脱出鬼ごっこ、開始
「……つけ、るか」
夏川くんがステージへと歩きながら言う。
声が震えているように聞こえ、怖いものは怖いのかと思う。私だって怖い。
「早いところ終わらせちゃおうよ」
紅葉ちゃんは明るく言うとタタタッとステージに向かい、短いスカートでも器用にステージに飛び乗った。
そして橙色の仮面を手に取り、顔にかけた。
その瞬間、後ろからドォォォン・・・・・・と重苦しくも大きな音が鳴った。
「えっ?」
全員がバッと振り返ると、体育倉庫から体育科の先生である杉浦先生が、ジャージ姿で竹刀を片手にこちらに来る。
授業の時と変わりのないように見える。
「あっ、せんせーっ!」
紅葉ちゃんは嬉しそうに走り寄っていく。
杉浦先生は竹刀の先を床に叩きつけた。
ビクッと紅葉ちゃんは肩を震わせた。
仮面がなにか話しかけたのか、紅葉ちゃんはコクコクと頷いた。
杉浦先生は歩調を早めに紅葉ちゃんへと近づいていく。
「いやぁぁああああああっ!!!」
迫り来る恐怖を受け入れたくないかように叫び、紅葉ちゃんは走り出す。
その後を杉浦先生が追いかけていった。
パタパタと体育館から出ていく足音が聞こえなくなると、
「鬼は・・・・・・」
「先生・・・・・・」
冬里くんと夏川くんが無気力に言う。
・・・・・・この時間が、紅葉ちゃんのライフを削っているのでは。
「この先も紅葉ちゃん1人で走らせたら、いろんな先生が紅葉ちゃんだけを狙って追いかける・・・・・・そんなの、3回チャンスがあってもすぐ死んじゃうよ」
私たちは顔を見合わせ、うんとお互い頷いた。
夏川くんがステージに上がり、仮面を3つ取ってステージを降りた。
そして、頭にかけた。
「生きて帰りてぇな」
夏川くんが仮面の目の部分の調整をしながら言った。私は頷く。
「生きて帰るんです」
冬里くんが絶対の自信があるように言う。
1人、そう自信がある言葉を言うと、私たちもそんな気がしてくる。
「とりあえず体育館から出るか。そしたら全員散れ」
夏川くんが手をヒラヒラ動かす。
「命令形にしなくてもわかってます」
ムッとしたように冬里くんはそう言うと体育館出入口に向かって走り出した。つられる様に最後に私も出ていった。
目の前には学食のおばちゃんに追いかけられている冬里くん、理科の先生、和泉先生に追いかけられている夏川くんの姿が目に飛び込む。
「え、みんな・・・・・・!?」
見た目はいつもの授業をしている姿と同じなのに、鬼と化した先生はなんだか別人に見えて、生徒を追いかけ回す現実にあれだけ説明などを受けていてもまだ夢なのではないかと思う。
暗くて足元が見えない。転んでしまったらどうしよう。
外に出てまだ一歩も出ていないのにそんな恐怖に襲われる。