鬼ごっこ
鬼と会いなくないので体育館裏へと小走りで行く。
草が生い茂り、除草をしていないのがひと目でわかる。この草はもしかして偽物なのではないかとも思う。
虫がいないかどうか気になったが、その様子もなければ何かが飛んでいる音もしない。サクサクと葉を踏みながら進む。
体育館の向かいにはフェンスがあり、普段はお店や通行人が見えるが真っ暗闇で何も見えない。
ここは現実で、周りの町が陥没したのかと馬鹿みたいな発想をしながらフェンスの向こう側を体を伸ばして覗き見る。
やはり陥没した様子はなく、必要最低限この学校の敷地だけの世界のようだった。
「いい加減事実だって認めなきゃ」
さっきから疑いが晴れない自分に言い聞かせるように言葉にする。
パチンと両手で頬を叩く。強めに叩いたから頬が少し痛い。
紅葉ちゃんは今どこに?
夏川くんは逃げきれたの?
冬里くんは転んだりしていないかな。
余計な心配かもしれないが気になる。
耳を済ませ、周囲に足音がないのを確認する。
特に何も聞こえないため、私は来た道を戻るように進んだ。
体育館正面にある中庭に向かおうと決め、角を曲がった。
──すぐ目の前に、ニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべる書道科の月川先生がいた。
息を呑む。急なことで体が動かない。
『逃ゲロ。捕マリタイノカ』
頭の中に声が響く。
捕まるなんて、嫌に決まってる。
私はすぐに方向転換をし、たまに足に絡まるようにくっつく背の高い草に足を取られながらも全力で走った。
「っ、はぁっ」
体育くらいしか運動する時間を作れなかった自分を呪う。
全く走れないし、すぐにばてる。息も上がる。
後ろを振り向いて距離を知りたいが、まず校舎内に入ってから落ち着くことにする。
中庭まで走り、そこを真っ直ぐ駆けて外廊下の扉を開いて中に入る。
忘れ物ロッカーや提出物用の箱の中には何も入っていないことはどうでもいい、階段へと向かって特別教室が並ぶ2階へと行った。
いつの間にか後ろをついてくる足音がなくなっていた。
いつから?夢中で走っていたからわからない。
「っ、はぁ、はー・・・・・・っ」
大きく息をついて、廊下の先にある水道場まで歩く。
蛇口をひねり、水を出す。手で水を受け止めて口に運んだ。
「はぁ、うまーっ」
学校の水が美味しいと感じるのは猛暑でどうしようもない暑さに見舞われた時と、今のように全力で運動したあとだと思う。
ワイシャツで口元を拭い、調理室とプレートが掛けられている教室の扉を開く。
やはり鍵は開いていた。