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Side フェンリル10

 まさに不覚、と言うべきだろうか。

 掃除しながら念入りに周囲を探ったので安心し、裸を見るのは……、という理由から着替えさせるために視覚、聴覚、ついでに聴覚と、外の様子を伺う手段全てを閉じたのは少々やり過ぎだったらしい。

 まさか、兵士がこうも早く、しかも一国の姫の私室を扉ぶちやぶってまで入ってくるとは思いもしなかったのだ。


 ゴシャッ

 

 間一髪、雄叫びと共に高速で飛んできた膝蹴りはなんとかガードが間に合った。

 威力こそ相殺しきれずに飛ばされてしまったが、直撃に比べればまだマシと言えよう。


「っぐ……」


 壁に打ち付けられ、衝撃で肺から息が漏れ全身に痛みが走る。

 飛んで来たのは何者。と視線を向けると、フルプレートに身を包み、兜からはひげしか見えない……多分ドワーフかジイさんだろう。が、くっころさんに向けて手を伸ばしているのが見えた。


 ッ!!

 ――瞬間、頭に血が上る。

 ッざけんなっ!!


 不死身に近い眷属といえ、完全に首を飛ばされたり心臓や頭を潰されては蘇生もままならない。

 一応アレでも私にとって唯一の眷属となった、言わば飼犬のようなもので、その世話をする飼主の義務っていうものがあるっ。

 なんとしてでも守らねばっ!!


 めり込んだ壁から抜け出ようと腕に力を込めると、放射線状に入ったヒビからガラガラと音を立てて崩れ始める。

 ガン、ゴン、ガゴンッ、ごぎゅっ。と壁の破片が私を打ち据え、もうもうと煙を立てて視界を塞ぐが、ここで何もしなければくっころさんがただ殺られるだけ。と意識をふるいたたせる。

 少しでも奴の意識を逸らすため、挑発の為に立ち上がり声を荒げる。


「いきなり何すんだこのジジィッ!!」


 視界を確保するために頭巾をずらし、嗅覚を抑える為鼻に詰めていた栓を鼻息で吹き飛ばし仁王立ちする。


「キサマがッ、キサマがワシの可愛いフィリをっ!! コォォォロォォォスゥゥウ!!」


 衝突の衝撃か、耳なりがしてコロスと言ってるのしか聞こえないが、声のする方角から爆発するような魔力の高まりを感じる。

 次いで煙を切り裂くように白銀の甲冑が飛び出して来た。


 挑発成功。ってところか?


 口角が上がろうとするが、突っ込んできたジジィは抜身の剣を正眼にかまえ、くっころさんの突撃など比ではない速度で私の眉間目掛け突っ込んできた。


「っぶねえっ」


 ギリギリかわすことには成功したが、これはけして余裕を持って相対できる敵じゃない。


 ゴガァンっ!!


 凄まじい衝突音がすると床が爆発するようにえぐれ、隣部屋に片付けといたはずの暗殺者やくっころ妹が瓦礫と共に爆発する。


「ちょっ!?」


 敵味方関係なしっ!?


「フィリの為じゃぁぁぁぁっ!!」

「ええっ!?」


 ちょっ!? この兵士、間違い無くフィリ(・・・)とか叫ばなかったか?


 愛称で呼ぶってことはこのジジイ、くっころさんの身内っ!? つまりドワーフの兵士じゃなくて父親オヤジとか爺さんとか……?

 襲ってくる理由は知らんがコイツも無傷で制圧しないといけない相手っ!? 正直面倒くさいねっ!!


「しねっ、しねっ、しねぇぇぇッ!!」


 こちらの考えなどつゆ知らず、ジイさんの猛攻はとどまるどころを知らない。どころかその激しさをどんどんと増すばかり。


 突きからの横払い。意識が剣に向いたと思えば足払いが飛んできて。それをバックステップでかわせば足を狙って刃が飛んでくる。

 切り上げるような逆袈裟が来たと思えば、片手が柄から離れて殴り掛かって来て、それを避けると残った片手で剣を振り下ろす。

 その全てをギリギリで避けながら、制圧のための道筋がまったく見つからずジレンマだけが募ってくる。


 このジイさん、もしかするとうちのジジィより強いかもしれない。


 このジィさんと相対してると何故か幼い頃、よく遊びに来たついでに稽古という名の地獄を見せてくれたクソジジィを思い出す。


「何を笑っておるうゥッ!!」


 激高したジイさんの叫び声が耳を打つ。


 ――どうやらいつの間にか笑っていたらしい。

 母さん曰く、クソジジイを思い出すと相当凶悪な笑みを浮かべるらしく、それだけで悪役認定されるので思い出すなと言われてたんだが、どうやらそれが出てしまったようだ。


 ジイさんの連撃は怒りと共に鋭さを増し、本気でヤバくなって来る。


「死にさらせこわっぱがぁっ!!

 隙ありじゃッ」


 フェイント。と見せかけた振りおろしからの突きを手の平で払おうとするも、更にその突きもフェイントだったのか、突き出した手を逆に掴まれ、強引に前に引っ張られて体勢を崩してしまった。


「てんっちゅうううッ!!」


 無防備となった背中めがけ、逆手に持った剣が振り下ろされる。


 やべえっ!?


 せめて心臓だけは無傷で。と身をひねろうとすると、なぜか視界に飛び込んでくるのはくっころさんの姿……?!


「ダメぇぇぇぇっ!!」

「ふぬおおおおっ!?」


 正面から抱きついてきたらしく、タックルするように飛び込んでくると、私を抱え込んで勢いのまま地面を転がる。

 ジイさんの方もいきなり飛び出してきたくっころさんに面食らったか、慌てて軌道をずらしたようで床に刃が突き刺さり、そこから爆発が起こる。


「ユーディアス様お待ちくださいっ。

 この方は私の命の恩人で大切な殿方なのですっ。

 この状況は私を助けに来てくれたこのお方が、悪の刺客をなぎ倒し、ついでに思わずムラムラっと来て私に劣情の猛りをぶつけようとしただけですが何も問題ありませんからっ!!」


 ちょっまっ!? それなんて火に油っ!?

 状況が分かるようで、全くトチ狂った説明だったが、くっころさんの言葉にジイさんは口をあんぐりと開け、戦意でも削がれたのか床に突き刺さった剣から手が離れた。


 チャンスっ。


 くっころさんを振りほどくために突き飛ばし、床に突き刺さった剣を掠め取るとその切っ先をジジィの喉元へ突きつける。


「ぐっ……」


 形勢逆転を悟ったか、地面に膝をつくジイさん。これで一安心。と思ったが……


「待ってくれっ!!」


 今度はくっころさんが背中にしがみついてきた。


「いきなり蹴られて怒るのは分かるっ。分かるが落ち着いてその剣を降ろして欲しいっ!! その方は村長の刺客なんかじゃなく、隣国の王、ユーディアス陛下なのだっ」


 ん? 隣国の王? って、ユーディアスぅ? ってちょっと待てっ!! ユーディアスってアレか? えっ? 国王っ!?

 って、それよりもくっころさん。村長の刺客って、未だに犯人が妹って気づいてなかったのかっ!? 麓の村の村長が犯人って、未だに思ったままなんかいっ!!


 色々と色々な情報に脱力しかけ、それでも聞いておかなきゃいけないことがあったのでくっころさんに声をかける。


「いや、くっころさ……ん?」


 しかし、いつの間に側にいたのか、ぽてぽてと歩いてきたくっころ母が、くっころさんの太ももを指差しチェシャ猫のようににたぁっと笑いながら問いかける。


「その太もも……。既に事後?」

「ふえっ!?」


 慌てて太ももを見るくっころさん。

 首から吹き出した血で確かにおパンツも血にまみれてたし、太ももに垂れていても不思議じゃない。あ、もちろんパンツ見たのは、着替えさせる必要があるか確認のためだぞ?

 ……が、履き換えたパンツ(そこらにあったもの)から流れ出る太ももの鮮血。言われて見れば確かにそう見えなくもない……のか? 経験無いから知らんけど。

 ま、勘違いされても困るし先に訂正しなければなるまい。


「いや――

「た、た、た、た、たっ、タロっ、タロさっ、もっ、もしっ、もしかしっ、てっ?」


 訂正しようとするが、くっころさんに肩をがっくんがっくん揺らされて訂正したくともできない。更にうろたえるくっころさんが涙目でせまる。


「もうやっちゃったのぉぉぉ!?」


 ちょっいまてっ、私、そんな信用ないんかいっ?


 少なからずショックを受けるが、ここで私まで動揺すれば変な騒ぎとなりかねないの。ここは敢えて冷静に対処する。


「や、違うか――」

「ぬぁんじゃとぉっっっ!!」


 ……や、訂正させてよ。

 否定する声を遮り、さっきまでうなだれていたはずのジィさんから覇気が膨大に膨れ上がる。


「きぃぃぃさぁぁぁまぁぁぁッッッッッ」


 そして振り向いて驚いた。


 血涙っ!?


 兜の隙間から滂沱のように流れ出すのは紛れも無く血涙で、思わず腰が引けると首筋に刃を突きつけられているはずのジイさんはすっくと立ち上がる。


 何っ!? なんでこのジイさん血涙流してんのさっ!?

 さっきは身内と思ってたけどくっころさんの言じゃ違うみたいだし、一体どんな関係性っ!?


 内心困惑するものの、否定だけでもしなければ。と言う思いからジイさんに落ち着くよう声をかける。


「や、落ち着けジイさん。違うからっ!!」

「キサマにジイさんと呼ばれる筋合いはなぁぁぁいっっっ!!」


 ジイさんは余計に激高すると、目から魔力とも闘気ともつかない何かを噴出しながらフシュルルルーと息を吐き出す。


「フィリはワシが手塩にかけて育て上げた娘。

 ゆくゆくはウチの孫の嫁にして、曾孫を猫っ可愛がりするつもりじゃったんじゃっッッ、なのにキサマはっ、キサマハッ、キィィサァァマァァはぁぁぁッッッッッ!!」

「「ええっ!?」」


 ちょっ、そんな理由っ!? そして同じように知らなかったのか女王やくっころさんの驚く声が聞こえんですけどっ!? 何このジイさん、もうやだっ!!


「待てっ、ジイさんっ、誤解だっ、誤解だからっ!!」


 そのままジイさんが近づいてくるので、剣を投げ捨て後ろに下がろうとするも、今度はくっころさんが背中にひっついたままなので動くに動くことが出来ない。

 正に前門の虎、後門の駄犬。


「フシュルー、フシュルルルー」


 ジイさんは両手でゆっくりとフルフェイスの兜、前面部分の開いている目と口部分に手をかけると、そのまま力を込め初めた。


 ギギギギギッ……、


 いや、おい……、まさか引き千切る気っ!?


 ギヂンッ!!


「ぐおおおおおおーーーッッ!!」


 兜から悲鳴のような音があがり、そのまま勢い良く真っ二つに引きちぎると、顔があらわになったジイさんは目から闘気を噴き出しつつ、そのまま獣のように咆哮をあげる。


「グッ、おおおおおおおおーっ!!」


 って、ちょっ!? おいっ!? マジかっ!?

 まるでドワーフのような厳つい顔付きに眼光だけで人を射殺せそうな鋭い目。前世の三国志で見た関羽雲長を思わせるような長い口ひげに対を成すように後ろに流した長い髪。名前を聞いた時、もしかしたらって思ったけどっ。間違いないっ、このジイさん、いや、このクソジジイは――


「オおおオオおオおーッ!!」

「ちっ!?」


 考えている余裕などない。雄叫びを上げるクソジジイの腕が、風を切って私の顔目掛けて迫ってくる。

 このまま掴まれたら間違いなく首がもげる。そう悟った私はくっころさんをかかえて距離をとろうとするも、今度は背中に居たはずのくっころさんの姿がなくて腕がすかる。


「お止めくださいっ!!」


 いつの間に前へ回ったか、くっころさんが私をかばうようにクソジジイとの間に割って入った。


「ふぬっ!?」


 目から闘気を噴出させながらも理性までは失ってなかったか、クソジジイはピタッと攻撃を止め……って、勢いがつきすぎたのか、目を見開き、歯を食いしばって止めようとしているようだが全く止まる気配が無いっ!?

 

 ――ま、これぐらいなら問題ないか。


 バキィッ!!


 くっころさんを横へ突き飛ばし、クソジジイの豪腕を頬でモロに受け止めると、その勢いのままに吹き飛ばされた。


「くっ」

 

 今度はうまく壁に当たらないよう調節し、床を滑るように着地するとクソジジイの声が聞こえた。


「フィリ、何故暴漢をかばう。

 この男はお主の純潔を……、純潔を……、ジュ・ン・ケ・ツ・ヲォォォッッ」


 オイ、自分の言葉でバーサクスイッチ入れてんじゃねぇよ。

 どうすっかなぁ、これ。


 などと呆れている中、くっころさんの私をかばう声が聞こえた。


「怒りをお収めください。これはっ、私の意志で捧げたものですっ」


 その言葉に、部屋の空気が一瞬で凍結した。


「なっ!?」

「えっ!?」

「ちょっ!?」

「「!?」」


 ちょっ、まって。捧げてもらってないですよっ!?

 

 慌てて否定しようとするも、それよりも早い速度でくっころ母(女王)が動く。


「あらっ、あらあらあら、まぁぁぁっ!!」


 その顔は喜色満面。女王の威厳をかなぐり捨てて、うちの母さんもよくやるニンマリ顔でくっころさんの正面へ駆け寄った。

 対するクソジジイはバーサクモードを解除されたどころか、ショックで茫然としているところにくっころ母のヒップアタックを食らい、瓦礫の中へ弾き飛ばされているのが見えた。ザマアミロ。


 くっころ母はくっころさんの両手を握り締め、頬を薔薇色に染めながら見上げる。(顔半分ほど母のほうが小さい)


「良くやったわねーフィリ。いきなりいなくなったと思ったら、こんなかっこ可愛いお婿さんを連れて来てっ♪

 でかしたわっ♪」

「そうですっ!! かっこかわいいですよねっ、タロさん」

「そうねっ。特にあのふわふわもふもふの尻尾とか、ふさふさの耳とか気持ちよさそうねっ♪」

「そうですっ!! でも私のタロさんですから母上には貸しませんよ」

「……チっ」


 いや、なぜ舌打ちを? くっころさんに見えないようにしてたけど……。と言うか一瞬黒い部分が見えたっ!?


「まぁ、獣人と言うところで一悶着は有りそうだけど、何か言う輩はありあまるネタでせっとく(脅迫)すればわか()ってくれるし、おともだち(獣人)そうだん(裏工作)すれば何ら問題ないはずよっ♪

 それどころか王家に獣人の血が入れば、子孫の強化に繋がるし、獣人国家との同盟も今以上に強くなるはずねっ♪

(それに人種差別を謳ってくる聖国への牽制になるし、人族至上主義の宗教国家へは嫌がらせにもなるわね)

 何よりフィリ()選んだ(見捨てられなかった)子なら凄く安心っ♪」


 いやっ、凄くほがらかに言ってるけどっ、言葉の裏とか心の声がまる聞こえですからっ!? っ!? っひ!?


(黙ってなさい)

(はいっ!!)


 何怖いっ!? 今っ、視線だけで会話したっ!?


「ちなみに彼のご家族は? 貴族なの? それとも平民? もしかして他国の方かしら? 人の部屋で始めるところはマイナスだけど、性欲旺盛なのはお世継ぎのためとても良い条件ね♪ で、いつ挙式するの? 今日? 明日? 明後日?

 これで落ち着くのだし、王位はもう譲っちゃって構わないわよね?

 貴女が女王でティリが宰相。私にとってもの凄く(都合の)良い人選ね」


 怖いっ!? 何なのこの人っ!? 一見ぽわわんとしたお姉さんなのに下手すると母さん並に怖いっ!?


「はいっ。タロさんは山奥で暮らしてましたがこの国の民で間違いありません。

 ご家族はお義母様と亡くなったお義父様の親類のみと聞いていますが、お義父様が亡くなってから付き合いは途絶えたと言いますし、何か言う親族がいたら物理的に黙らせるから安心しなさい。とお義母様に言われてます」


 ちょ、まって!? 母さん。くっころさんに何吹き込んでんのっ!?


「あらあら、まぁぁっ。それはとても(都合の)良い提案ねっ♪」

「ですが母上、私は女王になるつもりはありません」

「……え?」


 ……あ、一瞬だけどくっころさんに対しても低い声になった。


「私のような若輩者では国が廃れてしまいます。女王の座は信頼できるティリに任せ、私はタロさんとお義母様、三人で山奥で暮らしたいと思っております」


 そしてくっころさんはそれに気付かず、以前言った、隠れ住むというプランを堂々と宣言している。もうヤダこいつっ!!

 まぁ、国の為にはその方がいいんだろうけどさっ。


「あらまぁ、それは何故かしら?」


 しかしその言葉を聞いたくっころ母の空気が一変した。

 口調や表情などゆっくりゆったりとしたさっきまでと同じなのだが、間違い無く何かが変わったくっころ母がくっころさんに向かって問いかける。


「私は……、私はティリに嫌われていたのですっ!!」

「……へえ」


 あ……、この答え、女王絶対知ってたな。

 しかしくっころさんは気づかない。


「実は先ほど本人から言われてしまいました。

 こんな、身内にすら嫌われてしまうような女が国民達に好かれるとは到底思えませんっ!!

 私には女王としての器など無いのですっ!!」


 空気が読めないどころか母親の空気が変わったことすら全く気づかず、変わらない口調で母へ訴えるくっころさん。

 

「そう。ティリが……、ねぇ?」


 その言葉を受け、くっころ母がゆっくりと瓦礫の方へ視線を移すと、瓦礫がビクンと震えてその間から起き上がる影があった。

 くっころ母はその影が誰か分かっているようで、その影に向かって(口調だけは)優しく問いかける。


「そうなのですか? ティリアーネ」


 その声を受け、影はシルエット越しでもはっきりわかる程に激しく震え、焦ったような声で返す。


「そっ、そそそそっ、そのような事はありませんわお姉様っ!!

 さっきのは冗談っ!! ほんの数年越しのドッキリがうまく行き、調子に乗って口が滑っただけなのですわっお姉様っ!!」


 言わずもがな分かるだろう。くっころ妹ことティリアーネが盛大に言い訳をしようとして壮大に自爆った。


「口が滑った?」


 そこへニッコリと微笑むくっころ母。


「ああああああっ、ちっ、ちがっ、違いますわお母様っ。

 口が滑ったのではなく積年の恨みがつい言葉に、いや違う。宰相なんて目立たないポジションじゃなく女王になって好き勝手に、いやこれもダメね。大体好き勝手しているお姉様の方が国民からの人気が高いのがおかしいのよ。もっとこう、国の為を思い暗部で色々動いている私の方が認められるべきであって、脳天気に世直しなんてしてるお姉様がこの国の女王になったら、それこそすぐに隣国から攻め滅ぼされてこの国が終わってしまうに決まってますっ!! そうなってしまっては大変と思い、お姉様に心にもない事を言って女王の座を辞退して貰おうと思っただけなのですお母様っ」


 そこはかとなく似たもの姉妹。という単語が頭をよぎるが、下手に口を滑らせるとせっかく逸れた話が元に戻りそうなので黙っておこう。

 だがくっころ母はその言葉を聞くとニッコリと笑う。


「あらそうなの?

 つまりティリもこの国の未来を考えていることに変わりないのね?」

「それは勿論ですっ!! ですからお義母様っ」

「なら話が早いわ、ちょっと耳を貸しなさい」

「ふえっ!?」


 まるで地面を滑るように、一瞬にしてくっころ妹のそばに寄ったくっころ母が強引にくっころ妹の片耳をつまむとぼそぼそと何かをつぶやきはじめた。

 ま、俺の耳には届くんだが。


「っといけない」


 そう言ってくっころ母がぱちんと指を鳴らすと、くっころ母とくっころ妹を囲むように防音結界が貼られた。

 結界が完成する直前、くっころ母が私を見て微笑む。


「立ち聞きはよろしくなくてよ、婿殿♪」


 ……ばれてぇら。って婿ぉっ!?


「え……、と。私はどうすれば良いのだろう?」


 そして会話途中でほって置かれたくっころさんが、困ったようにおろおろしている。


 ……。仕方無い。

 取り敢えず、くっころさんの誤解だけでも説いておこう。


 そう思ってくっころさんへ向き直ると、今度は別方向から瓦礫が吹き飛び、怒号が響いた。


「認めぇぇぇえんっ!! 認めん!! 認めん!! 認めんぞおぉぉぉっ!!

 例えフィリがその男を好いておって、既に初めてを捧げてしまっていてもっ!! ワシはフィリの娘にひいじいちゃん(はぁと)。と呼んでもらうまでは絶対にあきらめぇぇぇえんっ!!」


 ……クソジジイ。

 あんた、そんな事のために本気で私を殺そうとしてたんかい……。

 色々ツッコみたい所はあれど、このままでは第二ラウンドが始まるのも時間の問題。


 さり気なくくっころさんに視線を向けると、くっころさんはくっころさんで更にオロオロするばかり。


 あのクソジジイ、本気でバーサクしたら辺り一面焦土にするまで止まんねぇんだよな……。

 ……仕方無い、試してみるか。


「おいジイさん。何か勘違いしてるかもしれんが――

「そぉこぉぉかぁぁぁっ!!」


 ゴガァンっ


 頭よりも一回り大きな瓦礫が飛んできた。

 間一髪避けたものの、これ以上声をかけたらバーサクジジイが加速しそうだ。


 っつうか言葉が通じねーよっ!?

 じゃっ、くっころさんに振ってみよう。


 視線で促すしてみても気づかないので、コンコンと頭を叩くと、ふぇぇぇぇっ!?。と変な声を上げて我に帰った。

 クソジジイに向けて指差してやると、やっとそちらに気づいたようで、くっころさんはお腹に手をあてると決意したように話し出す。


「あっ、あのっ……、ユーディアス様っ、そのっ、この子は私とタロさんの子なのでっ、その夢はすこーし無理かと……」

「ちがーーーうっ!?」

「ぬわんじゃとぉぉぉぉっっっ!?

 フシャーーーー、シュガガガーーーー」


 なに火に油を注いでるんですかー!? っていうかくっころさんもいきなり何言い出してるのっ!?

 もーやだよこのくっころさん。クソジジイは目ぇからオーラ吹き出してるし、バーサク開放一歩手前よっ!?


「コウナッタラキャツヲコロシテワシモシヌーッ」


 ヒィィィーー!?

 

 ――クソっ、こうなったら最後の手段。

 覚悟を決めた私は記憶の奥底にうずもれた、絶対に言いたくないけど言うしかないセリフを。……めっちゃくちゃ言いたくないし、言ったら多分後戻り出来ないんだろうなぁなと思うし、絶対に言いたくないんだけど多分言わないとクソジジイが命燃やしながら辺り一面を焦土に変えるだろうから、それを阻止する為にも言わなきゃいけないんだろーなー。なセリフを、一言一句間違えないように、あの時の情景を思い出しながら口に出す。


「いいかげんにしなよじいちゃ。

 そんなだからとーさんが怒って出てっちゃったんだよ?」

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