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Side フェンリル03

 くっころさんが目を覚ましてから、早一週間の時が経った。

 くっころさんはやはりくっころさんだけのことはあり、所々にかもし出される残念臭はなかなかに香ばしい臭いを放ち、私や母さんを巻き込んでなかなかに危険(デンジャラス)な生活を与えてくれている。


 何がデンジャラス? だって。

 例えばだが、初対面の女性に会った際、諸兄はどのように挨拶するだろうか?

 まず自分の名を名乗り、その上で相手の名前を聞き出すのが一般的では無いだろうか。

 そこからお世辞や雑談を交え、話題を膨らませていくのが定石で、そこから情報を引き出して行くのが話術というもの。……そう思っていたのだが、くっころさんはまず「おば様」と、初対面の女性に対して最低最悪のNGワードをのたまってくださりやがったのですよっ!!

 くそっ、迂闊だった……。見た目若々しいからお姉さんとかお世辞言ってくれると思ったのにっ!!

 

 ……えぇ、起こりましたよ、最初の悲劇。そう、くっころさんの言葉を遮ってのアイアンクロー。

 しかもその手はくっころさんでなく、何故か隣にいた私のどたまへ向かって一直線に……。

 母さんの言い分として、先に説明をしていなかった私が元凶である。とのことだが言いがかりもはなはだしいだろう。

 

 ほら、考えても見て欲しい。くっころさんから裸土下座を見せられ、母さんからの折檻がほぼ確定した状態の私に、そんな冷静に物事を判断する余裕があるとお思いだろうか? そんなこと、もちろん出来るはずがないっ!!


 そんな私がくっころさんに状況説明など、とてもではないが出来よう筈もなく、冷静に説明なんてできるかっ!! っと声を大にして言いたかった。


 ……うん、まぁ、言う事なんて出来ないけどね。

 しかもその後アレが始まったからそれ以降の記憶なんて欠片も残る筈もなく……。

 ……あれ? おかしいな……。どうして思い出そうとしただけで、こんなに震えが止まらないのだろう……。


 うむ、この話は忘れよう。忘れろっ……、忘れるんだ私っ!!

 だから震えと、ついでにとめどなく流れ落ちる汗もとぉまぁれぇぇぇっっっ!!


 ……ふぅ、止まった。


 まぁ、それはそれとして。――だ。

 他にも掃除を手伝うと言い出しては集めたゴミで物体Xを作ってみたり、水を汲んでくると言っては物体Xを桶一杯に汲んできたり、薪を割ると言っては薪の代わりに物体X割ってみたり……。料理は間違いなく物体Xを量産すると思って却下したが。

 どんだけ物体Xが好きなんだよくっころさん。

 裏庭では物体Xがピィピィ悲鳴あげてるよっ!? ……あれほんとどうしたらいいのか分からないんだけどっ!? 生ゴミとして村に持っていったら色々ヤバそうだし、森に捨てたら繁殖とかして生態系壊しそうだし……。最近では勝手に獣取って繁殖してるからどうしようあれ……。


 しかも、ほんとにあれでこの国のお姫さんって言うんだから、この国の行く先が不透明どころかどどめ色としか言いようがないんだがっ!!

 

 まぁ、本人は気兼ねなくケロッとしてるし、何故か気難しいはずの母さんに気に入られてるし、物体Xが懐いてるんだから、アレが国のトップに立ったとしても意外となんとかなるんじゃなかろうか? 周囲の人間は大変だろうが……。


 ともかく、私としては一刻も早く帰っていただきたいと思っている所存ではある。


 とまぁ、報告はこのぐらいにして……。ん? 誰に報告している? いや、そんな突っ込みは無しな。



 閑話休題んなこたぁどうでもよく



 そんなこんなで現在、私は短剣の臭いをたどってこの国の王都、セントラルのど真ん中王城の一室へとたどり着いていた。

 なぜ王城かと言うと、くっころさんに短剣を投げつけたあの女、その匂いがここにたどり着いていたからに他ならない。


「それで、お姉様の消息は?」

「残念ながら、魔の森近くで消息を絶ったきり、それ以降の目撃情報は全くあれません」

「……そう」

「我らが不甲斐ないばかりに、誠に申し訳ございません」

「いえ、貴方達はよくやってくれているわ。

 全ては姉様がいつもの発作を起こし、行方を眩ませてしまったのが原因です。大変とは思いますが、引き続き捜索を続けてください」

「はっ……」


 現在潜んでいるこの部屋はクローゼットのようで大量に服が並べられ、隣の部屋ではくっころさん似の美少女が初老の男性から憂い顔で報告を受けていた。

 扉の隙間から確認できる情報はそう多くないが、ここがその少女の私室だろう。ということぐらいは判断できる。

 髪はくっころさんより少し短く、つり目がちの目元は強い意思が伺えそうなぐらいに鋭い光を放っている。

 髪や目の色はくっころさんとほとんど同じで、服装は流石にドレスアーマーこそ着てないものの、守備力抜群の首元すら覆い隠すロングドレスを着こなしている。

 このくっころさん似の美少女、おそらくはくっころさんの妹に違い無いだろう。

 何よりも顔立ちが似通ってるし、匂いも近しいものがある。胸部装甲だけは他人と言い張れる程に立派なものが付いているが、おそらく……、いや、たぶん妹に違い無い。……はずだ。


 ――いもうと……、だよな?

 あれっ? 自分で言っておいてなんだが少し心配になってきた。

 顔立ち……、は間違いない。匂い……、うん、くっころさんのように百合に良く似た良い匂い。―フェンリルになってから、人の臭いが花のように美味しそ……、嗅ぎ分けられるようになった―

 ってことは何だ? ドレス越しに見えるあの胸部装甲、実は彼女も巨乳に見えて虚乳と言うことか?


 …………………………ちぃぃぃっ!!

 くそっ!! 騙されるところだったっ!!

 姉妹で私を騙そうとするとは……、くそう、くっころ姉妹、恐るべしっ!!


 ――っと、そんなこと考えている場合じゃないな。部屋に誰かが入ってきたようだ、新しい匂いと足音を感じる。


 ん? でもこの匂いは?

 もう少し前に来れば……、もう少し……、もう少しで顔が確認できる。


「ティリ、フィーに関しての報告が来たと聞きましたが、(わたくし)にも聞かせて頂けますか?」


 って、……くっころさん!?


「お母様、政務は宜しいのですか?」

「構いません。今はフィーの方が大事です」


 ……って、くっころさんの母親かっ!? わっかいなぁー。あれ、下手すればうちの母さんよりも若く見えるんじゃないか? 絶対20近い娘がいるなんて見えないって。

 しかし良く似てる。顔といい、匂いといい、くっころ妹なんかよりよっぽどそっくりなんじゃなかろうか。

 確かによくよく見れば、くっころさんがもう少し落ち着いてしっかりした感じを持てばあんな女性になるだろう。と言うぐらいの違いはあるが、本当に驚くほどそっくりに見える。

 ――ただ。

 胸部装甲のみ、どう見繕おうともみまごうことが出来ないほど、くっきりはっきりばっちりとした違いがあらわになっていた。

 何? あのうらやまけしからん果実は?

 動く度にゆっさゆっさ揺れていますよ? ゆっさゆっさと。

 しかも、胸元が大きくはだけているドレスを隙なく着こなしているものだから、あれが虚乳で無いことは一目瞭然としか言いようがないっ!! なんせ上乳が顔を覗かせているんですよ、うわちち。桃? いや、メロンは行くよ? あれ……。


 ――ゴクリ。


 無意識に喉がなる。


 となると……だ。妹さんの小玉スイカ、あれ、もしかしたらほんもの、という可能性もなくもないかもしれない?


「……残念ながら。

 セバスティアン、報告をもう一度お願い」

「はっ、大変に残念な事ですが、魔の森近くにある村での消息以降、足取りを掴むことが出来なく、一週間を過ぎていることから生存の可能性は絶望的かと……」


 ってちょっとまてえぇぇっ!! 老紳士の名前、セバスチャンなのっ!! 見た目といい仕草といい、どこからどう見てもセバスチャンには違いないけどっ!! どこっ!? どこから突っ込み入れればいいのっ!?


「そう……、ですか」

「お母様っ……」


 心の中でとめどなくツッコミを入れまくるが、もちろん当初の目的は見失っちゃいない。セバスチャンの詳しい説明が終わった頃には、暗い顔でうつむくくっころ母に、真剣な顔でくっころ妹が駆け寄って抱き付いた。


「大丈夫ですお母様。きっとフィリアーネお姉様は無事に決まっております。

 いつものように私達を心配させておいて、その内ひょっこりと戻ってくるに違いありませんからっ、それ以上お心を痛めないで下さいませっ……」


 ……っ!!

 フィリアーネって誰だっけ? くっころさんかっ!? ……じゃなくっ!!

 その時、俺は見てしまった……。

 くっころ妹がくっころ母に抱きついたとき、確かに胸が大きく揺れて弾み、抱きついたときの圧力で、ふにゅんと形が潰れて横に広がって行ったのを!!


 それがどうした?

 馬鹿を言うんじゃありませんっ!!


 私は前世、乳に関してのありとあらゆる書見を開き、周囲からはむっつりたろ平と呼ばれるほどに恐れられていた。そんな私の知識には、揺れない、つぶれない、掴めないと言う虚乳三原則があったのを確かに覚えている。


 つ・ま・り・だっ!!


 くっころ妹の小玉スイカは虚乳じゃなく、MAJIもんの、掴もうと思えば掴むことのできる、マニア必見のおおぶりな小玉スイカだったってことだぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!


 ……じゃないっ!! なぜそっちに思考が行くんだ私と言う奴は……。確かに絶叫ものの大発見だった。発見だったが……、そっちじゃない……、今だけはそっちじゃぁ無いんだよっ!!(魂の叫び)


 実はもうひとつ、確かに一瞬だが、表情がこらえきれないとばかりに愉悦に歪むのが見えていたのだ。

 すぐに取り繕った真剣な表情に戻っていたが、あの表情は間違いなく心配する者がしていい表情じゃない。

 あれは三下の悪役が仮初めの愉悦に浸った時の表情……。


 これはもう暫くあの虚乳が巨乳であったことの確認を……、いや違う。着替えを……、いややめろそれは犯罪だ。そう、涙を飲んでくっころ妹の動向だけを確認しなければなるまいっ!!

 ……だから着替えを覗いたとしても不可抗力だよな?



――――――



「では、引き続き頼みます」

「ええ。お任せください、お母様」


 その後も短い間ではあったが、二人はお互いに慰め合うと相談を交わし、引き続きくっころ妹が捜索を続けると言う所で話がまとまり、くっころ母がセバスチャンを連れてくっころ妹の部屋から退室していった。


 パタン


 軽い音を響かせて扉が閉まると、数秒間は無音の世界が続いていたが、唐突にくっころ妹の唇が弧に歪むと、低い笑い声が響いてきた。


「くっくっくっくっく。……さぁ、出てきなさい」


 ……バレた!?

 と一瞬体が強ばるのを感じるが、口調的に私へ向けたものではないと直感すると大人しく息を潜め続ける。


「――失礼いたします」


 すると視界の外にいたのか、スッーと音すら立てず、一人のメイド服に身を包んだ少女が現れた。

 草原のような緑の髪に感情を映さないはしばみ色の瞳。髪はベリーショートで印象に残らないようなうっすい顔に能面のような笑みを張り付け、変わることの無い表情でくっころ妹に向かって一礼する。ちなみに胸部装甲に関してはノーコメントでいこう。


「首尾は上々のようね?」

「はっ。ですが短剣が一本と遺体が消えたまま、依然として消息を掴むことが出来ておりません」


 はぁ……、やっぱり三下って事か。ビンゴ、だな。

 鼻を鳴らすとあの少女からは鈴蘭のような香りが漂ってくる。おそらくくっころさんを襲った黒い影、あの少女に間違いないだろう。

 くっころさん、頑なにギルドの依頼で来たとしか言わなかったからどんな理由で俺に襲いかかってきたか知らなかったが、おそらくこの妹に騙されて来たって考えるのが妥当らしい。


「ですが短剣が皮膚を切り裂いた。この報告に間違いないのね?」

「はい、間違いなくこの目と舌でしかと」

「ならいいわ。あの毒は未だ解毒方法の見つかっていない新種の毒。

 例え毒殺に耐性をつけた姉様であろうと、抗うことは出来ずに野垂れ死んでいるはずよ。

 くふふふふっ……」


 ほの暗い瞳と笑みに底冷えが走る。


 こわっ……、この手の王位継承トラブル、前世で小説とか漫画で良く読んだけど、実際に目の前で行われてるとほんと怖いわー。

 でもま、確かにくっころ妹の言う通りで間違いは無かったわ。

 あの毒、現代化学で調合するような代物で、良くこの異世界に存在したなーと感心していたがそういうことだったのね。

 確かにあのままだったらくっころさんは間違いなく死んでたし、私が立ち会ってなかったら解毒する術すら無かったろう。

 ま、私に化学知識があったから助かったものの、素直に運が良かったってことだな。……ま、いざとなったら他にも助ける方法はいくつかあったがな。


「ですが、フェンリルと思われる魔獣が彼女を庇おうとしていましたのと、麓の村でフェンリルを獣魔契約(テイム)している男の噂を耳にしたのですが……」


 言いづらそうに報告するメイドの声に、くっころ妹はその報告に目を輝かせて答える。


「あら、丁度良いわね。

 姉様殺害の罪を押し付けるのに、魔獣程度では役不足と思っていたのだけど、飼い主がいるのなら丁度良いわ。

 遺体も見つかっていないようだし、その男の獣魔が食い殺したと言えばその後の始末などなんとでもなるのでなくて?」


 ちょっ!? おまっ!? 何いい笑顔で言ってくれやがりますか?

 これっ、なんの飛び火っすかっ!?


「ですがフェンリルは厄災級の魔獣、そのような存在、そしてそれを使役する者を敵に回しても良いのかどうか……」


 おっ、メイドさんの能面が崩れかけて焦った表情になったぞ。

 ええぞっ!! メイドさん、もっとフォローしてくれっ!!


「あら? 貴女、嘆願書の中、見ないで姉様の机へ置いて来たの? 

 フェンリルは体長20Mを越す巨大な怪物なのよ、あの村からの嘆願書で、銀色の魔獣はたかが2M程度という話しでしょう?

 なぜここにいるのか知りませんが、それはただの魔獣に過ぎません。種族は銀狼(シルバーファング)、北方の氷雪地帯に住むただの魔獣に過ぎませんわ」


 あー……、いや、くっころ妹さんよ? 凄いどや顔で言ってますが、私、フェンリルで間違いありませんよ? そりゃま、ハーフなんで完璧なフェンリルとは言えませんけどさ、母さんは間違いなくメイドさんの言ってる通り、フェンリルで間違いありませんからね? 大事なことなので二度言いましたよ。ええ。


「ただの獣にあれだけの知性が? ……あっ、いえ、失礼致しました」


 いやそこっ、睨まれた程度で簡単に引かないでよっ!? シルバーファング、よく知ってるけど、あれ本当にただのけだものだからねっ? 知性無いからねっ!!

 あ、いや、有るかもしれないけど、私のように深く考えたり出来ないはずからねっ? ねっ!?


「無知は罪ではないわ。ただ貴女は知る機会が無かっただけ。

 ですが良い情報を持ってきました。誉めて差し上げます」

「はっ、ありがとうございます」


 あー……、くっころ妹さんや、無知、いや、知ったかぶりはあなたの方ですから。ざんねんっ!! ……って昔やってた芸人いたなぁ~。なつかしっ。


「では、その男を犯人とするだけの証拠はこちらで作成します。

 貴女はその男を指名手配とするため、麓の村で人相や出来うる限りの情報をかき集めなさい。良いですね?」

「かしこまりました」


 ……NE・TU・ZO・Uってやつですね、分かります。いや、これ、最早私が何をしようと、お尋ね者になるしかないフラグってことで間違いないですよね。うん。やかりました。

 ……ってわかってたまるかぁっ!!

 くそう……、くっころさんめぇぇええ。本っ当にあいつってば、疫病神以外の何者でもないよなっ!!


 ……まっ、まぁ、あの村の人達はいい人ばかりだし、大丈夫だよな? あそこの村長なんてフェンリルの姿で行けば、目の色変えて寄ってきてはもふもふしたり、旨いメシくれたり、櫛を入れてくれるからな……。


「あの村の村長もかなり乗り気です。狩った後、銀狼の毛皮さえ貰えれば何でもやると言ってますし、村からはぐれて住んでいる家族の一人や二人、なんとでも出来ると言っています」

「ではそのように」


 ……そんちょぉぉぉう!? ちょっ、おまっ、毛皮目当てだったのかぁぁぁっ!!






 

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