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PHASE.5 明かされた真相

と、いいところで私のセルに着信があった。また間の悪いことにヴェルデからだった。

「やられました」

しかしうんざりしながら出た私の耳に、飛び込んできたのは、狸の声ではなかったのだ。

「あんたはウェインか?やられたって、ヴェルデがか?」

やはり、ヴェルデは狙われていたのだ。ウェインは淡々と事情を説明した。私が店を出るのと入れ違いにあの天ぷら屋に、一人の男が飛び込んできて銃を乱射したらしい。ヴェルデは負傷したが、辛くも裏口から逃れ、今は潜伏先で治療中らしいと言うのだ。

「犯人に心当たりは?」

と言いかけて、私は思い出した。そうだ、あの不審なニワトリ男。危なすぎる奴だったが、あれがまさかヴォルペが放った殺し屋だったんじゃないか。

「今から言う場所に、すぐに来てください。自邸に戻るのにマークされていない車が必要です」

「分かった。ヴェルデのことをよろしく頼む」

私は電話を切った。まさかこっちも緊急事態とは。私はすぐにクレアに車の手配をさせると、コートを取り上げた。何かを察したスカーロとマチルダがそれに追いすがって来る。

「おい、あんたウェインに会ったんだってな。まさか、その男からか」

「その通りだと言ったら、どうする?」

「おれたちも同行させろ。話がある」

「いきなりぶっ放す気じゃないだろうな」

「相手次第だよ。だが、あんたに迷惑はかけない」

私は少し考えると、重たい息を吐いて言った。

「いいだろう。だったらついてこい」


ウェインが告げた潜伏先は、ヴェルデが経営している下町の小さなホテルだ。父親の時代に持っていたこの小さな不動産のありかを、とっさに思いつくのは、ウェインならではと言えた。

「ああ、あかん。わしとしたことが腰をやってしもうた」

狸は背中に湿布を貼りながら、ベッドにうつぶせに寝込んでシャンパンを飲んでいた。なんだ、てっきり負傷したと言うから撃たれたのかと思ったら、まさかのぎっくり腰だと言う。やくざがする怪我じゃないだろ。

「じゃかあしいわい。ウェインがおったからこの程度で済んだんや。で、なんや、この連中は?」

「ウェイン、あんたの客だ。悪いが、昔のことを話してくれないか」

「私に、でございますか?」

ウェインは当惑した様子で、スカーロと小さなマチルダを見た。

「彼女はあんたの仕事に巻き込まれた、と言っている」

マチルダは、殺された家族と従兄弟の家族の名前を告げた。それは確かに、かつてヴェルデを裏切ってニャーヨークに逃亡したギャングの名前だった。

「わたし、あなたに道で言われたの。違う町から来た、って言ったら。こんなところにいたらだめだ、すぐにでも家族と帰りなさいって」

「三年前の十二月十日、正午のことだね」

ウェインはよどみなく、それを答えた。

「確かに私はその日、親分から仕事を請け負ってニャーヨークにいたよ」

「じゃあ、やっぱりあんたが!?」

「だが、やったのは私じゃない」

スカーロが色めきたったが、ウェインはにべもなく首を振った。

「私がしたのは、別の仕事だ。実は、その日の夜の便でベガスに戻っている。確か新聞で読んだが、事件はその、次の日の夕方だったはずだ」

「見え透いた言い訳をするなよ?」

「阿呆、ウェインがそないな下らんとぼけをするかい」

口を挟んだのは、ヴェルデだった。

「わしも憶えとるわ。仕事は別の組織の別の人間がやった。せやからわしらは手を引いたんや」

「マチルダ、あなたに声をかけたのはすぐ近くを見るからに不審な男がうろついていたからです。同じ稼業なので、ぴんと来ました。だからあなたに、その場を去れと言ったんです」

「そいつの名前は判るのか?」

スカーロに向かって、ウェインはかぶりを振った。

「分かりません。しかし、顔は思い出しました。ミスター・スクワーロウ、入れ違いに出て行ったあなたも目撃したはずです。私たちを襲ったニワトリ男ですよ」

「なんだって?」

なんてこった、まさかの展開になってきたぞ。


私は、すぐに市警のダド・フレンジーに電話をかけた。警察の照会は早い。その男はアレクセイ・ニワトリニコフと言うらしい。私はついでクマノビッチに電話をかけた。

『知ってるぜ。特殊部隊出身のニワトリ野郎だ。捕虜時代に拷問を受けて、頭がいかれちまった。三歩歩くと殺した人間を忘れちまうそうだぜ』

まさにニワトリニコフである。

『以前、うちの組織で雇ったことがある。だが無茶苦茶やりすぎてな、いつか殺そうと思ってたところだ』

「ニャーヨークでの事件を知っているか?」

私は三年前の事件のことを聞いた。するとクマノビッチは、乾いた声を立てて笑った。

『よく知ってるさ。何しろおれが命じたんだ。あのチキン野郎、関係ない家族まで皆殺しにしやがった。もし奴に会ったら言ってくれ。クマノビッチが今度会ったら、トマト煮込みにしてやる、って言ってたな』


私は一部始終を、スカーロとマチルダに話した。

「なんて野郎だ」

スカーロは憤慨した。

「ああ、何しろ殺したやつの顔も憶えてない奴だって話だ」

「許せねえ、マチルダの家族はそんな野郎に殺されたのか?」

「不幸だな」

「ああ、かわいそうだ」

私は思わず、苦笑してしまった。

「だがそのニワトリ男、腕は立つらしい。長引くと厄介だ。天ぷら屋で捜査中の市警を今、呼んだが、もうどこかへ逃げてしまっただろうな」

「そうでもないみたいですよ、スクワーロウさん」

そう言ったのは、フロントから電話をとったウェインだ。すでにロビーにニワトリニコフが現われ、客に向かって銃を乱射していると言う。

「標的の顔を忘れないうちに、か」

「私は忘れませんが、彼は忘れるのでしょう」

ウェインは静かに頷くと、自分の銃を取った。

「やれやれ、最後の仕事をしなければなりませんか」

「いや、ウェイン、あんたはヴェルデとマチルダを守ってくれ」

と、私はスカーロに目配せした。

「よく似た名前同士二人で何とかしようじゃないか」

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