参加者、集合
体育館の入口まで行って体育館履きを持ってくれば良かったと後悔した。
靴下のまま体育館の床を歩いたら靴下の裏が汚くなるだろう。
でも戻っても時間の無駄だなと思って上履きを脱いで体育館内へ足を踏み入れた。
体育館もなぜか電気がついており、ステージにはマイクが1本、ステージ前にはパイプ椅子が4脚並んであった。
誰もいない体育館は沈黙に包まれており、張り詰めた空気が漂っているよう。
「まだ誰もいないんだ・・・・・・」
広い体育館に私1人だけは心寂しいのと、張り詰めた糸を切るように空気を変えたかったからわざわざ声を出した。
それでも私の声が体育館内の壁に吸い込まれると、また張り詰めた空気が漂った。
短く息を吐き、一番左に置かれているパイプ椅子に腰をかけ、上履きを横に置く。
足の裏を見てみるとやはり紺のソックスが埃で白くなっているのがわかった。
今の季節は6月。微妙な季節だ。
特段暑いとも感じなければ寒いとも思わない。
ただ高校3年生でいられるのも、あと9ヶ月しか無いのだなと思わせられ、急に孤独感に襲われる。
「早く誰か来ないかな」
1人で黙っていて知らない声が聞こえたり、なんてことがあったら元の世界に帰っても夜トイレに行けなくなりそうで怖いから独り言を誰かに話すように言う。あと寂しさを振り払うため。
後ろから静かに足音が聞こえた。
幽霊だったらどうしようかと後ろを振り向けない。
「あれ、お前もしかして春野?」
少し驚いたものの、聞き覚えのある声だったため振り向いて声の主を確認した。
高校2年生の時、同じクラスだった夏川 皐月くんだった。
明るい性格でクラスの人気者。トラブルメーカーでもあるが人からの信頼はある。私も学級委員を選出する時は夏川くんを選んだっけ。
「話すの去年ぶりだな」
夏川くんは私の右隣に座って片足立てて言った。
その様子を見ながら話をした。
「そうだね。プリント提出しといてーとか、そんな感じのばかりだったけどね」
「俺そういうのだるくてやりたくねーからさ」
「それでも集まりがある学級委員にはなるんだね」
「あれはしょうがないだろ、みんな俺のこと推薦するから」
ムッと口を膨らませる夏川くんにあははと笑っていると、夏川くんの肩に誰かの手が乗った。その手にはだいぶ力が込められていた。
「なぜそんな人が3年でも学級委員を任されるんだ」
眼鏡をかけて制服をきっちり着て、テストでも全教科満点で返ってくる真面目で天才といわれる冬里 雪夜くんは一番右のパイプ椅子に座った。
私は同じクラスになったことがないが今のクラスで夏川くんと冬里くんが同じクラスで、委員長の座を夏川くんに取られたのが気に入らないのか冷たい態度をとる。
「お前みたいに真面目すぎて近寄り難いやつより俺みたいにフレンドリーなやつの方がいいんじゃねぇの?なぁ、春野」
「えっ」
話題を振られて声を上げる。
私が夏川くんに投票した時はフレンドリーだし責任を負ってくれるという理由だった。
だがそれを今言ったら冬里くんは絶望してしまうだろう。
「うーん、私は真面目でも仕事きちんとこなしてくれるからいいと思うよ」
言葉をつまらせながらも冬里くんのフォローに回れるように言ったつもりだ。
ふむ、と冬里くんは頷くと、夏川くんに指をさした。
「春野さんは僕の味方みたいだ」
「クラスの奴らは俺の味方だ」
学級委員を選出するのに敵も味方も無いのではないか。
2人が唸っているところに口出しするのもまた話が振られそうだったのでやめておく。
「あっれー?うめちゃんとさっくんとよるくんだ!」
最後に空いていた椅子に座ったのは、秋原 紅葉ちゃんだった。
この子は夏川くんと同じように明るい性格だ。だが彼氏が出来たら即別れて違う男子と付き合ったり、性格が悪いなどとあまり良い噂は聞かない子だった。
「全員お集まり頂けましたね」
マイクから声が聞こえ、前を向く。
そこには白、赤、橙、青の4色の仮面をかぶった高身長の人が並んでいた。今喋ったのは白の仮面の人だった。声的に男性だ。