合流
家庭科の宮沢先生がいないかを確認し、教室内に入る。
机を兼ねた調理台が6台程並び、ホワイトボードの前には教師用の机が置かれていた。
通路側の棚には食器やスプーンなどが並んでいる。
後ろには木の椅子が40脚ほど積まれている。
水道場から身を乗り出し、窓から外を眺める。
腰に手を当てて疲れきった様子の冬里くんが見えた。
大声で呼ぼうかと考えたが、鬼に私の存在がここにあると知られる方が大変だと思って、外を眺めるのをやめた。
水道場の前に座り込む。スカートが汚れるとか、そういうのは考えもしていない。
はぁ、と小さくため息をついた。
入口の方で足音がした。
驚きと鬼ではないかという恐怖で身がすくむ。
「誰?誰かいるの?」
声を聞いた私はハッとして立ち上がる。
この声は紅葉ちゃんだ。
無事なんだとわかる。ホッとした。
「あっ!うめちゃ〜んっ!!」
紅葉ちゃんは疲れたと顔でわかるが、そんなことを思わせないかのように笑顔でこちらに来た。
ギュッと抱きつかれ、私も紅葉ちゃんの背中に手を回す。
「良かった、捕まってなかったんだね」
「すっごい、怖かったよぉ」
このまま泣き出すのではないかと思い、頭を撫でて落ち着かせる。
まるで子供をあやしている気分。
「しかも体育の先生ってところが1番恐いんだよぉ〜っ」
「頑張ったね、私もさっき追いかけられて死ぬかと思ったよ」
私がそういうとあははと笑う。
紅葉ちゃんは私から離れると、さっき見えていた疲労が少しなくなっているように見えた。
「もうすごい癒しになったよ、頑張れそう」
紅葉ちゃんは両手でガッツポーズをとった。
微笑ましくなり少し笑みをこぼしたが、私もすぐに同じポーズをした。
「そうだね、私も頑張れる気がするよ」
そう言葉を返すと、再び入口から足音がした。
もしかしたら夏川くんか冬里くんではないかという期待で入口を見た。
その期待は一瞬で崩され、恐怖へと変わった。
教室に入ってきた人物は家庭科の宮沢先生だった。