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がめついパイロット

がめついパイロット 世界樹の枝

作者: 電子紙魚

 ジャンは世界王を仰ぎ見ていた。巨躯の上に鎧を着こみ、フルフェイスのマスクをかぶっていた。

「跪かないとはいい度胸をしている」豪快に笑った。

 ジャンを囲むように並んでいる力の信奉者たちは苦々し気にジャンを見つめていた。

「それでご用件は何でございましょうか。これでも忙しいのですが」

「世界樹に案内しろ。金ならいくらでもくれてやる」

 慇懃に一礼した。「申し訳ございません。ご要望にはお応えかねます」

「看板に偽りがあるのか」「世界樹は自らが認めた人以外には会えないのです」

 ジャンのいた場所が爆発した。世界王が魔法を放っていた。

 ジャンの姿が世界王の横に出現した。感知した王はさらに雷を飛ばした。

 雷は床に穴をあけただけだった。群臣は唖然として2人の戦いを眺めていた。

 介入など考えられない。一撃でも食らえば死んでしまう。

 圧倒的な力の差で勝てないと思ったから配下になっていた。

 ジャンの姿は王の頭上にあった。

「乱暴な方ですね。お暇させていただきます」一礼して消えた。

 そこに人を包めるような炎が通過した。天井に激突し火の粉と天井の破片を群臣の頭に撒いた。

 カミラは師匠のマリーに言いつけられて森で薬草を探した。

 カールした肩まである茶髪をなびかせて箒で低空飛行していた。

 それらしい草を見つけるとホバリングして確かめる。

 違えば飛び去り、薬草ならば魔法で摘み取る。

 魔法を手足代わりに使えることで不精になっていた。

 それでいて痩せているのは小食故だった。

 痩せているだけでなく小さかった。12歳だが7歳ぐらいにしか見えない。

 体力がない。身体を動かせば腹も減って、量も増えるだろうに、器用に魔法で

何でもできてしまうので頼ってしまう。

 魔法ならいくらでも使えるし腹も減らない。

 大きな魔法は使えないが種類ならマリーを超えていた。

 マリーは何とかしてカミラに体力をつけさせようとしたが今のところ成功していない。

 そこで知り合いのエルフに魔法力強化を理由に預けた。

 エルフは人よりも魔法力が多い。しかも長生きのため巧みになる。

 エルフ並みに行使するには魔法力がいる。

 魔法力は体力によるというのが魔法使いの常識だった。

 エルフのエーファはエルフらしくないやや丸まった耳を黒く長い髪の毛で隠していた。

 カミラを一目でハーフエルフと見破った。

 カミラとしては隠していたわけではない。幼いころに両親からはぐれていた。

 さまよっているのをマリーに拾われたのだった。

 エーファはエルフの中でも特にいたずら好きだった。

 一見するとスレンダーな女性でしかない。外見を利用してちょっと魔法を使う。

 歩いている人の足元の土を盛り上げるとか下げるなんてのは序の口だった。

 手が込んでくると目的地の周辺に結界を張って認識できなくする。

 つまり永遠に目的地につけなくしてしまう。

 永久に行けなくするなんてことはなく、少し遊んだら解除してなかったことにする。

 カミラにも同様にいたずらを仕掛けた。

 ものの見事に引っかかっていたカミラだったが、すぐに慣れてしまった。

 それどころか真似して逆に仕掛ける。エーファが転ぶと笑い転げた。

 かっとなったエーファが透明になってカミラを小突いたり、くすぐったりした。

 魔法を繊細に扱って透明になる。見えないし、触れもしない。

 意外と難易度が高くエルフでもできないものがいる。

 成長が遅いエルフでも成人して久しいエーファは大人げなかった。

 普段いたずらをしているのが逆になってキレたというべきか。

 ねちねちとカミラをいたぶった。ただ起きて何もしていないときに限っていた。

 エーファにとっていたずらはスキンシップのようなものだった。

 幾度も透明になる魔法を行使しているとカミラが真似をした。

 最初からうまくいくはずがない。そもそもきちんと勉強しなければ使えない。

 エルフであっても原理を理解しなければ上達もしないし、高度なものは実行できない。

 カミラはまだ基礎段階だった。人ははるかに遅れていてただ魔力を放出しているだけだった。

 そのため魔法を使うと体力を消費してしまう。きわめて燃費が悪い。

 笑っていられたのは最初だけだった。2日で透明魔法をマスターした。

 厄介なことに返し技もすぐに覚えた。年季が違うのでちょっと応用して引っ掛けられるが、

すぐに追いついてくる。イタチごっこをしていた。

 体力はないし、やせっぽちでちびなままだが、魔法は上手になった。

 エーファの影響でいたずら好きになったのはご愛敬。

 カミラを送り出してマリーは周辺の村々をまとめようと奔走した。

 先頭に立つべき領主が逃げているから、有名なマリーに村長が白羽の矢を立てた。

 固辞したのだが、懇願され仕方なく受けていた。

 経緯はどうであれ動きはアグレッシブだった。

 精力的に村々を回って一か所での防衛戦を説いた。

 武器でも数でも負けているので、まとまることに異存はなかった。

 しかし、どこを防衛するかでもめた。どこも自分の村を守ることに固執した。

 残っている者たちは自分の土地を死守したいのであって、他人の物などどうでもよかった。

 足並みがそろうことなく世界王軍兵がなだれ込んできた。

 マリーのいる村は土魔法で全周を堤と深い空堀で囲った。

 魔法使いがいなければとても終わりそうにない作業量だった。

 そのため軍は一部の兵を残して他の村を襲撃した。

 他では精々村の一部に浅い空堀を掘り、残りに逆茂木を置くことしかできなかった。

 当然のことながら女や子供は逃がしている。

 足弱が逃げる時間を稼ぐことが最大の目的になっていた。

 だが、軍は村の攻撃と逃亡者の追跡を分けた。

 男たちを皆殺しにし、捕まえた女は凌辱した。

 子供にも容赦はなかった。賭けの対象にしていたぶった。

 そんな彼らに助けはなかった。泣き叫ぶのを笑いながら殺していった。

 マリーたちは飢えに苦しんでいた。すでに包囲されて4か月が過ぎていた。

 食料の余裕はなかった。隠した女子供に持たせてもいた。

 彼らがどうなったか知るすべはない。村からそう遠くはないが、連絡をとったら見つかる。

 人数と食べる量から隠れている方は食べ物があるかもしれない。

 ほとんど戦ってはいないが、見張りなどで動き回るから2か月で食料は尽きた。

 草の根や木の皮で糊口をしのいでいた。

 限界が近い。村人たちは包囲の突破を企画していた。

 老人で死んだ者もいる。食べ物になるのだが、村長たちは荼毘に付した。

 突破というが実際は特攻になる。生きることをあきらめていた。

 彼らはみな死にざまを考えるようになっていた。それを覆す力がなかった。

 カミラがエーファとともに村に戻った時にはマリーは虫の息だった。

 生きているのが不思議なくらい衰弱していた。

 村には6体の遺体が放置されているだけだった。

 残った男たちが突入したため村は荒らされなかった。

 手間をかけて焼き払うよりも次のターゲット目指して去っていった。

 マリーは最後の力を振り絞っていた。

「これに金貨の隠し場所が書いてある。ジャンという道案内を探して世界樹まで連れて行ってもらいな。

金はこれで……」マリーの目から光がなくなっていく。

 カミラが身体をゆすった。「師匠。死なないで。もっと魔法を教えて……」

 マリーが冷えていく。涙を流しても戻ってこない。

 エーファがカミラの肩に優しく手を置いた。

 カミラはマリー以外に親しい人はいない。村人であっても挨拶するぐらいの間柄でしかなかった。

 ジャンの居場所を聞くべき相手に心当たりがあるはずがなかった。

 エーファもそれほど人と交わってはいないが、それでもカミラよりはマシで、知己の魔法使いを尋ねた。

 力のある魔法使いたちだった。そのために人々に頼られることも多く、戦いに散った者たちが多かった。

 世界王軍は進攻とともに人数の拡大していた。

 抵抗または逃げる者たちには容赦はなかったが、降伏することは認めていた。

 降伏しても略奪はされる。それでも仲間に加わりたいものには門戸を開いていた。

 ほとんどは犯罪者か予備軍ばかりだった。中には家族のためというのも少数だが混ざっていた。

 エーファはなるべく敵軍との接触を回避しようとしたが、カミラはいつも敵に突っ込んでいった。

 箒で上空を飛来し、地面を兵士ごと陥没させる。逃げ場をなくした兵士に上空から巨大な炎を落とす。

 兵士たちは生きながら焼かれていく。1回で数百人から千人を殺していく。

 兵士たちも矢を放って抵抗するが、矢はエーファが風の魔法で防ぐ。

 次に向かおうとするが、魔法力が枯渇し失速する。

 エーファが回収して逃走する。そんなことを繰り返していた。

 生き残っていた魔法使いたちもジャンの情報は持っていなかった。

 いるかもしれないという希望だけでルティの町の商人ギルドを訪れた。

 カミラがジャンに紙片を渡した。「これに金の場所がある。世界樹まで案内して」

 エーファが止める間もなかった。交渉になっていない。

「少々お待ちください。確かめてまいります」

 ジャンが転移し、数秒で戻ってきた。エーファの目が丸くなった。

 魔法が得意とされるエルフであっても1度も行ったことのない場所に転移はできない。

「私が要求する金額はありそうですね。ただ、私が案内をするのはエルフの里から先だけです。

エルフの里までは自力でお願いします」

 ジャンから目を離すことなく、「お願いするわ」カミラの返答は反射的だった。

 金の隠し場所が書かれた紙をジャンが戻そうとした。

「いらないわ」拒絶されて、エーファに紙片を伸ばした。

 訳が分からずうろたえた。「契約が完了し金貨は回収しました。残っているのでお返しするのですが」

 どのくらいあったのかそして依頼料がいくらだったのか全く不明だった。

 カミラは金のことをほとんど知らない。金どころか魔法以外には無関心だった。

 エーファも詳しくはないがカミラよりはましだった。

 それでも人とは違う常識で生きている。金はないと困るくらいでしかなかった。

 エルフの森で2人は魔物と戦っていた。1匹倒すのに時間がかかる。

 森は結界で包まれているが、認識阻害の機能しかないため人以外には無効だった。

「どうしてこんなに強いのよ」エーファが叫んだ。

 原因は世界王にあった。エルフが人と共闘しないように魔物の壁を作った。

 周辺にいた魔物をエルフの森に閉じ込めたのだった。

 魔物たちは食い合いをし、強いものだけが生き残る。

 人為的な進化というか蟲毒というべきか。

 数も結構いる。密度が高い。獲物になりそうな2人に群がってくる。

 地上だけでなく飛行する魔物もいるので飛べない。

 そもそもエルフの森には結界があり高度は取れない。

 低空を箒ですり抜けるのが速いのだが、魔物も速度に対応していた。

 ぼろぼろになってエルフの里にたどり着くと長老とともにジャンが出迎えた。

 エーファが膝から崩れ落ちた。転移魔法を忘れていた。

 エーファにとって里は故郷であり楽に転移できた。

 結界の内側ならばカミラを連れても楽勝だった。

 魔物が多かったことに動揺していた。これまで使用していなかったのだから無理もなかった。

 カミラがジャンに先導されて里から世界樹の元へと向かった。

 エーファは付き添いということで少し離れた。

 カミラが透明な壁に激突した。壁が透明な迷路になっていた。

 衝突しては地面に落ちる。里で着替えた服が土で汚れていく。

 壁は飛び越えられない。エルフでも迷ってしまう。

 ジャンの指示で右に曲がり、左に折れて進んでいく。

 同じことを幾度か繰り返し世界樹の根元に到着した。

「枝をください」喧嘩でもしそうな声で頼んだ。

 エーファは思わず天を仰いだ。魔法だけでなく言葉も教えるべきだった。

 杞憂だったようで1本の折れたばかりの枝が降りてきた。

 落ちてきたのではなく、ゆっくりと支えられているようだった。

 地面につく前にカミラが抱きとめた。同時に枝は杖に変身した。

 反世界王の軍に強大かつ無尽蔵ともいえる魔力を誇った魔法使いがいた。

 彼女は仲間とともに世界王を倒し世界に平和をもたらした。


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