PHASE.7 新たな春の脅威
こうして事件は幕を閉じた。
ニワトリニコフの遺体を市警は回収した。やむを得なく射殺したのは私、ダド・フレンジーはスカーロのことは上手く隠して捜査を取り仕切ってくれた。
しかし今回はきつかった。久々ハードすぎる展開で私も腰をやってしまった。ヴェルデのことを笑えない。
「世話になったな」
スカーロは報酬を持ってきたが、私は受けなかった。すでにヴェルデから、報酬をもらっていたからだ。
「おれはマチルダをロスに届けた後、東海岸に戻る」
「ベガスで開業するんじゃなかったのか?」
「あんたがいるからな」
浮気調査をさせられたんじゃたまらないぜ、と、スカーロは肩をすくめた。
「ニャーヨークに来たら、いつでも連絡をくれ。あと、これおれのブログ。今回のことは、ちゃんと書いておくからな」
「私は、偽名にしてくれよ」
やれやれだ。だがこの男、名前が近いせいか、どうしても憎めない。
「スクワーロウさん、ありがとう。最後の最後であなたのお世話になって良かったです」
三月の初め、ウェインも別れを告げにやってきた。家も引き払い、トランクに車一つだ。
「迎えはないのか?」
「年寄り一人ですからな。遠慮したんですよ。それに私、一人で動くのは、慣れておりますので」
元・殺し屋は、日向のような穏やかさで笑った。
すっかり、明るくなってきた花待ちの陽射しの中の別れだった。
「そろそろ春ですね、スクワーロウさん」
クレアが、窓を開けた。外を穏やかな陽が落ちている。寒かった冬は終わった。眠らない街も、そろそろ平和な春が始まるのである。
「ッぷし!…なんだろう、鼻がむずむずする」
私はあわてて鼻をすすった。今、頬袋に入れたナッツを吐きそうになったじゃないか。
「花粉症じゃないですか、スクワーロウさん」
くすくす笑いながら、クレアがティッシュを持ってくる。何がおかしいんだ。
「花粉症!?馬鹿な、この街の春の風を何十年も吸ってきた、この私が?…ふえええいっくしょいッ!」
だめだ、これは。ナッツを口に含んでられない。まさか私が花粉症になるとは。
「大丈夫ですよスクワーロウさん。春ですから。ナッツを口に含んでいる必要、ないじゃないですか」
「そう言う問題じゃない!君は、分かってない!このシリーズのアイデンティティの問題が!ぶえええくしょいッ!」
また、リス・ベガスにも新しい春がやってくる。だが、やれやれ今年もまた、平穏無事、と言うわけではなさそうだ。