家庭科の先生
宮沢先生はニタリと怪しげな笑みを浮かべながらこちらに寄ってくる。
いつもはお菓子作りも料理も好きでよく作ったらもってきてくれ、笑顔で接してくれるのに。
鬼となると性格も一変するのか、今包丁を持たせたら人を殺すようなことをしそうだ。
「うめ、ちゃ・・・・・・」
掠れた声で紅葉ちゃんは私の名前を呼ぶ。
さっき杉浦先生に追いかけられたことを思い出したのか、口元に手をやり震えた。
腕にしがみつく手の力は弱いものだった。
「紅葉ちゃん、私が囮になるからその間に逃げて」
そんな紅葉ちゃんが可哀想と思った。
だから提案してみた。
紅葉ちゃんはゆっくりと口を開く。
「そしたらうめちゃんが逃げられないよ」
「私は」
私は、どうする。
囮と言っても追いかけられるのは怖い。
3回捕まっていいからといってもわざと捕まりたくない。
自分ででまかせに言った言葉なのに、後に続く言葉が出ず黙っていると紅葉ちゃんが私の腕を引っ張った。
「一緒に逃げよう」
「一緒に?」
「そう。一緒に廊下に出るまでは逃げよう」
教室内の小さな空間では逃げると言えるのだろうか。
それでも紅葉ちゃんが怖いという感情の中から考え出した案だと思えば自然に私は頷いていた。
紅葉ちゃんと私のやりとりに宮沢先生はじっとしていられなくなったのか、ショートカットの髪をかきあげるとロングスカートをつまみあげ、タタッと室内に入る。
紅葉ちゃんに腕を引かれるまま私は動く。
机を挟んでお互いにらみあったり、どちらかが動けば反射的に相手も動く。体力も少しずつ無くなっていくが、精神的にも疲れる。
出入口に一番近い机まで移動すると、紅葉ちゃんは腕を放して廊下に出た。私も廊下に出て、左右に別れた。
「いきなり手、放してごめん」
「大丈夫、逃げるためだもん」
お互い距離が遠くなり、声も聞こえづらくなるが叫びながら走る。
後ろから足音は聞こえない。宮沢先生は紅葉ちゃんの方に行ったのか。
そんなことを思いながら教室が並ぶ3階に上がった。