する。


 醍ちゃんこと、音見醍醐おとみだいご。彼は近所の進学校に通う17歳の高校生。陸上部にも所属し日々勉学にスポーツにと青春謳歌真っ只中である。

 詠菜こと、加山詠菜かやまえな。彼女は醍醐と同じ高校に通い、図書委員として学校の図書室の世話をする傍ら、カラオケで好きな歌の練習をする日々を送っている。

 醍醐と詠菜の二人の関係は、詠菜が6歳の頃に醍醐の家の隣に引越してきてから小中高とずっと幼馴染をしている腐れ縁の関係。


 「それで改めて聞くけど頼みの内容は本当にあれ?」


 「ああ、もちろん」


 詠菜は土下座をしてまで醍醐が頼み込む内容が聞き間違いである一縷の希望を乗せて聞くが、醍醐からは眩しいほどに爽やかな笑顔とともに何も間違っていないと返される。


 「本当に?」


 「本当だとも」


 実際は聞き間違いであってほしいからなのか、しつこく確認する。


 「異世界転移する為にぜひ俺とラブホテルに行ってほしい!」


 「だーかーらー、異世界転移もそれでラブホテルなのも全然意味がわかんない!」


 頼みの内容は詠菜が何度聞いても間違いではなく、醍醐は恥ずかしげもなく詠菜をラブホテルに誘うのであった。


 「ん? 異世界転移って言うのはな、ここ地球がある世界とは別の」


 「それは分かってる! それがなんでラブホテルに行くことなのよ! それでしかも私って」


 「それがな、好きな異性とラブホテルに行くと異世界転移できるらしいんだ」


 「はあー!? なにそればかじゃないの! それに好きな人じゃないとって醍ちゃん私のこと好きなの?」


 「ああ、もちろん好きだぞ」


 「は?」


 「え?」


 醍醐の嘘偽りのない告白に詠菜はその場でかたまる。醍醐は詠菜が聞き返した意味がわからずに更に聞き返す。


 「なんでよーーーーーーーー!!」


 「お、おい。どうした詠菜、落ち着け」


 詠菜は今にも泣き出しそうなほどの大絶叫をする。


 今までどちらも明確に好きだと言った言われたことがなかった関係であったようだ。

 詠菜は唐突な告白にも驚いたが、それ以上に今の状況をどうするかのこともあって泣き出しそうな勢いで醍醐に抗議の言葉を投げかける。


 「これが落ち着いてられるか! なんでそんな大切なことをついでみたいに言うのよ!」


 「そりゃあもう、詠菜は家族みたいなものだから、今更だよ」


 「もーーー! そういうことさらっと言うなああああ!」


 だが、返ってきた言葉はただの告白の続きなだけであった。


 「異世界転移できることだから大切なことだぞ」


 「異世界転移のついでのことにして言うな!」


 詠菜にとっては告白の場面と理由が納得いくはずもなく、泣きそうな顔だったところから地団駄を踏みそうな勢いを通り越して憮然とした表情になっている。


 昔から想っていた相手から告白より前にラブホテルに誘われるなどデリカシーのかけらもあったものではない。


 「それで異世界転移して危険な世界だったらどうするの? もし帰れなかったら?」


 「そりゃあもちろん、詠菜は絶対俺が守るし詠菜と一緒なら帰れなくても俺はかまわないよ」


 「だから、さらっとそういうこと言うなああああ! それに醍ちゃんがかまわなくても私がかまうの」


 とても短い時間の中で今日何度目かの醍醐からの告白にも戸惑い、益々混迷度合いを深めていく詠菜。


 「え? 詠菜は俺のこと嫌いか?」


 「うっ!」


 「詠菜に嫌われてるなら諦めるよ」


 「違う! そうじゃないの!」


 「それなら詠菜も俺のこと好きだと思ってくれてるんだよな」


 「ううぅ」


 詠菜は半ばパニックになっているのか、告白場面を咎めるところだったはずがなぜか元のきっかけになった話題を引っ張り出して自ら墓穴を掘ってしまう。


 今までだって面と向かって醍醐に好きだとすら言ったことがないのに、まさかデリカシーのかけらもないお願いの結果から醍醐本人に直接その意思を伝える形になるなんて夢にも思っていなかったであろう。可哀想に。


 「これで異世界転移できる!」


 「だからそれを止めなさい!」


 告白の場はさらっと終わり、再度顔を出す異世界転移のキーワードに我に返った詠菜は醍醐を制止する。


 「なんでだよ、俺たち相思相愛だろ」


 「……」


 改めて突きつけられた事実に詠菜は顔真っ赤にして俯く。


 「最近よく異世界転生とか異世界転移とかあるだろ? けどそういうのは大抵死んだりなのにラブホテルのお陰でそんなこともなく行けるなんて凄いことだろ?」


 「この単純男ーーー! 誰にそんな法螺吹き込まれたのよー」


 恥ずかしさから俯いていた余韻からまだ顔は赤いものの、醍醐のありえない発言を咎めるために顔を上げて叫ぶように問いただす。


 「あきらが古い文献から安全に転移する方法見つけたって教えてくれさ」


 「嘘だって気づきなさいよ!」


 「ええっ?! じゃあ古い文献じゃなくて最近誰かが発行した本だったのか」


 「そっちじゃない! 異世界転移なんてあるわけないでしょ!」


 「最近話題になるくらいに色んな人たちができてるみたいだよ」


 「それは小説やアニメの世界の話!」


 「それが現実に」


 「ない!」


 告白のやり直しが始まるでもなく醍醐の間違って植え付けられた知識の修正に入る詠菜。端から見ても分かるほどになんとも息の合った二人である。


 「それとあまりホテルホテル言わないで、恥ずかしぃ」


 改めて意識してしまったのか、詠菜は消え入りそうな声でお願いする。最初は意識していなかったろうが、今は言われるたびに好きな人とが頭につくとでもイメージしてしまっているのかもしれない。


 「そうか、それなら非日常旅館とか別世界のような旅館てことにしとくか」


 「まさに異世界! 行けば異世界転移! って何言わせんのよおおぉぉぉぉ!!」


 半ばやけくそのような夫婦漫才だろうか、今日何度目かの絶叫をする詠菜。恥ずかしがったり叫んだりと大忙しな日だ。


 醍醐の誤った知識をさんざん訂正して息の上がっていたところから、ゆっくりと落ち着きを取り戻した詠菜。

 それにより生涯初の醍醐からの告白が異世界転移手伝ってくれのついでであったことを思い出した詠菜は、目の前で「俺の異世界転移が」と地面に両手をついて打ちひしがれている男を捕まえてやり直しの要求を求める喧騒を始める。

 もう日も落ち始める平和な平日の様相である。



 あいつらいつまでも宙ぶらりんの関係を続けて、そこを勘違いして告白撃沈する人に八つ当たりされる身にもなってほしいからいい加減正式にくっつけばいいんだよ、とは今回の発端を作ったあきら君の談であった。

 ただし、後日詠菜からだいぶこってり締め上げられたのと事情を知った女性陣から袋叩きにされたのは言うまでもない。


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