足音
帰り道を往く。
なんてことない,閑静な住宅地の道。
歩幅や歩く速度なんてものは人によってまちまちだ。
だから、前を歩くその女性を追い抜くのもなんら不思議じゃないことだった。
カッ、カッ、カッ。
横を抜けたとき、不意に聞こえる小気味のいい音。
発信源は見知らぬ女性のヒールだった。
カッ、カッ、カッ。
テンポは単調。
でも、やけに心地よい。
気がつけば、同じような調子で足を動かしていた。
カッ、カッ、カッ。
カッ、カッ、カッ、カッ。
でも、やっぱり僕とその女性の歩幅も歩く速度も違うから。
じわじわと音が離れていく。
やがて、ヒールの音がぴたりと止まる。
こっそりと振り返る。
女性の後ろ姿は、曲がり道に吸い込まれていった。
少し残念な気がして、でも追いかける理由も思いつかなくて、踵を返す。
家はもう少し。
そこの交差点を左に曲がればすぐにつく。
――カッ、カッ、カッ。
けれど、まだ頭にはヒールの音が残っている。
この音が残っているまでは、歩き続けていたい。
足は、家とは少し遠回りの方へと向かっていった。




