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そういう事でいいよね?



「みんな、ご苦労様。ガルーマ様から聞いていた、タビトさんが訪ねて来てくれた。この町の要望に合わせて、地下施設を作ってくれるそうだ。事前に話はいっていると思うが、それぞれに要望があれば、この場で伝えるといい。まとめてやってしまった方が後々の調整もいらないからな。遠慮はするな。衛兵の待機所の作成はもう決まっているが、作成場所と、規模、他に施設の要望があれば、この場で伝えるように」



 会議室には、大きな円形のテーブルが中央に置かれており、ズラッと人が並んでいた。コンスコー町長の仕切りによって、すぐに打ち合わせが始まった。無駄な事が嫌いなのだろう、さっきも時間の節約を言っていたからな。ダラダラ会議をされるよりは有り難い。



 テーブルの上のプレートには、各部局の名前が書いてある。


『町長付き事務局』『総務局』『財政局』『人事局』『監査局』『行政局』『警備局』『建設局』『産業局』『衛生局』『市民局』

 その他にも、部屋の壁際には、ローブを纏った人達がズラッと並んでいる。凄い威圧感だ。



「皆さん、初めまして。私がタビトです。施設作成の打ち合わせを始める前に、まずは誤解を解いておこうと思います。

 私は、領主のガルーマさんから、管轄している町の地下施設作成の依頼を受けました。これが、その書面です。


 ここにも書いてある通り、私の仕事は、あくまでも地下施設を作る事。それ以上でも、それ以下でもありません。よろしいですか? 私は、町の要望にあった地下施設を作りに来ただけで、町の運営には口を出すつもりも、その権限もありませんからね。


 皆さんの要望を聞き、出来るだけその要望に合わせた施設を作り、様子を見るために少し休んだら、すぐに次の町に出発します。ですので、変な勘違いはしないで下さいね」


「ほう。勘違いとは、その言い方もそうだが、何かあったようだな。構わない。隠し事は好きではない。何でも言っておくといい。勘違いなどあってはならない事だからな」


 おお。理解が早い。それに、誠実そうな物言いだ。第一印象で損してる人だよな。勿体ない。


「はい。ありがとうございます。コンスコー町長。それでは遠慮なく。

 昨日の事なんですが、オデルローザからこの町を結ぶ街道で、ある5人組みの襲撃を受けました。私達がこの町に来る事も、馬車の事も、私の能力についても知らされていたようでして、危うく命を落とす所でした」


「なんだと! そこまでの情報を持った者達からの襲撃を受けただと! それで、その者達はどうなったのだ! 何か証拠でもあるのか?」


「まあ、落ち着いて下さい。コンスコー町長。私達がこうして、ここに辿り着いたという事は、……そういう事です。もちろん証拠もありますが、ここではお見せする事は出来ません。私の能力に関係する事ですので。

 そこで質問です。『警備局』の『ガーディアンズ』さん? 違いますか? そちらの組織名だと思いますが?」


 俺の必殺技、『スマホに取り込んである映像を、あたかもユニーク魔法のようにして見せちゃいます』攻撃。念の為に、5人組みが話しまくってる所の映像は残してある。わざわざここで見せるつもりはないが、必要になれば、町長と、団長くらいには見せる事もできる。これが証拠となる俺の強い武器。


「なぜ組織名を。さっき町に来たばかりのはずだぞ。それに、その襲撃にガーディアンズが関係していると?」


「はい。そう言う事です。襲撃者からの証言がありました。ガーディアンズの、とある男に頼まれたと。口を割らせるのは得意でしてね? 喜んで話してくれましたよ? ふふふ」



「おお。さすが『首輪の人』だ」

「やはり『首輪の人』は本物だったんだな」

「おい。決して逆らうなよ。俺達も同じ運命を辿るなんて、真っ平御免だ」

「ああ。間違いない。アイツが『首輪の人』だ。あれはデキルぞ。油断するなよ」

「おお、首輪の人らしいな」

「でも、この町の事には、口を出すつもりも、権限もないって言ってただろ」

「おお。そうだったな。それなら大丈夫だ」



 何やら、他の部局の面々が騒がしいぞ。首輪の人認定は止めてほしい。マジで称号に追加されそうだから、勘弁して欲しい。


 ガタッ

「我々ガーディアンズのメンバーが、あなたを襲うように依頼したと? そう言っていたのですね?」


「はい。確かにそう言っていました。町の為になる仕事だからと言われ、報酬も良かったと。

 依頼内容は、私達の乗っている馬車をこの町に来させるな。最悪、全員殺しても構わないが、証拠は全て燃やせと。何を言われても無視して構わない。怪しいヤツらだから、やってしまえばいいと。

 更に、この依頼に失敗したら、この町での仕事は無くなるとも言っていましたね。どうですか? 心当たりはありませんか?」



「……申し訳ない。すぐには返答できないが、私には全く心当たりがない。これは、我がガーディアンズの信頼にも関わる大問題だ。少し調べる時間をいただきたい。タビトさん。もしそれが本当の事であれば、それなりの責任は取らせてもらう。この場は、これで勘弁して欲しい」


 揺るぎない自信。男気のある説明。嘘は付いていないのだろうな。そんな感じがする。恐らく、メンバーの誰かが勝手に行ったか、もしくは、その名前を(かた)った、別の悪意ある者の仕業か。


「ふむ。全く心当たりがないと言うのだな。それなら少し調べる時間は必要だろう。団長のお前が責任を持って報告するように。それから、タビトさん。申し訳ない。これは、この町の責任者である、私の責任でもある。必ず調査し、その報告をさせてもらう。それまでは、こちらから護衛も付ける。それで様子を見て欲しい」


「コンスコー町長、頭を上げて下さい。もう済んだ事です。それに、こうやって皆さんの前で調査の約束までしてくれているのです。謝罪は結構ですよ。どこから出た依頼なのか。その調査結果を待ちましょう」


「おお。魔法の腕だけでなく、頭も切れ、心も広い人物だったとは。これはガルーマ様もべた褒めするはずだ。がははっ」


「かたじけない。タビトさん。恩に着ます。護衛は我らにお任せ下さい。もう二度とそのような事が起きないように警護します」


「ありがとうございます。ですが、警護は気持ちだけで十分です。まさか、街中で襲ってくる事もないでしょうし。それに、もし襲ってきたとしても大丈夫です。私には頼りになる仲間もいますし、常にトラップを仕掛けてあります。仮に襲ってきたとしても、命を落とすのは、恐らく襲ってきた方だと思いますからね? ふふふ」



「そ、そうですか。信頼できる仲間もいて、常トラップも、……それなら警護は必要なさそうですね。確かに、街中には衛兵もおります。何かあったとしても、すぐに駆け付ける体制は整っておりますので、安心して下さい」


「おお。さすが『首輪の人』だ」

「あの仲間もヤバいのか?」

「常にトラップが仕掛けてあるとは、恐るべし『首輪の人』」

「変に近づくと危ないのだな。気を付けねばな」

「『首輪の人』さすがだ」

「凄い人物だったんだな、『首輪の人』。あのガルーマ様がべた褒めするとは」

「おお。そうだな。あのガルーマ様がな」



 もう何もツッコまないぞ。好きに言ってればいい。早めにこの町を出よう。もふっとさんも居ないし、変な称号が付いちゃう前に、お逃げしよう。



「よし。それでは、襲撃の話はここまでだ。

 当初の予定通り、地下施設についての要望を話し合ってくれ。後々の調整は面倒だから、この場で決めるようにな。特に必要がなければ、衛兵の待機所について打ち合わせをしてくれ」



  * *



 結局、作る地下施設は、衛兵の待機所だけ。こちらからいろいろ提案する気もないからね。早く終わらせたいし、提案なんかしちゃったら、また変に思われるかもしれないからね。面倒事は、もうコリゴリら。《冷風》《スルー》


 疲れてきた証拠だな。全く面白くもない。



 東西南北の4か所に、20人の衛兵が寛いで生活できる地下施設。標準装備で、セパレートでバス・トイレ付き。もちろん階層も分けてあるから、交代制勤務でも大丈夫。大変なお仕事の、衛兵さんに優しい仕様です。


『地下衛兵待機所』。それに方角を付けるだけ。『北の地下衛兵待機所』『東の地下衛兵待機所』……。何のひねりもない、面白くない名称に決まった。それも、討論の余地もなく、あっさり、すっきり、当たり前のように決定した。うん。皆さん真面目なんですね。良い事だと思いよ。『ひねり』とか考え出すと、こんな感じの人間に仕上がってきちゃうからね? あはは。


 本人が楽しんでるから、良いんだよ? 迷惑は掛けてないし、ないよね? ちょっと寒気がするくらい? 夏にはいいけど、冬はイラっとする? 《スルー》



 特に、襲撃犯の証拠を見せろと言われる事もなかった。あの話だけでも通じてしまったという事だ。良い意味で? それとも悪い意味で? それは、調査の結果次第。


 さて、どうなる事やら。



  * *



 コンスコー町長からの指示で、街の宿屋に案内された。話は通してあるので、滞在中はここを使うようにと。普通の宿屋だけど、町長の屋敷とか、衛兵の詰め所とかよりは有り難いかな。普通に快適だし、変に気を遣わなくて済むし。いろいろと配慮してくれたのか、それとも何か別の意味が? 疑ってたらキリがないんだけどね。まあ、どちらにしてもやる事は変わらない。あくまでも俺達は仕事として来てるからね。


 ちゃんと部屋は分けてもらってるよ? 俺だけ1人部屋で、ミラとアリーは、念の為に2人部屋にしてもらった。何かあっても、ミラがいれば安心だからね。



「2人とも、お疲れ様。聞いてるだけだったから、退屈だったでしょ。ゆっくり食事して、早めに休もうか。明日から仕事も始まるしね」


「あい、お疲れ様なのじゃ。まあ、打ち合わせは退屈じゃったが、襲撃犯の事もあったからの。仕方ないのじゃ。じゃが、特に怪しいヤツなどおらんかったのじゃ。まあ、あの場に居る方がおかしいかもしれんがの。

 それよりも、あんな大勢の前で、『私には頼りなる仲間もいます』とは、嬉しい事を言ってくるのじゃ。良い気分じゃったぞ。

 ところでおぬし、常にトラップが仕掛けてあるとか言っておったが、あれは何があるのじゃ?」


「はい。それ。私も気になってました。私も、注意して参加者を見てましたが、特に行動が怪しい人はいませんでした。

 それよりも、襲ってきたら命を落とすとか言ってました。そんな怖いトラップが仕掛けてあるのですか?」


「あはは。聞いてたよね。あれはね、大きい声じゃ言えないけど、小さい声じゃ聞こえないでしょ? つまり、普通に話すけど、広めちゃだめだよ? 今のは冗談だからね? ごめんよ。

《スルー》

 で、あれは、『ハッタリ』ってヤツね。ああやって皆の前で宣言しておけば、何か仕掛けようとしても、仕掛け難くなるでしよ? 何があるか分からないからね。それに、もし襲撃されて返り討ちにしても、正当防衛って事になるからね。俺は悪くないってね?

 もしかしたら、あの中に襲撃を指示したヤツが居たかもしれないから、その牽制って感じかな? どぅゆーあんだーすたん?」


「……全く、おぬしというヤツは。いつもいつも、やってくれるのじゃ。わしまで騙されたのじゃ。『ハッタリ』というのじゃな。凄い効果じゃの。確かにああ言われたら、怖くて近付こうとも思わんのじゃ。ふむ。よく考えておるのじゃのう。

 それとおぬし、よく分からん言葉を使うのじゃ。その『どぅゆーあんだーすたん?』とは、何なのじゃ? ちゃんと説明するのじゃ」


「はい。私も、すっかり騙されました。その『ハッタリ』って凄いです。『命を落とすのは、襲ってきた方だ』なんて言われたら、怖くて襲う気にもなりませんよね。あの場の人達を警戒して、そこまで考えてたなんて、やっぱり凄いです。規格外です」


「あ。うん。ありがとう? あんまり外では言わないでね。効果が無くなっちゃうからね。頼むよ? それから、『どぅゆーあんだーすたん?』は、『理解してくれた?』って意味だよ。1つ1つ聞いてきてくれて、ありがとうね。ミラ。面倒なら〈スルー〉してくれてもいいからね?」


「ほう。そう言う意味なのじゃな。覚えておくのじゃ。それに、『スルー』と言うのは、聞き流すという感じの意味で合っておるかの? 何となくそんな感じがするのじゃが、おぬしは思考が飛びすぎるから、付いて行くのに骨が折れるのじゃ。じゃが、できる範囲で付いて行くのじゃ。それが正妻の務めなのじゃ」


「えっと。『スルー』の意味は、それで合ってると思うけど、ごめんね。思った事を口に出しちゃうのが、クセみたいなモノなんだ。訳分からないよね。気を許しちゃうと、つい、口に出ちゃうのかな? それに、務めにはしなくていいからね。軽い感じで聞き流しても構わないから」


「何を言っておるのじゃ。正妻として、おぬしの言う事を理解したいと思うのは、当然の事なのじゃ。興味がなければ、わざわざ聞きはせんのじゃ。それに、気を許しておるから口に出るのなら、むしろ嬉しい事なのじゃ。気にする必要もないのじゃ」


「はい。そうです。私も2番目として興味がありました。タビトさんの言葉は理解したいです。何でも教えて下さい。新しい事を覚えるのは楽しいですから、気にしないで下さい。お互いに気を許してこその家族てすよ? えへへ」



 ヤバい。涙が出そうだ。これを『愛』と言うのだろうか? 『同情』じゃないよね? うん。気を付けよう。こういう無邪気な善意を無駄にしちゃいけない気がする。俺のアホ過ぎるノリにも付いて来ようとするなんて、ごめんよ。俺、マジで反省するよ。そういう善意は、もっと有効に使った方がお互いの為だと思います。


 変に〈スルー〉されるより、よっぽど(こた)えたよ。オレの負けだ。完敗だ。


「ありがとう。2人とも。その前向きな好意は、凄く嬉しいよ。嬉し過ぎて涙が出そうだよ。これからもよろしくね。じゃあ、お互いに気を許した証に、()()()()だ!」



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