奴隷狩りの仲間になってみる?
ダーン!
「あん? なんだぁ? 銃声かぁ? こんな所に『スペード』が居たのかぁ?」
「間違いない。あの音は銃声だ。事情はどうあれ、『スペード』には違いない。この国で銃を持っているのは俺達ぐらいだからな。馬車もあるから丁度良い、こっちの馬車はお前が使い物にならなくしたからな。町までコイツらを運ぶ協力を仰ごうじゃないか」
「はんっ。仕方ねぇだろうがぁ。コイツらが下手に逃げやがるからよぉ。まったく余計な手間かけさせやがってよぉ」
「まあ、言うな。あの銃声は仲間の合図だ。まだ空に銃を向けてるからな。そいう決まりだったはずだ」
「あぁ? そう言えばそんな事言ってたかぁ。じゃあ、こいつら運んでもらうより、俺を乗せて行ってもらいたいぜぇ。もう俺の仕事は終わりだからよぉ」
「バカ言ってんじゃねえぞ。コイツらを売り捌くまでは、顔見せさせられないだろうが。馬車で運んで行くのが1番なんだ。分かってんだろう。全くお前は、自分で馬車を壊したんだからな。少しくらいは反省しろ」
「あぁ。面倒くせぇ。じゃあ。次の獲物が来るまで俺はあっちで寝てるからよぉ。獲物が見えたら起こしてくれよぉ」
「ちっ。好きにしろ。全く。お前と組むのは楽じゃない。代えてもらおうにも、こっちの意見なんて聞いてくれないしな。全く外れクジばっかりだぜ」
えっと? 銃声は聞こえたっぽいけど。何だ? あっちから手を振ってるぞ? 俺ってば、奴隷狩りに知り合いなんて居たっけな? あれれ~~?
「ミラ。アリー。何かあっちから手を振ってるんだけど。2人の知り合いだったりする? 訳ないか。御者台に乗っての俺だけだし。何でだろうね?」
「何を言っておるのじゃ。奴隷狩りに知り合いなんておるはずがなかろうに。わしが知っておるのは、以前におぬしと吹き飛ばしてやったヤツくらいじゃぞ」
「はい。わたしにも、そんな知り合いはいません。間違っても知り合いになんてなりたくないです」
「ははは。そうだよね。俺もそう思うし。じゃあ、何か勘違いしてるのかな? それなら、それに乗ってみようかな? その方が話しも聞けそうだし、隙を見て、逆に首輪はめちゃえそうだしね。ふふふふふ」
「うおっ。出たのじゃ。また出たのじゃ。タビトの悪い笑顔じゃ。これは悪巧みしてる時の笑顔なのじゃ。わしもその違いが分かるようになったのじゃ」
「うわ。本当です。悪巧みしてる時の笑顔です。相手が可哀想ですけど、この笑顔も格好良いです。えへへ」
「そうか。アリーはこういう笑顔も好みなのかの。わしには分からんのじゃ。この笑顔の後には、大概良くない事をしでかすのじゃ。それを思うと、格好良いとは思えんのじゃ」
「へえ、そうなんですね。いつもこの後にしでかすんですね。はい。覚えました。この笑顔を見たら要注意です」
ちょっと。俺がこれからどう対応しようか妄想中に、いや構想中に、何か酷いこと言ってたの? 最後だけ聞こえたけど、この顔見たら110番だって? あ。そこまで言ってないか。警察なんて無いし? 要注意だって? 俺? 何か悪い事したかな? するのはこれからだよ? ふふふふふ。
「じゃあ、俺が合図を返すからな」
「後は任せたぁ」
「ふん。好きにしろ」 ガァーン!
「おっとぉ。何だ? 向こうも同じように銃を空に向けて撃ったぞ? 何かの合図なのかな?」
「ほう。手を振った後に同じような事をしたのじゃな。そう言う合図もあるのかもしれんのじゃ。仲間同士の決め事としての」
「確か、その銃って珍しいんですよね。持ってる人が限られてるなら、その銃を使った合図があってもおかしくないと思います」
おう。さすが名探偵。迷ってるのは俺だけか? 確かにそうかもしれないな。チート武器持ってる時点で、奴隷狩り仲間に認定か? うーん。じゃあ、この流れに乗っちゃうのが正解か?
「じゃあさ、向こうは俺のことを仲間だと思ってるみたいだから、俺は今から『奴隷狩り』になるね? 勿論ふりをするだけだけど。2人にも協力してもらうからね? ふふふ。
丁度、隷属の首輪も『余り』があるからね? それらしい事したり、それらしい事言ったりすると思うけど、しばらくは耐えてね? 勿論本気じゃないからね。ね? 楽しそうでしょ? ふふふふふ」
「ほれ見るのじゃ。やっぱりこういう事になるのじゃ。タビトのあの笑いは要注意なのじゃ」
「はい。理解できました。本当に要注意です。これから気を付けます。でも私達が奴隷のふりをするんですよね? 何か新鮮な感じがします。ふりとは言え、タビトさんの奴隷って事ですよね? えへへ。何か楽しみです」
「おお。そういう考え方もできるのじゃな。わしらがタビトの奴隷とな。ほう。確かに面白いかもしれんのじゃ。わしが奴隷とは、わっはっはっ」
えーっと。こういう場合はどう返したらいいんだろうか。変な趣味に走らないでいただきたいんだよ? 俺にはそんな趣味はないからね? あくまでも、ふりをして油断させるんだからね?
「いい? 2人とも。これは、あくまでも奴隷狩りの仲間のふりをして、相手を油断させる事が目的だからね。マジのやつじゃないから安心してね? 話しを聞いて油断してる所で、タイミングを見て俺が首輪はめちゃうから。相手は2人みたいだから、上手い事位置取りも考えないと、下手すると多分戦闘になるからね。その時は頼んだよ、ミラ。アリーも無茶せずに、自分の身の安全を第一に考えてね」
「も、もちろん分かっておるのじゃ。タビトの奴隷になったわしの姿を想像して、喜んでおった訳ではないからの。ははは」
「はい。もちろんです。タビトさんから命令されてる私を想像して、ニヤケていた訳じゃないですから。えへへ」
あかん。早く次に行っとこう。そっちに走られても困るのは俺だ。馬車はゆっくり進めてるけど、ぼちぼち限界だ。2人に隷属の首輪、括弧、念のために魔石をはめて無いやつ。括弧閉じる。を着けてもらい、それっぽく振る舞うようにお願いし、そのまま馬車の中で大人しくしていてもらう事に。
馬車に付いてる領主の家紋? そんな家紋はありません。カモン! 薄型防御壁。しばらくこれで隠れてなさい。準備はこれくらいかな? あとはオイラの身の上の設定をどう組み立てるか。ふふふ。オイラわくわくすっぞぉ。どこまで騙せるかな?
念の為に、無詠唱で発動可能な〈泥弾〉〈放水砲〉くらいは、いつでも出せる心の準備はしておこう。おう! では参ります。
お待ちかねの、脚本の無い即興劇の始まりです。
「どうしたんだ。何か問題でも発生したのか?」
「ああ、すまないな。馬車が使えなくなったんだ。ん? 見ない顔だな。お前は『スペード』なのか?
いや違うな。『ダイヤ』か。なら丁度いい。今し方、こいつらを『クラブ』にした所だ。エルフが3人だ。いい儲けになる。アシャズの町に向かってるのだろう?
悪いが、ついでに『ハート』の所まで運んで欲しい。取り分はそうだな、報酬の1割って事でどうだ?」
おいおい。いきなり初耳ワードをぶっ込み過ぎだぞ? 理解が追いつかん。御者台からゆっくり降りながら考え方よう!
ここで『トランプ』に関係した名称が出てくる訳か。役割として呼び分けていると。ふむふむ。分かりやすいのか分かりにくいのか。面倒だな。
俺を『スペード』と勘違いして、姿形を見て『ダイヤ』に訂正。何か嫌な感じだけど、《スルー》して、以前のヤバい奴隷狩りの1人がスペードって名乗ってた訳だから、『スペード』は、奴隷狩りをやってるヤツら?
『ダイヤ』なら丁度いい、ついでに運んで欲しいって事は、運ぶ役割をダイヤと?
今し方『クラブ』にした所だ。って言っていたから、『奴隷』にした所だ。となる訳か? エルフと思われる3人が首輪してるしな。それがエルフか。うん。後でゆっくり拝見しよう。
『ハート』の所まで運んで欲しい。だから、ハートは奴隷を引き取る役か? 集める場所? まさか本拠地ではないと思うから、役割としての何か? やはり、狩った奴隷を引き受ける役か?
「ちょっと待ってくれ。俺は、『国境の町 オデルローザ』を経由して来たんだ。まだ話が見えない。お前は1人なのか?
それに、その3人を運ぶ上乗せの報酬としてはどうなんだ? エルフと言ってもピンきりだからな。こっちの相場も分からない。リスクと手間がある分、安い報酬では受ける気にならないぞ?」
「ほう。あの国境の町を経由して来たのか。それなら仕方ないかもしれんが、こっちの国ではエルフは高く売れる。3人もいるからな。その額の1割だ。アシャズの町もそんなに遠くはない。お前のリスクと手間を考えても、悪くない報酬になるはずだぞ。
それと、俺達は2人1組が基本だからな。あっちの木陰にもう1人いる。『スペード』のナンバー、『5』と『8』だ。『ハート』にそう言ってもらえれば通じるはずだ」
ほうほう。エルフは高いのか。1割でもいい報酬になるし、アシャズの町も遠くはないと。ふむ。コイツらは、2人1組が基本ね。それでこの前も2人組みだった訳ね。
で、スペードにはナンバーがあり、コイツらは、その5と8だという訳ね。更に、ハートは、コイツらの事をよく知っている人物と。
ふむ。なかなか良い解説付きトークだね。俺ないす。
「うーん。そうか。まあ、深く考えても仕方ないな。ここは信じるしかないのかな。ナンバー5と8だな。分かった。どうせついでだからな。それならその依頼は受ける事にしよう。そっちの3人を馬車に乗せるぞ?
俺はアシャズに行くのは初めてなんだが、何か問題は起こっていないか?」
「おお。そうか、引き受けてくれるか。正直助かるぞ。3人も連れて歩いて行くのは人目に付きやすい。リスクも高くなるからな。丁度良いタイミングで来てくれた。そいつらの後の事は任せたからな。頼んだぞ。
それと問題か? そうだな。そう言えば、ナンバー『6』と『7』がまだ戻ってきていないな。またどこかで遊んでると思うが、どこかで会う事があったら伝えてくれ。そろそろ『ケース』にも顔を出せってな」
おおっとぉ。出ました。6と7。この前のヤツらか? アイツらにもナンバーがあったのか。いや、あくまでも仲間だとしたらだな。ウロボロスのマーク。コイツらにもあるのかどうか、まだ分からないからな。よし。3人のエルフさん達を値定めするふりをしながら考察だ。
そろそろ『ケース』にも顔を出せと。トランプの入れ物? 拠点か本拠地か、どっちかだろうな。まだ戻ってきてないと言う事は、ケースは定期的に戻ってくる場所という事か。この近くにあるのか? コイツが拠点にしてる場所なのか? 何にせよ、ハートのいる場所とは違う場所になる訳か。
うーん。これ以上は考えても仕方がないか。変な聞き方をすれば、話の辻褄が合わなくなりそうだしな。
でも、6と7がこの前襲ってきた2人組みの事なら、もう戻っては来ないと思うよ? 俺達が旅立って逝かせたからね。安らかに?
それにしても、なかなか隙がないぞ。仲間とは思っていても、初対面だからな。不用意に近付き過ぎておかしいし、俺も焦っても仕方ない。ここは役割を演じましょう。
「分かった。ナンバー6と7だな。俺はこの国の町を巡る予定だから、もし会う事があれば伝えておこう。お前はナンバー5でいいのか?
そうか。では、ナンバー5が言っていたとな。よし、お前達、後ろの馬車に乗れ。…………
そうだ。契約をしたのはナンバー5でいいのか? それなら、取り敢えずコイツらに命令しておいてくれ。アシャズの町でハートの所に行くまでは、俺の言う事には従うようにな。それと、主の腕輪を渡してくれ。それが無いと話にならないぞ」
「おおそうだったな。悪かった。『クラブ』の扱いに関しては、まだ不慣れでな。確か、奴隷契約をした俺と、主の腕輪を持つ者の命令しか聞かないんだったな」
「ああ。その通りだ。ただ、やり過ぎてもダメだ。反抗されて、害意ありと判断されれば即死してしまうからな。商品の扱いは出来るだけ丁寧に頼むぞ。その方が高く売れるからな」
「ああ、分かっている。せっかく手に入れた『クラブ』だ。無駄にはしたくないからな。これが主の腕輪だ。よろしく頼むぞ。
よし、お前達。アシャズの町で『ハート』の所に行くまでは、この男の指示に従うようにな。そこで新しいご主人様に買って貰える事になる。これは命令だ。いいな、逆らうなよ」
おお。だいぶ謎が解けてきたぞ。さすが迷探偵の俺だ。
『クラブ』は奴隷って事で間違いなかったけど、『ハート』は奴隷を売る役か。裏の奴隷取引所って感じかな。うん。そういう事ね。
情報収集としては、中々の成果だな。
「よし、お前達。しばらくの間、俺の言う事は絶対だ。逆らうなよ。苦しむだけだからな。大人しく俺の後ろの馬車に乗れ。しゃべる必要はないからな、分かったらすぐに動け」
「ほお。流石に『クラブ』の扱いには慣れてるようだな。これなら大丈夫そうだ。後は頼んだぞ」
当然だ。ジャメンのお陰で、オデルローザの町で更に鍛えられたからな。伊達に『首輪の人』呼ばわりされてた訳じゃないんだぞ? いかん。その称号は既に抹消してもらったんだった。自分で蒸し返してちゃ意味ないな。あはは。《スルー》
「ああ。任せておいてくれ。報酬分の仕事はしっかりこなすから安心してくれ。
それで1つ聞きたいんだが、こっちではダイヤの数は足りてるのか? スペードの数次第なんだが、俺の仕事がこっちでも必要かどうか知りたいんだ。ハートに聞いても本当の所は分からないと思うからな。やはり現場で直接聞くのが1番だろ?」
「はっはっ。面白いヤツだな。まあ、確かにあの『ハート』のヤツは裏表があるからな。俺も信用はしてない。だが、『ダイヤ』の事までは俺達は関知してないな。何処に、どれだけいるかも分からない。それに、『スペード』の情報は極秘事項だ。初対面のヤツには話せない情報だな」
「ふっ。流石にそうだな。俺達は初対面だからな。悪かった。忘れてくれ。スペード様あっての俺逹だからな。これ以上は止めておくよ」
「ああ。そうしてくれ。よく分かってるじゃないか。そういうヤツは嫌いじゃないぞ。お互いに知らなくてもいい事は山ほどあるだろ? ふふ」
「それもそうだな。はは」
くっ、このままサクッと情報を引き出せると思ったのに、流石にそれは甘かったか。仲間の情報を売るような組織じゃないって事か。まあ真っ黒な犯罪組織だからな。少しの綻びで壊滅する恐れもある。ここまでの情報だけでも結構な収穫だしな。これからは、もう少し慎重にいこうかな。やれやれ。
おっ、チャンス。
《魔力感知》射程圏内にいる対象の魔力を感知し、おおよその魔力の質を感じ取る。有効射程は120㎝。
えっと? 何だ? 薄黒い何かが渦巻いてる感じ? これが負の魔力って事になるのか? うーん。チクチクする感じ。こんな魔力にずっと包まれてたら、俺まで黒く染まってしまいそうな不快感がある。よし、覚えたぞ。こういった魔力を感じたら110番だな。
この魔力、ピンときたら要注意!
こうやって会う人の〈魔力感知〉をしていって、それなりに違いを判別出来るようにしておかないとな。なにかと使えるこの魔法。結構好きだったりする今日この頃です。なぜかって?
それは、違いの分かる男を目指してるからですよ?