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PHASE.1 私の嫌いなもの

さてたまには、私の嫌いなものの話をしよう。

私、スクワーロウにだって、どうしても苦手なものがある。

この物語を追いかけて下さる皆さんは、私がナッツとビール、そしてハードボイルドと古き良きリス・ベガスを愛するシマリスだと言うことは、もう十分にご存知だと思う。冬眠のない街、リス・ベガスに開業して二十年近く、私は雨の日も雪の日も、依頼人の問題を解決してきた。

この仕事を、そしてハードボイルドをやっていると、必ず気にしなければならないことが一つある。いや、気になってくると言うべきか、ときに揉め事や荒事に巻き込まれる私たちのような稼業にとっては気にせざるを得ないことがある。

それはジンクスである。

ハードボイルドであろうと思う限り、このジンクスと言うのは、死神の農夫のように私たちの命を刈り取ろうと、忍び寄って来る存在である。彼らの接近を、長年の経験と勘は察してくれる。しかしそれは、ごくほんの一部のことだ。ジンクスの接近に気づかずに行動して一歩間違ったら死んでいた、などと言うことは、よくある話だ。

例えば私たちハードボイルドの間では、土砂降りの中で煙草を蒸かしながら、昔を思い出していると凶弾に倒れる、と言うジンクスがある。それで死んだ私の友人は数えきれない。

または銃撃戦の前に家族や恋人に会う、故郷に帰るなどの話をすると、その後必ず死ぬ、と言うジンクスは皆さんもどこかで聞いたことがあると思う。

なに、ただの死亡フラグじゃないかって?違うジンクスだ。由緒正しいハードボイルドは死亡フラグなんて言葉が流行るずっと前からそれを、ジンクス、と呼んでいたのである。だから断じてジンクスなんである。

そんなわけで、ほぼすべてのハードボイルドがそうであるように、私はジンクスを嫌う。行く手に危険が、そして待ち受ける不幸な結末を薄々感じつつも、ハードボイルドならそれにあえて甘んじて格好良く、死んでいかなければならないからである。

無論、死などは本質的に恐れてはいない。私が恐れるのは、いかに格好よく、ハードボイルドに死ななければならないか、と言うことだ。立って用を足している間に刺されたりとか、取り上げようとした銃で撃たれて「なんじゃあ、こりゃあ!!」などと言うのも、それはそれで渋いのだが、もう別のハードボイルドがやっている。だったら死ぬならその瞬間くらいは、自前のタフな台詞で決めたいものじゃないか。

だからジンクスがやってきたときの、タフな台詞を私はいつも用意している。まだ使いたいとは思わないが、これこそ、ハードボイルドたる紳士の最期の(たしな)みなのだ。

しかし世の中には、このハードボイルドのジンクスとは別に、どーでもいいジンクスが存在する。

私はその手のジンクスはもっと嫌いである。

そこで今回は、

「世の中には必ず七人は、自分とそっくりな顔や名前を持つ人がいる」

と言うやつだ。やれやれである。だが、私の前に実際、そんな男が現われたのだから、仕方ない。


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