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そういう事は難しいね



 さ。この町でのお仕事はもうお仕舞いだ。今日はゆっくりして、明日の出発の準備でもしておこう。



「2人とも、お疲れ様。言いたい事はあると思うけど、宿までは我慢しようね。誰が聞いてるか分からないからね。ミラも、会議の場で何も言わずに、よく堪えられたね」


「ふん。当たり前のなのじゃ。あの場で何を言っても仕方ないであろうに。おぬしもそれを分かっておったから、何も言わなかったのであろう? それくらいの事は、わしでも分かるのじゃ。スッキリはせんかったがの」


「はい。何かスッキリしない調査結果でした。凄くイヤ~な感じがしました。あんな首だけ見せられても、本当の所は分かりません。ああいうのが『大人の事情』と言うヤツなんですか? 何かイヤな町ですね」



 おう。2人とも、やっぱり感じてる所は一緒だね。ま、その通りなんだけどね。やれやれだ。


「うん。そうだね。大人の事情って事で間違ってないと思うよ。さすが、2人ともよく理解できてると思うよ。確かに残念な町だから、早めに次の町へ出発しよう。いろんな人達がいて、いろんな町があるって事でいいんじゃないかな。そこは俺達がどうこう言う所じゃないしね。こういう経験を活かして俺達の場所作りに役立てれば良いんだからね」


「おお。さすがタビトなのじゃ。転んでもタダでは起きないその姿勢。わしも見習うとしようかの。と言っても、わし達は転んでもいないのじゃ。あんな事くらいで転ぶはずがないのじゃ。わっはっはっ」


「はい。この経験を活かして私達の場所作りに役立てましょう。凄く良い考え方だと思います。皆が一緒である必要はないんですよね」


「うん。そうだね。俺達は俺達だ。俺達が良いと思える方向で考えて、相談して、俺達の場所を作っていこう」


「あい、その通りなのじゃ。何だかんだ言って良い勉強になったのじゃ」


「はい。何事も勉強ですね。こういうのを反面教師って言うんですよね」


「あはは。そうだね。反面教師か。悪い面の見本として全てを否定するか。それとも、『()()教師』として良さそうな所は取り入れて、悪いと思える所は見直して活用してやればいいよね。せっかく経験させてもらったんだから」


「それもそうなのじゃ。何でも全否定するよりは、少しでも良い所を取り入れた方が効率がいいのじゃ。わっはっはっ。さすがじゃの」


「はい。また勉強になりました。さすがタビトさんです」



 えー。俺ってば、そんなに大した事言ってないけどな。何か、何を言っても肯定的に受け入れてくれるから、有り難いやら恥ずかしいやら。まあいいか。2人とも自分で考えられる頭は持ってるからね。俺が調子に乗らなければ問題無いはずだ。




 ん? あれれ~~?


 路上で人を集めて講演を行っている人がいる。実演販売なのかな? でも、ローブを纏った人が1人で、みんな座って聞いてるぞ? 宗教の勧誘? 有り難いお言葉を聞いてるとか? 説法とかいうヤツなのかな? 


 調子に乗って講演なんてやっちゃうと、後で大変な事になっちゃうかもよ? 俺ってば、その経験者だからね。襲撃されるなんてオチが待ってるかもよ? まあ、返り討ちにしてやればいいんだけどね。

 最初は、皆さんの視線が集まってくるから、場違いな感じがしてビビったりなんかして、ちょっと恥ずかしい気もするんだけど、話し始めちゃえばこっちのもの。出てくる出てくる、出てきたぞ? あれやこれやが口を突いて出てきちゃうんだよね。不思議な事もあるもんだ。

 メモとか原稿を用意してある訳じゃないからね、俺の場合。元からの性格なのか、環境がそうさせたのか。聞いてくれてる人達の顔を見てると、おっ、まだイケルのか? って感じで話し続けちゃうんだよねぇ。反省点その1だ。

 反省点なんて挙げていったらキリがないからね。もう止めよ。



 テレビショッピングとか、スーパーでの試食付きの実演販売とも雰囲気が違うからな。どっちかと言うと、やっぱり法事の後で、お坊さんから説法聞いてる感じなのかな。


「ねえ、ミラ、アリー。あれって、何をやってると思う?」


「何じゃ。ああ、あれかの。あれは行商の1つじゃと思うのじゃが、ほれ見てみるのじゃ。あヤツの後ろに荷台が置いてあるのじゃ。恐らく、あの中に売りたい商品が入っておるのじゃろう。何じゃ。あんなのに興味があるのかの」


「はいはい。私も、行商人さんだと思います。いらんな町で、いろんな行商人さんを見てきましたけど、ローブを纏ってやってるのは、初めて見ました。何を売ってるんでしょうか。少し気になります」


「あ。うん。興味というか、何やってんだろうなって思ってね。町の往来であんなに人を集めてさ。結構な人が集まってるから気になるでしょ? でも、そうか。行商人なんだね。そういう商売も出来るようにはなってるんだね。初めて見たよ。


 でもさ。あんな格好してるんだよ。魔法使いっぽい格好だから、何か凄いモノでも売ってるかもしれないよね。どう? ちょっと見て行かない? 面白そうじゃない? アリーも少し気になってるでしょ? あんな会議の後で、なんかスッキリしないからね。気分転換にちょっと見て行こうよ」


「まったく、しょうがないのう。少しだけじゃぞ。わしは全く興味がないからの。食べる物なら別じゃが、あそこからは美味しそうなニオイはして来ないのじゃ」


「はい。少しでいいですから見に行きましょう。何か面白い物を売っているかもしれません」


「ははは。ありがとう。ミラ。少し見た後で、屋台で串焼きでも買いに行こうか。その間に美味しそうなニオイを見つけておいてくれると嬉しいかな」


「おお。そうじゃの。串焼きも美味しいからの。早速、よさそうなニオイを見つけておくのじゃ。さすが、おぬしは分かっておるのう。楽しみにしておくのじゃ」



 ふんふんふん。


 ふんふんふんふんふん。



 おっ。話が終わっちゃったのか? 後ろに置いてあった荷台から箱を取り出してるけど、何だ? 皿とか壺とかを机に並べ始めたぞ?



「ねえ、あれって何か価値のあるモノなのかな? 行商して売って回るような、特別な何かがあるとかするのかな?」


「ん? 何じゃあれは? 皿に壺まで並べて何をやっておるのじゃ?」


「何でしょうか? 私も初めて見ました。キレイなお皿に、普通の壺のように見えますが、何でしょうね? でも、絵が綺麗ですから、もしかしたらそれなりに価値があるのでしょうか? 私には分かりりませんが、どう思います?」


「うーん。どうなんだろうね。俺も『鑑定』とか出来ないし、皿や壺の価値なんて分からないからね。観賞用に飾るとかの趣味もないし。

 あ、そう言えば、ジャッジメントの団長が、そういうのいろいろ持ってたな。『戦利品』として受け取った一式の中に、確か皿とか壺もあったよな。物凄く価値のある絵画とか、素人がつくった変な皿とかもあったかな。それで見比べても、俺には違いがよく分からなったからね。どうなんだろうね。ミラはどう? 価値とか分かる?」


「何を言っておるのじゃ。そんな難しい事が、わしに分かる訳がなかろうに。そもそも、腹も膨れんようなモノに大した価値などないのじゃ」


「あ。うん。そうだよね。価値観も人それぞれだからね。本人が価値があると思えば、それは価値のあるモノになるんだよね。

 鑑定する団体まで作って、人の好奇心と欲望を刺激しながら付加価値をつけていって、ボロ設けしていた組織もあったかな。

『価値』を商売にしちゃうんだから、物凄い商才だよね。人それぞれの願望と欲望、自分達の商売の事まで考えた凄い仕組みだ。一見そうと分からせないような演出も天才的だったかな。『お宝』。この響きに人は弱いんだよね。ははは」


 テレビで『価値』を公認しちゃうんだからね。自分達で価格を決めているようなモノだよ? 同じようなモノでも、これは100エーン。これは100万エーン。やりようによっては怖い仕組みだよ? 価値観は人それぞれだから否定のしようもない。テレビの権威効果のお墨付き。逆らえないからね。一方通行だし。最低額としても最高額としても、提示の仕方はその時の気分かな?


 でも、鑑定する側が凄いお金持ちになって行くんだよ? 何でだろうね? 怖いよね。大人の事情? うんうん。懐かしいなぁ。ウチにはお宝なんてなかったらからなぁ。全然関係なかったけど、不思議には思ってたんだよなぁ。


 あ、でも勘違いはいけないね。鑑定するお仕事。これは、高尚で、崇高なお仕事なんです。『モノ』に、誰もが分かるように価値を与える訳だからね。知識が無ければ相手にもされないし、信用もされない世界だから。『ウソ、大袈裟、紛らわしい』では通用しないんだよね。モノに命を吹き込むようなお仕事だ。俺には出来ないね。


 鑑定能力。鑑定無双。鑑定チート。夢だったのにな。俺の無い物ねだりのグチでした。はい。ごめんなさい。




 あれ? 待てよ? 今更だけど、俺のアイテムボックスに入れてやれば、ある程度の価値は判別出来るって事か。『素人が描いたよく分からない絵画』『物凄く価値のある絵画』『素人がつくった変な皿』『一見高く見えるけど、実は安いただの壺』って表示されてるんだよな。実際の価格までは分からないけど、この言い回しで、何となく高いのか安いのか、価値が有るのか無いのかは分かる。


 おう。ないす。まさか、『簡易』アイテムボックスに、こういった使い道があったとは。やはり『簡易』じゃない。『結構融通の利く便利機能付き俺専用アイテムボックス強化版』に名前変更できないのかな。いつもありがとうの感謝を込めて?



「『お宝』とな。何と、耳障りの良い言葉なのじゃ。確かに、お宝という言葉には心が引かれるものがあるのじゃ。わしも、その言葉には弱いかもしれんのじゃ」


「そうですね。確かに『お宝』って響きには、何か引かれるものがあります」


「そうだよね。お宝探検、お宝情報、お宝食材、お宝映像? 『お宝』って付くだけで、何か価値があると思っちゃうよね。『お宝』って言葉には、『言霊』って言う魔力が込められているのかもしれないね」


「おお。お宝食材とな。確かにそれは食べてみたいと思うのじゃ。その言葉には不思議な魔力が込められておるのじゃ」


「はい。お宝映像って言うのも、何だか凄い映像のようで見てみたくなります。本当に魔法の言葉なのかもしれませんね」


「う、うん。そうだよね。魔法の言葉って言ってもいいのかもしれないね。ははは」


 お宝映像? え? 見てみたくなる興味深い映像の事ですよ? 隠された意味なんてないよ? 隠された? 袋とじ?



「あれ? 何か、机に並べた皿とか壺とかを売り始めたよ?

 え? あの皿1つで10万エーンもするの? 10万、20万、30万て並んでるけど、違いがあるのかな? 見てるだけじゃ分からないのかな。うわ。あの壺は、1つで50万エーンだって」


「何とまあ、高い皿に壺じゃのう。そんなに価値のあるモノかの? わしには、その違いも価値も分からんが、あれは『お宝』なのかの?」


「本当にそんな値段で売ってますね。『お宝』なんでしょうか? 私には、そこまでの違いがあって、価値があるようなモノには見えませんけど」


「えー。そうだよね。流石にそこまでの価値があるようには見えないよね。何だろうね? もしかして、凄い特殊効果があったりするのかな? 普通に怪しいヤツなのかな? 話を聞いてなかったからな。何だろうね? でも、あまり関わりたくないから、もう行こうか」


「そうじゃの。あんな食べられないモノは、どうでもいいのじゃ。約束通り、屋台で串焼きを食べに行くのじゃ」


「はい。そうですね。価値も分かりませんし、あの値段なら欲しいとも思いません。関わっても仕方ないです。行きましょうミラさん」


「よし。じゃあ出発の準備もあるから、もう行こうか。ありがとう。ミラ。付き合ってくれて。美味しい屋台探しの方が今の俺達には価値があるからね」


「そうなのじゃ。そっちの方が、はるかに価値があるのじゃ。今日はたくさん食べるのじゃ!」


「はい。美味しい屋台探しの方が価値があります。みんなで美味しい屋台を見つけましょう!」


「ははは。そんなに引っ張らなくても大丈夫だよ。屋台は逃げて行かないからね。2人とも落ち着いてね」


「早く行くのじゃ。美味しいモノは売り切れてしまうかもしれんのじゃ。それに、こうやって手を繋いで歩くのも悪くないのじゃ」


「そうですよ。美味しいモノは売り切れちゃうかもしれません。早く行きましょう。はいっ。良いですね。こうやって手を繋いで歩くのも。えへへ」



 2人とも、そんなに腹が減ってたの? ガーディアンズの調査報告を含めた会議は、納得いかない大人の事情で終わっちゃったし、面白そうだった路上販売は、訳の分からない値段のモノを売っててガッカリだったし、変に時間潰しちゃったからな。ストレス発散に美味しいモノを食べたくなる気持ちも分かる。もういい時間だしね。


 お仕事も終わったし、今日は昼から飲んじゃうか?


 あれれ~~?


 乾杯したいだけ星人がやってきたぞ?




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