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そういう事になりました



「右前方、ゴブリン! 数は3! 来ますっ!」


 また、ゴブリンさんですか。全く、次から次へとよく出てくるもんだ。ほんとにアリー様々だ。事前に近付く敵の情報まで分かるなんて、凄過ぎる。


「えっと、ゴブリンさん?」


「はい! ゴブリン3です!」


「ミラ! ゴブリンさんだって! どうする?」


「ゴブリン3じゃと? またなのか。全く面倒なのじゃ」



 言葉って難しいね。ゴブリンさんが3匹出てきたら、『ゴブリンさん3!』ってなるんだよね? さんさん? 燦々(さんさん)? ゴブリンさんが光り輝きながら襲ってくるんだよね。こわっ。更に臭そうだよね。おえ。



 そして、ミラさんや? 道の真ん中で突っ立って、何をするつもりなのかな? まさかとは思うけどさ。


「あっ。また燃え出した」


「ふおおーーっ!! やる気があるなら、掛かかってくるのじゃ! 一瞬で楽にしてやるのじゃ!!」



 ぐっはぁっ! また耳からダメージがぁ! やっぱりやりやがったな。ミラさんや。そのセリフは変えた方がいいと思うんだけどなぁ。難しいのかなぁ。どんどんオイラの黒歴史が塗り重なっていく。


〈バーサクモード・ミラバージョン〉


 全身からボウボウと炎が立ち上り、追加の〈風〉によって更に激しく燃え盛っているエフェクト。さすが〈火〉と〈風〉魔法の使い手。攻撃特化とは言え、このエフェクトには有効だ。俺の〈エフェクト火〉(大)よりも、炎が大きいんだよな。思わず見上げちゃうからな。やるね。



 ちなみに、俺の〈エフェクト火〉は、自身に〈火〉を纏い、やる気を演出するものだ。放出量の調整も、大・中・小と可能で、

(大)は、全身から大きく立ち上る炎で、威嚇効果大。スーパーな戦闘民族を意識した演出で、もうヤバい人まっしぐら。そのまま敵に突っ込めば、詠唱要らずの〈火人弾〉の出来上がりだ。使った事はないけどね。


(中)は、全身からメラメラ立ち上る火で、やる気を演出。これでも接触者は火傷する事になるから要注意だ。ダメージは小だけど。


(小)は、うっすらり灯る陽炎程度。よく見ないと認識できないよ? でもこれ、寒い時には暖房いらずの優れもの。呼吸も普通に出来るからご心配なく。でも、もっと凄い〈全身空調〉を常時発動させてるから、これも未だに使った事がない。恐らく、これからも使い所のないお蔵入り魔法だ。



「わぁ! ミラさん、やっぱり格好良いです! さっきより燃えてます! 凄いです!」


「そうじゃろ、そうじゃろ。コツが分かってきたのじゃ。もう少し大きく出来そうなのじゃ! これは心地が良いのじゃ! 何かやる気が出る気がするのじゃ!」


「ミラさんや。盛り上がってる所で悪いんだけど、ゴブリンさん逃げちゃったからね? また後で襲ってくるかもしれないよ? 今度は仲間が増えてるかもしれないし、ゴブリンを見たら早めに潰しておいた方がいいって言ってなかったっけ?」


 しかもそれ、相手に向けて自分のやる気を見せるエフェクトのつもりだったのに、ミラの場合は自分に効果があるの? すげーな。やっぱり人それぞれなんだなぁ。まあ確かに、炎に包まれてると、そんな気がしてくるのかな。



「おお。そうだったのじゃ。すっかり忘れておったのじゃ。すまんのじゃ。それにしても、これは凄いのじゃ。魔力の消費が格段に少ないのじゃ。これなら、しばらく続けても問題なさそうなのじゃ。もしかしたら、これは魔法の真髄(しんずい)かもしれんのじゃ」


「え? そうなんだ。真髄っていうのは言い過ぎだと思うけど、魔法を体に纏わせるっていうのは、確かに効率が良いと思うかな。俺もいろいろ検証してきたけど、格段に威力も上がったし、応用も利くようになったからね」


「おお。やっぱりそうなのじゃな。魔法を体に纏わせるなんて事は、わしには思い付きもしなかったのじゃ。こう、グーンと溜めて、ダーンと発射させてお仕舞いだったのじゃ。わっはっはっ。やっぱり、おぬしは規格外なのじゃ!」


「えーっと。褒められてるのかな? まあいいか。ちなみに、炎を腕とか足に纏わせたまま、〈風〉の方向を考えて攻撃すれば、ミラの打撃なら、敵に与えるダメージが増えると思うよ?」


「なんじゃと! そんな事もできるのじゃな? おお。そうか、体の一部に炎を纏わせたまま攻撃するという事か。ふむ。魔力の消費を更に抑えられるという事なのじゃな。これも試してみん事には実感できんからの。ふむふむ。〈火〉を腕とか足に纏わせて、〈風〉で方向を敵に向ければ良いのじゃな。はっ。まさか、これは〈身体強化〉にも上乗せ出来るという事かの!」


「ストップ! ミラ。取り敢えず落ち着いて。〈火〉を解除してから考えようか。危ないからね。そのまま近付いて来ないでね。俺達燃えちゃうから」


「はい。落ち着いて下さい。ミラさん。熱いですから」


「おお。すまんかったのじゃ。反省するのじゃ。つい、興奮してしまったのじゃ」


「うん。じゃあ、移動しながら検証していこうか。馬車でも出来る事はあるからね。御者台なら、手に〈火〉を纏わせるくらいなら大丈夫でしょ?」


「おお。そうじゃな。早速、移動するのじゃ!」


「はい。移動しましょう。索敵は私に任せて、しっかり検証して下さい」


「うん。ありがとう、アリー。いつも助かってるからね。魔力を纏わせたり、循環させるっていう感覚は、〈身体強化〉にも役立つかもしれないから、ミラの後で、アリーにもコツを教えるね」


「はい! ありがとうございます。両親からしか学んだ事がないので、楽しみにしてます。へへへ」



  * *



 ミラは、体を動かして覚える体育会系の人。一度掴んだコツは忘れずに、すぐに自分のモノにしてしまった。さすがのミラクオリティ。

 これまで、魔法については感覚で使ってきただけだったので、魔力の消費もそれなりに激しかったらしい。それが、部分的に魔法を纏わせる事で効率が良くなり、攻撃力と持久力がアップ。


〈身体強化〉に〈風〉で方向を操るという、一見難しそうな操作も、さすがは風魔法の使い手。簡単な説明だけで、すぐにモノにしてしまった。勢いのつけ過ぎには要注意だけど、『これは止まる時にも使えるのじゃ』と、まったく問題なし。動きが格段に俊敏になり、更に戦闘力がアップ。


 ミラさん、アップアップ祭りです。食べ過ぎ、飲み過ぎには注意しましょうね。嬉し過ぎて、食事が止まりません。いや。魔力を使い過ぎて補給してるのかな。食べれば回復するって言ってたし。



 一方、アリーの魔力講習は、さすがと言うべきか、パブロとルイの教育によって、それなりに高い水準にあったみたい。


 講習とは言っても、俺も誰かに教えてもらった訳じゃないし、『魔法の手引き書』なる本もまだ読んでない。自分で検証してきた感覚で説明してるだけなんだけどね。それでもやはり、考え方や発想も人それぞれ。何かとアハ体験があるようです。俺の常識は非常識みたいだからね。お役に立てて嬉しいよ。



 魔力を全身に纏わせる感覚、魔力を全身に循環させる感覚。血液の流れ、身体の仕組み、筋肉の付き方、脳、心臓の役割。こういった情報は、こちらの世界では、まだ非常識。必殺技『スマホに入れてる『身体図鑑』を、あたかもユニーク魔法のようにして見せちゃいます』により、画像付きで分かりやすく説明。なんて説得力。百聞は一見に如かず。また実感しましたよ。


 獣人の特徴は、高い身体能力。その中でもアリーは、もふもふの【犬人族】。種族の特徴は、やや小柄で素早い。環境への適応能力が高く、比較的どこにでもいる。真面目で社会性が高い。といったモノ。これはアリーの両親、パブロとルイの談。


 魔法の適性がない分、俊敏性と嗅覚はピカイチ。〈身体強化〉は使えるらしいので、この講習で何かを掴んで、更に効率良く発動できるといいね。


 さすがに馬車の中では検証できないからね。アリーも、目をキラキラ輝かせながらブツブツ言ってるけど、索敵忘れてるよね? もう自分の世界に入っちゃったかな? 多分、俺も検証してる時は、こんな感じになってるんだろうな。うん。やっぱり検証は、朝の妄想タイムに頑張ろう。





 あっ。また出た。またゴブリンさんだ。この辺にはゴブリンさんしか居ないのか? 雑魚かもしれないけど、数が多いと脅威なんだよ? 意外とモノとか投げてくるし、投擲(とうてき)って地味に危ないんだよ? 当たり所が悪ければ、一撃必殺もあるからね? だから、近付く前に先制攻撃がいいんだよ。ここは街道沿い。俺の〈双眼鏡〉でも、バッチリ見えてるからね。


「『我が身を守り賜え』《鋼弾》×10(中)」


 シュッ シュッ シュッ …………!


 おっ。連射速度も上がってるぞ。『強化の指輪』のお陰だね。オデルローザで、報酬として2つも貰っちゃったからな。その分しっかり働いたけどさ。


 スピードも飛距離も上がってるから、よく当たる。これだけ離れてれば、投擲なんてする気も起きないでしょ? 届く訳ないからね。


 

 そう言えば、生活魔法の使い手とか言いながら攻撃魔法使ってね? とか思うよね? 俺も思ったし。でもね、生活魔法は、『安心して生活していく為に必要な魔法』だよ? こっちの世界でね。剣と魔法の世界だから、当たり前のようにモンスターも存在しているんだよ? だから、安心して生活していく為には、身を守る為の攻撃魔法も必要なんです。そう理解している今日この頃です。


 ただし、そこは生活魔法。しっかり線引きもあるようで、非致死性の攻撃には詠唱は要らないが、殺傷能力のある攻撃には詠唱が必要だった。じっちゃんの名に懸けて調査したのだが、未だになぜかは分からない。そこが拘りという事なのだろうと納得はしている。俺ってば大人だからね。



 詠唱要らずの攻撃魔法には、〈泥弾〉〈氷弾〉〈放水砲〉〈突風〉〈旋風〉〈スタンガン〉、剣を使った〈スラッシュ〉、〈火人弾〉などがある。


 詠唱必須なのが、〈鋼弾〉〈矢尻弾〉〈火弾〉〈氷矢弾〉〈火炎旋風〉〈イカズチ〉〈ソーラーレイ〉などがある。


 自分で言うのも何だけど、最後の3つは、かなりエグい。生活魔法なんだよね? こんな攻撃力が必要になるようなモンスターがいるのかな? と不安になるくらい、いろいろと考えさせられる魔法だ。



〈鋼弾〉は、人差し指を銃身に見立てた、いわゆる空気銃。アイテムボックスの『□武器庫』の中に入れてある鋼の弾に、〈雷〉同時使用で、発動速度、威力が上昇した〈突風〉を纏わせ、人差し指から射出する攻撃魔法。

 弾の大きさは、大中小の3種類。大は(こぶし)、中はゴルフボール、小はビー玉ほどの大きさだ。


『詠唱』もいろいろ試した結果、危険、敵性ありの場合のみ使える、少しだけ短いモノが、『我が身を守り賜え《》』。食料確保のために狩りをする事を想定したのモノが、『我が生活の糧となり賜え《》』だ。これで最短だった。


 積極的に攻撃をしてはいけませんよ。生活魔法なんですよ。という(いまし)めの意味があるんだろうなと思って納得している。『メッセージの主』からいただいたチカラだしね。




「あれっ。あっ、ゴブリンが……、居たんですね? ごめんなさい。考え事をしてました。私ったら、どうしちゃったんでしょう」

 

「大丈夫だよ。もう終わったから。この街道沿いなら見晴らしもいいから、アリーも休憩すればいいよ。ずっと1人で索敵するのも疲れるでしょ。お願いしたい時には、ちゃんと言うから気にしないでね」


「はい。ありがとうございます。私も、ちゃんと言ってから休憩します。ごめんなさい」


「うん。いいからね。じゃあ、馬車を止めるよ。魔石の回収と、〈土葬〉してくるから、しばらく索敵お願いね」


「はい。お任せ下さい。しっかり索敵します」




 うわ。相変わらずグロいな。やっぱり慣れないこの死骸。慣れちゃダメだと思うけど、臭いも凄いねからね。……5、6か。

 赤の魔石ばっかり増えてくな。まとめれば、それなりのお金になるけどさ。今は『首輪』用にも確保しておきたいし、そのまま保管するけどね。




「お待たせ。もう少ししたら、開けた休憩スペースがあると思うから、今日はそこで野営の準備だね」


「はい。お疲れ様です。本当にゴブリンばかりですね。強すぎるモンスターもイヤですけど、ゴブリンは匂いがキツいから嫌いです」 


「そうだよね。数が多いと、アリーには辛いよね。でも、その分早く見つけられるから、どうなんだろうね」


「えー。難しい問題ですね。臭い方が見つけやすいけど、その分辛い思いをするって。うーん。出て来ないのが1番です!」


「ははは。そりゃそうだ。出て来なければ、臭わなくて済むからね。うん。その通りだ」


「もう。笑い事じゃないですからね」


「なんじゃ。何を騒いでおるのじゃ」


「あ、ごめんね。うるさかった? ゴブリンが臭いから、出て来ないのが1番って話をしてただけだよ」


「なんじゃ。そんな事で騒いでおったのか。そんな事は当たり前なのじゃ。この街道沿いには、ゴブリンが多過ぎると思うのじゃ」


「確かにそうだよね。少し前に、領主からの伝令の使者が通ってるはずなんだけど、戦闘の跡もないし。他の馬車も、昨日からまだ見ないんだよね。これって、やっぱりおかしいよね?」


「ふむ。確かに、まだ誰にも会っておらんのじゃ。それに、ゴブリンも多過ぎるのじゃ。何か起こっておるのか、仕組まれておるのか。そんな所じゃの」


「そうですね。そう言えば馬車も通っていません。ここは街道だと言うのに、どうなんでしょうか。罠とかあったりするんでしょうか」


「やっぱりそう思うよね。警戒レベルを上げていかないとマズいのかな。明日には町に着くと思うから、何かあるとすれば今夜かな? じゃあ、早めに野営の準備しちゃおうか? 場所もズラして、少し違う所でシェルター作ろうかな」


「ふむ。その方がいいかもしれんのじゃ。おぬしの作るシェルターなら簡単には見つけられんし、入っても来れんじゃろうしの。全く便利な魔法なのじゃ」


「はい。タビトさんのシェルターは、規格外に快適で安全ですからね。それに、馬車も入れるくらい広く作るんでしたら、私も〈身体強化〉の検証ができますよね。早く試してみたいです」


「そうだね。安全第一が売りのシェルターだからね。じゃあ、適当な広さが確保できそうな場所に作ろうかな。今日はゆっくり休みたいし、襲撃を受けるなんて考えたくもないからね」




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