PHASE.6 三歩歩いたら
ロビーは滅茶苦茶になっていた。サブマシンガンを両手に持ったニワトリニコフが蜂の巣にしたのだ。客は外に逃げ、ロビーに立っている黒いレザーの人影と鶏冠が、よく見える。
「あんた武器は?」
今回はさすがに私も、拳銃を取り出した。あれは洒落にならん。
「あんたこそ、腕は確かなんだろうな?」
「おれを誰だと思ってる。元・特殊部隊だぞ?」
私は黙って頷いた。どうでもいいが、元・特殊部隊の人って、世の中にどれくらいいるんだろう?
「合図したら撃て。回りこむんだ」
スカーロは自らテーブルの陰に隠れると、両手に二挺、拳銃を持った。
「おいニワトリ野郎!いい加減にしやがれッ!」
「こっ、ここここッ、ここかア!」
声に反応した。テーブルクロスに弾丸のミシン目が出来た。スカーロはそれでも、撃ち返した。ハードボイルドどころじゃない。今回はダイ・ハードだ。
挑発しながら逃げ回るスカーロに気を取られている間に、私は背後からニワトリニコフに回りこんだ。ニワトリニコフはキャパが狭いらしく、もうスカーロしか狙ってない。
「おれ様はスカーロ、東海岸いちの殺し屋だッ!ニワトリ野郎、てめえなんかにやられるかよッ!」
「スカーロ…ここここッ、殺すッ!」
マガジンを何個も床に落としつつ、ニワトリニコフは取り憑かれたように撃ちまくる。ったくなんて奴だ。完全に出演する作品間違ってるぞ。私はもっとクールにいきたいのに。ニワトリニコフのすぐ背後に私はつけた。ようし、後は銃を突きつけながら決め台詞を言うだけだ。今だ。
「そこまでだ」
「ここッーッ!」
滅茶苦茶、反応が良かった。私が引き金を絞る前に向こうはばっちり撃ってきた。それであんまりあわてたので、銃を取り落してしまった。何たる凡ミス。私は丸腰で、ニワトリニコフと相対することになってしまったのだ。
「スカーロ殺すッ!」
「ちょっと待て」
私は、平静な態度を装って言った。こうなれば奥の手だ。
「私は『スクワーロウ』だ。間違えるな、スカーロはあいつだろ?」
「じゃあスクワーロウも殺すッ!」
そこで私は間髪入れず訊いた。
「で、標的はどうしたんだ?誰か殺すんじゃなかったのか?」
「ここッ…殺す。ヴェルデ…殺すッ!」
「じゃあ、後ろの奴の名前は?」
「こッ!?ここッここここオッ!?」
やっぱり忘れてる。思わずニワトリニコフが、後ろを振り返ろうとした瞬間だ。私の頬袋から射出された特大アーモンドが、やつの眉間を撃ち抜いたのは。
「痛こオッ!」
「くたばれッ」
スカーロが暴れるニワトリ男の胴に何発も弾丸を喰らわせたのが、それと同時だった。
「ちッ、あんたのが早かったな」
「引き分けってことにしとこう」
私は苦笑すると、肩をすくめた。やれやれだ、今回はこの男がいないときつかった。