第3話 古代の科学ルーム
第3話 古代の科学ルーム
鎮と呑龍の会話を聞いていた酒屋の親父には鎮の声しか届かなかった。つまり鎮が酔っ払って独り言を吐いているようにしか見えなかったのである。
「鎮もついにいくところまで行ってしまったか。せめてもらった金額の分の酒だけは毎日届けてやろう」
と言い残して去って行ってしまった。
残った鎮と呑龍の酒盛りが始まったが、鎮はすでに限界と思われるほど酒量が入っているためほどなく寝入ってしまった。
「こいつ、どこか身体の具合が悪いのではないか?」
呑龍は現代のアルコール依存症のことは知らない。アルコール依存症がアル中と呼ばれていた時代のことも知らないが、人体としてどこかに病を持っていることは察しがつくのであった。
「わしには治すことはできないが、検査はしてやれるだろう。治すとすれば本人の努力次第となるが、結果も本人次第なのだから納得してくれるだろう」
呑龍には鎮を治す恩も義理もないのだから、検査をしてくれるだけで鎮にとっては僥倖である。ましてや酒泥棒にここまでしてやる呑龍はお人よしならぬお竜よしとなるのであろうか。
翌日呑龍は鎮を洞の秘密の部屋に招いた。この部屋に外界から入室するためには呑龍の持つ鍵が必要になるため未だかつて人類がこの部屋に入ったことはない。
その部屋はモニターで埋め尽くされているように鎮には感じた。
「お前に合わせてこの部屋を投影させてみたが、使うことはできるか?」
若かりし頃の鎮はシステムエンジニアを職としていたため、この部屋に多分に懐かしさを感じていたが、いかんせん頭の方がアルコールで汚染されているため使うどころの領分ではなかった。
「若いころの俺ならともかく、今の俺では使えない。というか俺に何をさせる気だ?」
「お前の身体が何かに侵されているようだから、検査をして治してやろうかと思ってな」
「確かに俺はアルコールに侵されていて余命もそんなにないだろうが、治すことは無理だと言われている」
「ふむ。確かに現代の医学では無理だろうが、我らの技術なら可能かもしれない」
「治せるのか?」
「それはお前次第だ」
「どういう意味だ?」
「わしにはこの部屋の装置を操作することはできても、そこから何かを生み出すことはできない」
「何かを調べることはできても、それの使い方はわからないということか?」
「そうだ」
「それで、使い方を俺に考えろということか?」
「そういうことだ」
「自分の病は自分で直せということだな?」
「そこまでわかっているなら、治る可能性はある。延命措置はしてやるから焦らずに少しずつやってみるがよい」
「有り難い。どうせ諦めていた人生だ。最後にあがいてみてやろうじゃないか」
「最初の操作はわしがやってやるが、少しずつ操作の仕方も覚えていった方がよいじゃろう」
呑龍がそういうと球体でもありキーボードのようでもあるコンソールが鎮の手元に現れた。
「どうやって使うんだ」
「キーボードを使うもよし、思うもよし。じゃが思念波をまず同期させねばならぬ」
こうして鎮は古代の科学技術を扱う術を得た。しかしその技術は鎮の思念波により動作するため、鎮の思考が貧弱であればそれだけの能力しか発揮できなかった。