第1話 プロローグ
第1話 プロローグ
寂れた東北の偏田舎の端っこに鎮座するいつ誰がこしらえたものかもわからぬ古めかしく小さな洞があった。もしかすればその洞は自然にできたものかもしれず何かの信仰対象でもなかったようだ。最初は像のような石ころ一つなかったその洞にいつしか誰かが小さな木像を設えたことでその洞は村の信仰対象となったようである。しかしながらその洞が何を祀っているのか知るものは現代には存在しない。もしかすれば最初の時からただ有り難いものとして祀られただけかもしれなかった。
風習によりその洞には毎日欠かさず酒が供えられていたが、これもいつのころからか明くる日には酒が綺麗に飲み干されていることに供えるものは気が付いたそうだ。信心の足りないものは「誰かが酒を盗み飲みしているのだろう」と噂しあったようだが、未だにその犯人が見つかったことはない。それが300年続いているというのだから真に不思議なものである。
その洞に真の盗人が入ったのはある満月の夜であった。
「ここにくりゃ酒があることは知ってんだ」
田森鎮は重度のアルコール依存症者で酒がないと毎日を暮らせないようになっていた。蓄えも底をつき酒を買う金もなくなった鎮の最後の手段は、「お洞様に恵んでもらおう」という不信心極まりないものであった。
「神様、仏様、わたしに1杯の酒を恵み給え」
そう言うとゴクリゴクリと湯飲み茶わんの酒を飲みほしてしまった。
「くら~!」
その時洞内に響き渡る大きな怒鳴り声が聞こえた。
「わしのささやかな食事を盗むとは何者だ~」
びっくりしたのは鎮で、これが誰かのドッキリであっても質が悪すぎると思い、おもわず謝ってしまった。
「ごめんなさい。ごめんなさい。もう2度と致しませんから」
「いや、許せん。罰として酒一升をすぐに持ってこい」
そういわれても、その酒一升を買える金があったらここにはきていない。
「ところが、手元不如意なもので...」
「心配するな。これでよかろう」
と、1万円札の束をその者は鎮に渡した。
「こ、これは?」
「みればわかるだろ。お金というものじゃ」
「ほ、本物で?」
「本物と同じものじゃ」
「同じものということは、本物じゃないんですね?」
「本物ではないが、同じものだと言っているだろう」
「それを贋金というんですよ」
「絶対ばれないから大丈夫だ」
「ばれないならいいとするか。でもどうやって作ったんですか」
「3D複写機を使ってだ」
「コピーですか?絶対ばれますって」
「現代の技術では無理だろう」
「ふ~む。ところで神様、仏様はどなた様で?」
「わしか?わしは古代竜の呑龍じゃ」