第二話 神の祝福
俺の名前はリック・フォン・グラスター。
田舎に領土を持つグラスター辺境伯爵家の次男だ。
グラスター家の領土は辺境伯爵なだけあって広く、海も山もある美しい土地だ。
特に贅沢な暮らしをしているわけではないので税率も低く、庶民からの評判もいいらしい。
「リック、調子はどうだい?」
部屋に入ってきたのは俺の父親のハインツと母親のアンネ。
ハインツはグラスター家の4代目当主だ。
剣が上手で、騎士団の練習相手も務めている。
アンネはハインツの妻で頭が良く、脳筋のハインツのために主に内政の手伝いをしている。
続いて入ってきたのは、兄のマイクと姉のリリー。
マイクはグラスター家の長男で、いずれはグラスター家の次期当主になるだろう。
リリーは剣の腕が良く、将来は騎士団に入ることを目指している。
「ありがとうございます、父上。もう大丈夫です」
「無理はしないでね。今日はあなたの誕生日なんだから」
「はい、母上」
末っ子というのもあって、みんな俺を可愛がってくれている。
「リック〜!」
「わっ!姉上、どうしたんですか」
「心配してたんだよ〜」
「ちょっ、分かったからどいて、折れる折れる!」
「こらっ、リリー。リックは病み上がりなんだからやめなさい」
「はーい」
・・・リリーだけはなんか度が過ぎてる気もしなくはない。
「本当に、頭痛の方はもう大丈夫なんだよね?」
「うん、兄上。僕はもう元気だよ」
俺は今朝、猛烈な頭痛に襲われた。
それと同時に俺は、前世の記憶ー海賀暸の記憶を思い出したのだ。
しかし、このことを家族に話すわけにはいかない。
話したところで、頭が狂ったと言われるのがオチだ。
何より、俺はリックとして、この家族の一人でいたいんだから。
「さて、リックも回復したことだし、みんなで教会に行こうか」
父の宣言で、みんなが準備をし始めた。
この世界では、5歳になったら教会に行って、神様からステータスを授けられることになっている。
ステータスとは、生命力や体力、魔力などを数値化したもので、スキルなども載っている。
そこらへんはゲームと同じだ。
ここは領都ハルバート、グラスター領の丁度真ん中あたりにある、領土一の大都市だ。
領土の真ん中だけあって交易の要所となっており、軍本部やギルド支部なども置かれている。
ハルバートは行政区を中心として北東に工業区、南東に商業区、南西に居住区、北西に貴族区が広がり、各区は乗合馬車で自由に行き来できるようになっているが、自前の馬車で移動する貴族にはあまり関係がない。
教会のある行政区まで馬車で向かう。
この世界ではほとんどの地域で同じ神が信じられているため、宗教自体に名前はない。
ステータスという形で人々に身近な存在となっているからだと俺は思っている。
もちろんハルバートの教会もその宗教である。
「ハインツ様。お待ちしておりました」
「こんにちは、ヴォルフ司祭。今日は次男が5歳になったので、ステータスの啓示をお願いします」
「それはおめでとうございます。では、こちらのお部屋にどうぞ」
「啓示の間」と書かれた部屋に入った俺は、ヴォルフ司祭に促されるままに神像の前に跪き、神様に祈りを捧げる。
すると神像は優しく輝き、俺の意識をどこかへ連れ去ってしまった。
ハルバートの教会で司祭を務めるヴォルフ・エルネスは、神像が光り輝く様子を食い入るように見つめていた。
ヴォルフは10年ほど前にハルバートの教会に赴任してから、この教会で啓示を受ける全ての人々を見てきた。稀に神像が僅かに輝き、スキルを与える時もあった。
だが、こんなに輝く神像を見るのは初めてだ。
この時、ヴォルフ司祭は、神の存在をすぐそばに感じながら確信した。
彼が受けたのは啓示だけではない。
彼は、神からの祝福を受けたのだ、と。