そういう事もあるもんだ
「ただいまー。あ。やっぱり2人とも帰ってたんだね」
「おかえりなのじゃ。今日は遅かったのじゃな」
「おかえりなさい。タビトさん。お疲れ様でした」
「うん。思ったよりも土魔法の使い手の皆さんが頑張ってくれたからね。思わず指導したりしてたら、遅くなっちゃったんだよね。ははは。でも、要望通りの施設も無事に完成したからね。実りのある作業にもなったし、良かったと思うよ。
それで、そっちはどうだったの? また検証の成果は出た?」
「そうじゃの。〈身体強化〉は、もうバッチリなのじゃ。〈バーサクモード〉の検証も、やはり楽しくて仕方なかったのじゃ。
〈火〉を腕と足に纏わせての攻撃じゃが、ようやくスムーズに切り替えが出来るようになったのじゃ。魔力消費も抑えられて、より効率的に攻撃ができるようになったのじゃ。
それに、魔法を一点に集中させた方が攻撃力も上がったのじゃ。凄い威力になったのじゃぞ。わしは、また強くなったのじゃ。こんなに嬉しい事はないのじゃ。
じゃがの、〈風〉もなかなかに使い勝手が難しくての、早く動けば動く程、制御も難しくなるのじゃ。やはり、訓練と実戦は違うのじゃ。『魔法の真髄』も、なかなか奥が深いのじゃ」
「そっか。〈身体強化〉は、もうバッチリなんだね。流石ミラだね。パワーアップした〈身体強化〉と、新しい〈風〉魔法の使い方の制御。それを同時にやってるんだから、そんなに簡単には出来ないと思うよ。普通ならね。そんな事が簡単に出来ちゃったら、そこら中の人が皆強くなっちゃうからね。やっぱりそこは、何かを掴んで努力した者勝ちって事じゃないのかな。
でも、ミラのセンスがあれば、そんなに難しくないと思うよ? 何度か実戦を重ねれば、体得しちゃうんじゃないかな」
「ふむ。そうじゃの。確かに、〈身体強化〉と〈風魔法〉、同時に意識を向けておったかもしれんのじゃ。〈火魔法〉も使っておったからの。それが魔法の制御を難しくしておったのかもしれんのじゃ。
ふむふむ。そうか。1度切り離してから考えた方がいいかもしれんのじゃな」
え~。ミラってば、いきなり3つの魔法を制御してたの? 確か〈身体強化〉は、補助魔法の分類だからカウントされないみたいだけど、パワーアップさせたばかりなんだから、身体の感覚も違うと思うんだよね。違和感があるって言うのかな。俺もそうだったし。
それでも、もう慣れてちゃってるみたいだし、〈火〉を纏いながら、そこまで繊細な〈風〉魔法まで扱ってたんだね。凄くね? 俺感動。やっぱり体育会系の人なんだね、ミラさんは。考える前にまず行動。え? 別にやれるんじゃないの? って感じのノリでやってるのかな? その方が凄いと思うんですけど。
施設を一緒に作ってた土魔法の皆さんから聞いたけど、俺の生活魔法と違って、魔法使いの皆さんは、1つずつしかの魔法は使えないんじゃなかったっけ? 多重詠唱は出来ないって言ってたぞ? あれれ~~?
「ちょっと、ミラさんや。〈火〉と〈風〉を同時に使ってたの? それって、出来るんだっけ? 普通は、1つ魔法を使ったら、その後でまた詠唱するんじゃないのかな?」
「ん? 何を言っておるのじゃ。別に難しい事でもないのじゃ。〈火魔法〉を身体に纏わせてから〈風魔法〉を操っておるのじゃ。それくらいなら、すぐに出来るようになったのじゃ。そこから2つを操作するのが大変なのじゃ。何かいいアイデアがあったら、教えて欲しいのじゃ」
「ああそうか。〈火〉を纏わせてから〈風〉を操ってる訳ね。それなら同時に詠唱しなくていいし、可能って事だね。うん。勉強になったよ。
でも、その後に〈火〉と〈風〉を同時に操ってるんでしょ。それでも凄いと思うよ。さすがミラだね。でも、さすがに2つ同時は難しいと思うから、まずは1つずつものにしていった方がいいんじゃないかな。繊細な制御が必要なら尚更だと思うよ。
どちらか1つでも先に制御出来るようになれば、後はそこに付加してやる感じで考えれば、ミラならパワーアップさせられるんじゃないかな」
「おお。そうじゃろ、そうじゃろ。さすがわしなのじゃ。
じゃが、ふむそうか。まずは〈火魔法〉の制御を体得してから〈風魔法〉の制御を加えた方がやりやすいかもしれんのじゃ。〈バーサクモード〉を体得するには、それなりに手順も必要なのじゃな。奥が深いのじゃ。
パワーアップした〈身体強化〉も、ようやく身体に馴染んで来たからの。わしのセンスがあれば、もう少しで〈バーサクモード〉も体得出来るかもしれんのじゃ。さすがタビトじゃ。ありがとうなのじゃ。
よし。また考えてから、実戦に出る事にするのじゃ」
あれか? バーサクモードを早く使いこなしたくて、同時に使って検証してたのか? しかも、何か違う方向に行ってるよね? 俺のは、あくまでも演出用だよ? それを攻撃に特化させて使おうとしてるよね。さすがなのかな。さすが攻撃特化型のミラクオリティ?
あれ? でもそれって、俺もやろうと思えば出来るって事だよね? 何なら、8つの属性全部纏ってやってみる? 〈火〉〈水〉〈土〉〈風〉〈光〉〈雷〉〈闇〉〈氷〉とあるからね。『必殺! 生活魔法の宝箱や~~!』とか言いながら突っ込んでみる? 極大の精神ダメージが俺に入るわ! それに肉弾戦なんてやりたくないからね。痛いのイヤだし。即却下だ。ふっ。
「そうだね。順番にものにしていった方が良いと思うよ。後は繰り返し練習して、身体に覚え込ませるしかないけどね。ミラのセンスがあれば大丈夫なんじゃないかな。
でもね、明日は休息日というか、また町の全体会議に呼ばれているからね。森での検証はお休みね」
「おお、確かにそうだったのじゃ。明日は、ガーディアンズからの調査報告があるんじゃったな。ふむ。仕方ないのじゃ。
〈バーサクモード〉発動後の掛け声も何とかしないといけないからの。丁度良い機会かもしれんのじゃ。
『ふおおーーっ!!』っとやると、確実に獲物に逃げられてしまうのじゃ。残念じゃが、威嚇する時以外には使わない事にしたのじゃ。何か別の掛け声を考えるの必要があるのじゃ」
「う、うん。そうだよね。あれは、あくまでも威嚇用だからね。獲物の前でやっちゃうと、逃げられちゃうよね。俺も止めた方がいいと思うな。掛け声は、人それぞれに合ったモノがあると思うから、ミラがしっくりくる方法でもいいと思うな」
「ほう。確かにそうなのじゃ。わしに合ったやり方かの。ふむ。しばらく考えるとするのじゃ」
「そうだね。慌てる必要もないし、ゆっくり考えると良いよ。何せ『魔法の真髄』を使った〈バーサクモード〉の掛け声なんだからね。ミラらしいモノを期待してるよ。ははは。
それで、アリーはどうだったの?」
「はい。私も〈身体強化〉は、もうバッチリです。身体の感覚も馴染んできましたから、もう違和感もありません。身体のパワーアップと、索敵範囲の拡大。これからは、もっとお役に立ちますからね」
「そっか。違和感を残したままにしておくと、段々調整が難しくなって行くからね。早めに調整出来て良かったよ。これも実戦のお陰なのかな。アリーの索敵能力は凄く頼りにしてるから、これからもよろしくね」
「はい。お任せ下さい。タビトさんに頼りにされると、物凄く嬉しいです。頑張った甲斐がありました。
でも、私にも〈バーサクモード〉が出来るかどうかの検証をやっていたんですけど、なかなかヒントも掴めなくて進んでいません。やっぱり難しいです」
おう。アリーまでそっちの方向で俺の黒歴史にスポットを当ててくるのか? アリーが『ふおおーーっ!!』なんて言い出したら、ショックなんてもんじゃないぞ。確かミラがやってるのを見て憧れてたしな。やりかねないのが怖いぞ? マジで耐えられないかもしれないな。一撃で精神崩壊級のダメージが入りそうだ。
「そうなんだ。アリーも〈バーサクモード〉に挑戦してるんだね。ふう。まあ、アリーがやりたいっていうなら止めはしないけど、人には向き不向きがあるからね。何でも俺達と同じようにならなくてもいいんだからね」
「はい。そうなんですけど、私にも出来るかなって思って検証していたんですけど、全然ダメみたいです。私にも、何かいいアイデアがあったら教えて欲しいです」
「そっか。どうしてもやりたいって言うなら、いろいろ考えていかないとね。でも、種族による魔法適性の縛りがあるなら難しいと思うからね。それはどうにも出来ないって事は理解しておいてね」
「はい。そうですよね。私達犬人族には、魔法の適性がないんです。ごく稀に使える人もいるって聞いた事はありますけど、実際に見た事はありません。だから諦めてはいたんですけど、ずっとお2人を見ていたら、私にも出来たら良いなって思えてしまって……。えへへ。変ですね、私。どうしちゃったんでしょうか……」
ああ。やっぱりそうか。俺達と一緒に居て、いろいろ見てきたからな。魔法の有用性も、格好いい所も? 憧れと嫉妬もあるのかな? いや、アリーの事だから、もっと役に立ちたいって感じだろうな。優しさに溢れてるからね。本当に良い娘だなぁ。俺ってば、涙が出てきちゃうぞ?
「アリー。アリーの気持ちは良く分かったよ。いつも頑張ってるからね。ありがとう、アリー。
アリーに出来ないことを俺達は出来るかもしれない。でも、俺達に出来ないことを、アリーは出来るんだ。アリーには、俺達にはない、ずば抜けた索敵能力がある。それに、俺達の為に花嫁修業までしてるでしょ。なら、その出来ることをやってくれればいいんだよ。何でもかんでも、1人で背負う必要はないんだ。そんな事は俺達にも出来ないからね。
俺達がみんな同じようになっちゃったら、どう思う? やっぱり、お互いに長所と短所を補い合って行けた方が良いと思うんだ。その方が信頼も生まれるし、相手を大切にしたいって強く感じると思うんだ。俺の考え方だけどね。
想いは皆それぞれにあっていいと思う。アリーが頑張っているのも勿論知ってるし、もっと強くなって皆の役に立ちたいって気持ちが伝わってくるから、余計に思っちゃうんだよね。アリーは、いつもの笑顔でいてくれたら、それで良い。戦いや、交渉事は俺達に任せてよってね。いつも感謝してるんだよ? その笑顔にね。ははは。また長話しちゃったね」
「…………」
「ん。アリー? どうしたの? でも最低限、俺達に迷惑を懸けないように、自分の身を守るチカラが欲しいって気持ちも分かるから、協力はするからね。その気持ちは大事だと思うから。パワーアップした〈身体強化〉でも足りないって思うなら、アリーなりの〈バーサクモード〉も一緒に検証してみようか」
「…………、ぐすっ。はい。よろしくお願いします。何でもお見通しなんですね。もっとお役に立ちたくて、もっと強くなりたくて、……私、ちょっと焦っていたのかもしれません。
2人とも、どんどん離れて行ってしまうようで、……。だから、私、無理しちゃってたのかもしれません。
でも、楽しかったのも本当の気持ちなんです。こうやって話を聞いて、考えて、実際に検証して。私ももっと成長出来るって思えて楽しかったんです」
「うん。いいんだよ。無理する必要はないんだ。やりたい事をやればいいと思う。それがアリーの負担にならなければね。楽しいって思えるって事は、大切な気持ちだ。上達も早くなるし、良い気持ちが循環して、どんどん成長できる事もあるからね。アリーにとって負担じゃなければ、それでいいんだ。協力するよ。でも、変に負い目を感じたりして、無理だけはしないでね?」
「はい! ありがとうございます。元々私には戦闘能力がありませんでしたから、多分そこまで凄い事は出来ないと自分でも分かっているつもりです。それでも、もう少しだけでも成長できれば、お2人の戦闘の邪魔をしないで済むと思うんです。パワーアップした〈身体強化〉があれば、敵の不意を突いて逃げる事もできますし、もしもの時には、〈バーサクモード〉があれば心強くいられるかなって思ったんです」
「そうなんだ。そこまで考えてくれてたんだね。ありがとう。アリー。嬉しいよ。やっぱりアリーも凄いと思うよ。そこまでの事を考えて行動を起こしてるなんて、なかなか出来る事じゃないと思うよ」
「えへへ。ありがとうございます。私がこうして笑っていられるのも、タビトさんや、ミラさんのお陰なんです。だからこれからも、お2人の負担にはならないように、しっかり後ろからサポートしていきます」
「さすがなのじゃ。さすが2番目なのじゃ。その覚悟、その思い。やはり、わしが認めただけの事はあるのじゃ」
「ははは。うん。やっぱり2人とも笑顔の方が可愛いね。ありがとう。また良い気分で乾杯できそうだ」
「おお。また、可愛いとな! まったく、おぬしは不意に嬉しい事を言ってくれるのじゃ。わしは笑顔も可愛いと言う事なのじゃな。ふむふむ。それなら、いつも笑顔を心掛けるのじゃ」
「きゃーっ。タビトさんに、また可愛いって言われました。嬉しいです。私も笑顔を心掛けるようにします」
「あ。うん。そうだよね。笑顔って大事だからね。その心掛けは良いと思うけど、無理して笑う必要はないからね。作り笑顔も、時と場合によっては逆効果だから。2人はいつもの通り、いつものままで居てくれれば、それでも十分可愛いからね」
「おお! おぬし言ったな。いつも可愛いとな! よし。今日も乾杯じゃ! まだ酒は飲まんのじゃが乾杯するのじゃ!」
「はい! 聞きました! いつも可愛いって! きゃーっ! もう乾杯するしかないです! さっそく乾杯しましょう!」
人生には、3度の『モテ期』があると言う。
言ったヤツの名前と、発言した年月日は?
本人の自覚の有無に関わらず、そういう運気が来ているのだそうだ。残念ながら、あっちの世界での検証は1度も出来ていなかったのだが、間違いなくコッチの世界では、これが1度目のモテ期だと思う。うん。間違いない。そういう運気はあったようだ。
もしかしたら、これで3度分使っちゃってるのかもしれないけどね。それくらいの素晴らしい2人だと思う。うん。もう、それでも良いと思うかな。ははは。
「タビトよ。こんなわしも可愛いかの?」
「タビトさん。こんな私も可愛いですか?」
「…………」
「タビトよ。こんなふうに食事を楽しむわしも可愛いかの?」
「タビトさん。こうやって食事のお世話をする私も可愛いですか?」
ん? 素晴らしい2人だと思うよ? 思ってたよ?
あれれ~~?
そりゃあ2人とも可愛いと思うけどさ、酔ってないよね? 酒は飲んでないはずなんだけどな? おかしいなぁ?
はっ。もしかしたら、これも〈身体強化〉の仕業だとか? あれれ~~? うーん。奥が深い。さすが『魔法の真髄』。なのか?