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優しい世界のあるきかた  作者: くーよん
第2章
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16話 戸惑いと転落

 広い街道に行き交う旅人、馬に乗った冒険者らしい風体の一団。たっぷり藁を積んだ荷車に、幌付きの馬車には異国生まれらしい肌色をした行商人。王都が近づけば人通りも多くなる。

 そして、その街道の続く先には真っ白な城壁に護られた王都の風景があった。エディとロイドが少し興奮した様子で声を上げる。そして、隣で風景を眺めるミアお嬢様が僕の様子を見て首を傾げた。


「リオ様は落ち着いてらっしゃいますわね。王都は初めてじゃないのかしら」


「あ、いや、そのー……前に一度話には聞いてたから。でも凄い、こんなに立派なんだ……」


 僕はやり直し前に王都には来た事があったから、二人ほどははしゃいでいなかったけど、凄い、と思ったのは本当だ。僕の記憶にある王都の風景は、村から一週間はかけて歩いてやっと到着した夜の事。

 青白い月の明かりのなか、ぬらりと暗くたたずむ外壁は綺麗と思えなくて、なんだか大きな魔物が寝転がってるように見えた覚えがある。あの時の僕も、昼や朝に見れば、こうして感動したんだろうか。


「ふふん、城壁で驚いていたら街中や王城を見たら目を回してしまいますわよ?」


 隣で胸を張るお嬢様に僕はちょっと笑う。もう二度と戻る事はないと思っていた王都は、僕達をあっさりと迎えてくれた。



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 大通りは、行き交う人や露店の呼び込みで賑わっていた。門に構えてた兵士の一人が馬に乗って、僕達の馬車を先導してくれている。神託を受けたという勇者の話はちゃんと届いていた様で、門番のお兄さんはまるで僕達を貴族か何かの様に扱ってくれた、なんだか恭しすぎて居心地が悪い。

 あまり気にした様子もなく、お嬢様は馬車の中で大きなクッションに座ってくつろいでいる。


「お嬢様はともかく、僕達にまであんな風に丁寧に接してくれるなんてこう、なんか、勿体無い気がします」


「何をおっしゃいますの。勇者であってもなくても、宰相の娘を助けた手柄は本当ですもの。堂々となさいましな。……ああ、御者のおじ様、この辺りで止めて下さるかしら」


「あれ?まだ王城は先ですよ、ミアお嬢様」


「いくら宰相の娘でも、王城にはおいそれとは入れませんのよ。私はこの辺りで家に戻りますわ」


 そう言って微笑めば、お嬢様は僕の手を取って握る。内緒話をするみたいな距離まで綺麗な顔を近づけられれば、流石にドギマギしてしまう。長い金色の睫毛を伏せ微笑むお嬢様は、僕と同じ位の年であるはずなのにぐっと年上に見えた。


「リオ様、最後にもう一度お礼を言わせてくださいまし。貴方達が居なかったら、私はあそこで死んでいたはずですもの。そうしたらお父様がどれほど悲しんだか……この御恩は忘れませんわ」


「エディも言ったじゃないですか、僕達は勇者なんだから、困っている人を見つけたら助けるのが当たり前です、って。だから、それで良いんですよ」


「ふふ、リオ様はそんな荒事には向かないと思いますけれど」


 口元に手を当ててたおやかに笑うお嬢様に僕もはにかんで返す。しかし、そこから更にグイっと顔を近づけられた僕は驚いて硬直する。その耳元で、お嬢様はこんな事を言った。


「レイナートにもまた逢ってあげて下さいましな?あの人が自分の腕の中に人を乗せるなんて初めて見ましたもの。ましてや、戦場で。貴方が逢いたいと言ってくれればあの人も喜びます。堅物で困っていたの」


「へ?」


「お仲間お二人には内緒ね、きっと私が睨まれてしまいますもの。ああでも、エディ様は未来の勇者様だから、私も狙っちゃおうかしら」


「え、いや、二人ともそんな関係じゃないですけど、あの、お嬢様?!」


「失礼します。ミアお嬢様、参りましょう。……リオ殿、どうかされたか?」


「い、いえ、何でも……」


 真っ赤になって僕が誤解を解こうとしたけど、そこで丁度馬車が止まってレイナートさんが顔を出す。お嬢様は、レイナートもお別れを言いなさい、と促して先に馬車から出てしまった。

 それに頷いてレイナートさんが馬車の入り口に入り僕に顔を向ける。お嬢様の言葉で混乱している間に、胸に拳を立てる騎士の礼を向けてレイナートさんは大人らしく落ち着いた表情で微笑んだ。


「リオ殿、この度はあなたに護られたが、騎士は護る事が本分。あなたを守る機会があれば、この身を呈して」


 僕は酷く気恥ずかしい気持ちでいっぱいになってしまって、頷くしか出来なかった。それを見てレイナートさんも頷き返す。何か言おうと思ったけど、言えないうちにレイナートさんは外に出て行ってしまった。


「じゃあなお嬢!」


「ええ、エディ様もお体に気をつけて。またお会いしましょう、勇者様」


「……もう迂闊な事をしないようにお気をつけて」


「ロイド殿、その時は私が止めるよ。今回の事は良い教訓になった。」


 馬車の外で四人が話す声。そして遠のいていく蹄の音。僕は馬車の中でそれを聞き送るしか出来ないで、馬車を覗いた二人が僕を心配してくれたけど、疲れたのかなと笑ってごまかした。

 馬車は、そのまま王城に僕らを運んでいく。切り替えよう、と僕はほっぺたを叩いた。……そうだ、やり直し前には、謁見の時にもひと騒動が起こるはずなのだ。



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 そして王城、謁見の間。

 僕達を王座から見下ろす王様は、僕らを見てこう言った。


「この者達を牢に入れよ」


 ……地下牢の床はとっても冷たかった。

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