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Side くっころ01

 目が覚めると、そこは見知らぬ丸太で組まれた天井だった。


「知らない天井だ」


 いつも朝起きた際に見る天蓋付きのベットではなく、ベットから落ちた際の見慣れた石造りの天井でも、母上に黙って魔獣退治へ出掛けた際に使用する簡易テントの布張りでもない。

 見たことも無い木の天井の造りに思わずポツリと呟き、私は我に返った。


「――っそうだ! あの銀狼はっ!? 黒服はっ!? 確か私はナイフの毒にやられたはずっ!?」


 勢いよく上半身を起こそうとするが思うように力が入らず、体勢を崩しかけた私はそのままベットから地面にダイビングしてしまう。


「危ね……」


 ――が、すんでのところでたくましい腕に支えられ、落ちることなく元の位置へ戻された。


「目ぇ、覚めたようだな」

「――っ!? ……すまない」


 ぶっきらぼうな物言いについ感情が昂って怒鳴りかけるが、彼――この位置からは顔が見えないが、声からすれば彼で合っているはず。


 彼は私の使用人でなく、きっとこの家の主だろう。

 どのような理由であれ、私は彼に助けてもらったはずで、失礼にならないようとりあえず礼だけは言っておくに越したことはない。


 自分でも掠れた声にしか聞こえなかったため、声が届いたかどうかまでは判断できないが……。


「……ほれ」


 私の声が聞こえていたのか、それとも聞こえていなかったのか。

 ぶっきらぼうな物言いに似合わず、優しげな手つきでベットへ戻されると、ベット横に置いてあったのだろう。木製の水差しからこれまた木のコップに水を移し入れると、ぶっきらぼうに差し出してきた。


 これは暗に飲め、と言うことなのだろうか?


 確かに喉がかすれて水分が欲しい自覚はあるが……。

 毒、という可能性も考えられなくはないが、殺すつもりならば私はすでに死んでいるはず。

 ありがたくコップを受けとり、口元に近付けると微かに柑橘系の香りがした。


 気にはなったが毒物の臭いではなく、むしろ爽やかな香りに喉が鳴る。


 ――渇きを自覚したせいか、無性に水が飲みたい。

 もしこれが毒物だったとしても、毒には耐性があるので死にはしないだろう。一口だけ、一口だけなら問題ないとコップの中の水をあおる。


「おいしっ……」


 なんだこれはっ!?


 汲んでしばらくのぬるま水を予想していたが、適度な冷たさがあって寝起きの体に丁度良い。

 しかも水の中に溶かしてあるのはレモンと蜂蜜か? 爽やかな香りが鼻に抜け、適度な酸味と喉を潤す甘さが妙に心地良い。

 まるで疲れた体が癒されるように、体の隅々まで水が浸透して行くのが感じられる。


 思わず礼節をかなぐり捨て、水差しに直接口をつけ、中身を飲み干してしまいたい衝動に駆られるが流石にそれは我慢する。


 コップに残った水を一気にあおり、おかわりを水差しからコップに注ごうとしたところで、先程の声の主がまだすぐ横にいることに気がついた。


「あっ……」


 思わず動きが止まってしまったが、「ふっ」と鼻で笑う声が聞こえると水差しが持ち上がり、手の中のコップになみなみとおかわりが注がれる。


「まだある。そうがっつくな」


 苦笑めいたその優しげな声に、思わず頬が熱くなる。


 くそぅ……。これでも礼儀作法は完璧に近いと自他共に認めているのに。すべてはこの水が、この水が美味しすぎるのがいけないのだ……。


 せめて一言いってやろうと顔をあげ、口を開きかける。……が、言いかけた言葉は真っ白になり、そのままなにも言えなくなってしまった。


 最初に目に写ったのは、よく鍛えられた足と膝下までのズボンだろうか。

 そこから順に、引き締まった腹筋に腰まで届く輝くような銀色の髪。盛り上がった胸筋にたくましい上腕二頭筋、そして形の良い鎖骨が目につき、太くも細くもない均整のとれた首筋。

 顔立ちは彫りが薄いものの鼻筋は通っており、目はやや冷たさこそ感じられるものの鋭くも美しい銀色の瞳。

 そして何よりも、登頂部には髪と同じ銀色の毛で覆われた獣耳があった。

 獣耳を持つのは獣人のはず。

 この形状は犬科の獣人だろうか? 犬科の獣人は良く鼻が聞いて忠義に厚いと聞くが……。


「珍しいか?」


 不機嫌そうな声で思わず我に返る。

 そうだった。

 確かに獣人は珍しいものでない。ないが、銀色の髪を持つ獣人は非常に珍しい。

 それに獣人の獣耳や尻尾を凝視するのは礼儀に反する行為だったはずだ。だが……


(ゆる)せ、あまりにも綺麗で見とれていた……」


 その神秘的な美しさから目を離すことはできなかった。

 先程よりはまともになった声でそう答えると彼は照れたのだろうか、頬を少しだけ赤らめると「寝てろ」と早口に言って私の顔に毛布を投げつけ、足早に戸口から出ていった。


 しばしぼうっと戸口を眺めるが、不意におかしさがこみ上げてきてしまう。


「ふふっ……」


 あのような挙動を見てしまうと、最初の無愛想な物言いすら愛嬌のように思えてしまうから凄く不思議だ。

 それほど質は良くないが充分に手入れされているであろうベットはふかふかで気持ち良く、丁寧に使われているのであろう毛布はひんやりとしていて素肌に心地良い。

 それがなによりも私の心を暖かく――。


 ――ん? 素肌?

 何かが頭に引っかかり、布団を剥いで自分の体を確認する。


 多少筋肉質ではあるものの女性としての丸みは失われておらず、我ながらきめ細かい肌質を持っていると思う素肌に、控えめながらも確かな膨らみを持っていて、理想的なお椀型の胸元……。

 うん、我ながら素晴らしい素肌。つまりは裸、しかもっ、よく見てみれば下まですっぽんぽんの全裸だっ!?


 そして先程のベットから落ちかけた体勢……。

 あれは間違いなく下半身まで毛布から丸出しになっていたわけであり、それは毛布がベットの下に落ちていたことからも紛れもない事実と言えよう。


 そして彼は私がベットから落ちないよう、横から私を支えてくれた。


 ――つ・ま・り・だ。

 うん、つまり……、そのぉ……、なんだ? みっ、みっ、みっ、見られたっ? そうっ!! 見られた、みられたと言うことだ。

 だっ、だが何を気にする必要がある。湯あみであれ、着替えであれ、侍女に裸を見られることなど日常茶飯事で見るのも見られるのも慣れている。

 今更はだかを見られたところで……、たとえそれが男性だったとしても……、うん、男性。男性なんだ……。いくら男性と言えど、侍女と同じと考えれば……、そう、見られたとしても……、みっ……みらっ……みられっ……み……。


「――っ!!

 フギャーーーーッッ!!」


 みぃ~らぁ~れぇ~たぁ~~~~~~っっ!!


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