これは転生というのだろうか?
まだまだ序章です。シリアスパート~
しかし、どこら辺から本編にするか悩みますね。
これは何かの間違いだ。
私は震える小さな手をじっと見つめ、叫びだしたい気持ちを荒く吐き出す息に紛れ込ませる。そうしないとわけもわからず手当たり次第にこの見知らぬ地を荒らしていただろう。それでも揺れる視界が、消化しきれない衝撃を包み隠さず教えてくれる。
信じたくない。信じたくない。こんなの、ありえない。
けれど、そんな思いとは裏腹に、体は酷く痛んで現実を知らせてきた。
目を強く瞑る。頭が痛い。掻き抱いた体が熱を持っている。
私は目覚めた。そう、目覚めたのだ。
死んだはずの私が、肉体を持って目覚めた。それがどれほど異常なのか、私は今身をもって思い知る。これは、これはなんだろう。鬱蒼とした森の中、私は薄汚れた手を必死に擦る。寒いのか、はたまた違う何か――たとえば、恐怖によって体は震えてしまっていた。
視界に入る髪の毛が酷く痛んでいて、短い手足に刻まれた幾重にも重なった傷がチラチラと目に入る。どうやらこの肉体は理不尽な暴力に晒されていたようだ。発育の悪い肉体を苛む痛みは何をしても取り除かれることがない。
無意識に生前の記憶を頼りに、つい両手を組んで祈りそうになる。染み付いた癖はなかなかに厄介だ。
「どう、したら」
掠れる声が変な振動となって喉に痛みを与える。声を出すことすらままならないことに、この肉体が予想よりもはるかに弱っていることが突きつけられた。ガサガサの唇を覆って、私は蹲る。この肉体の持ち主であった少女が、歳に似合わない望みを持っていたとしても不思議ではない。彼女は死の淵に立たされ、そして誰にも救われずにここで命を散らした。その絶望は計り知れない。御魂の狭間で死んだばかりの私が引き寄せられたのは、そんな少女の貪欲でいて悲痛な願望によるものなのだろう。何かの拍子で聖女としての力が働いてしまったとしても、私はもう疑問を持てなくなる。
せめて、祈ろう。この哀れな少女の肉体を与えられ、今一度生を取り戻してしまった愚かな聖女にできることは、彼女の魂が安からな眠りにつけるよう祈りを捧げること。そして、彼女の代わりに生きることだ。
押し付けられたとは思ってしまう。あのとき死を受け入れ、眠ろうとしていた私。その眠りを妨げ、こんなボロボロの体を明け渡した少女には苦い思いを抱いてしまう。ようやく手に入れた痛みからの解放を意図せずに壊されたのだ。
それでも。どんなに苦々しく思っていたとしても。私は、望みを託された。生きて幸せになることを望まれた。幼い少女が欲したものを、絶望の中消えそうになっていた少女の叫びを、私はそれでも受け取ってしまった。
ならば、“私”となったこの肉体を幸せにすることを励みにしよう。今度は〔誰かのために〕を強制された生き方なんてしなくていいように。
今度は意識して両手を組み、声に出せない代わりに強く祈りを捧げる。それだけで周囲の空気が浄化されたような気がした。
目を開けると、そこは夜の帳が下ろされた森の中だ。ここに転がされていた理由を私は知らない。何が原因だったのか、どうしてそんな目に少女は遭ったのか。すべての真相は闇の中だ。知らずため息が漏れる。
ふと、私は視界に入る髪の毛に目を瞠った。さっきまでそれどころではなかったが、髪の毛の色が片側だけ変わっていることに気が付く。
墨を溶かしたような黒と雪を溶かしたような白。相見えないはずの色がそこには広がっていた。
(こんな色、してたっけ……?)
目覚めたばかりのときは、黒髪だったような気がした。それを証明できるものはないが、こんなに印象的な髪色だったなら見間違えるはずがない。
いったいどうしてこんな変貌を遂げたのか。私は首をかしげる。
(黒、か。候補のときは茶色、聖女となってからは白だったし。……初めてだな。いや、こんな髪色誰だって初めてだろうけど)
目を伏せ、息を深く吐き出す。余計なことを考えて、混乱していた自分を諌めるのも終わりだ。
――さて。
(今も体に激痛が走っている。これだけ体に響いているなら動くのは困難を極めるだろう。傷は細かなものもあれば、やっぱり大きなものもある。一番酷いのは……背中か。うわ、今気付いたけど服も草も血で真っ赤じゃん。ここにどんな生き物がいるのか知らないけど、この血の臭いに惹かれて獣が来たら厄介だな。骨折もしてそうだから、私が生きているのが不思議になるほどボロボロ。……むしろ、なんで生きてるんだろう)
自分の身辺をくまなく観察してみると、まるで殺人現場のように凄惨だった。酷い、この一言に尽きるだろう。