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プロローグ

 新連載です。よろしくお願いします。


 知っていた。私は知っていたんだ。

 大好きだけでは傍にいられない。キミの周りの環境を愛し、できうる限りで手を伸ばしてその“愛”を示しても。それだけではいけなかったんだ。

 それが、この結果だ。

 ブラックアウトした意識。その最中で最期(・・)に聞いた彼の叫び。こぼれ落ちた言葉は、キミに届いただろうか。

 私の中に残ったこの思いを。この懺悔を。この安堵を。

 結局、私は自分が一番可愛かったらしい。

 けれど、それもすべて終わった。私の生は終わり、もうキミの傍にいることは叶わない。それを安堵してしまうのは、もはや罪に等しいだろう。

 もう疲れた。だから、もう眠ろう。


――……か。


(……?)


 私は目を開ける。そこは変わらず真っ暗闇に支配された空間。声を発するものも、何もないはずの世界が広がっている。周りを見渡してみても、やはり何もない。


「気のせい、か」


 いったい誰だったんだろう。なんて、まるで気のせいだと思っていない気持ちに参る。

 もういい。すべてを放り捨てた私がいつまでも意識を保っていることがおかしい。

 私は死んだ。彼の目の前で、殺された。

 もう痛みもない。それが、どんなに嬉しいことか。


――だれかたすけて!!


(……っ!?)


 響いた声に飛び起きる。辺りを見ても、相変わらず闇が広がっているだけ。それでも反響する声は、今も続いている。助けて、と泣き叫んでいる。

 よくよく耳を澄ますと舌足らずの女の子のものだとわかる。


「誰かいるの?」


 助けを求められると気になってしまうのは生前の悪い癖だ。そんなのは自分がよくわかっている。

 それでも、声をかけずにはいられなかった。骨身に染み付いた悪癖を、私は取り除く術を持たない。

 すると、どうだろう。パッと現れた光の道に目を瞬く。


「……進めば、いいのかしら」


 呼ばれている。そういうことだろう。

 まさか、死してもこういうことに縁があるとは思わなかった。


 私はその光の道の先を見つめ、ゆっくりと歩き出す。踏みしめるごとに光の粒子が散って、空気に馴染む様は美しい。


 それが、徐々に形を失い、道を形成できなくなってきていると気付くまでは。


「さすがの聖女様でも怒るわよ、これ」


 悪態をついた私は走る。迫り来る崩壊から身を守るために。

 ガンガンガン、と頭に響く悲鳴に耳を塞ぎたくなる。それでも、向かう。光の粒子が黒に転じていっていても。私にできることがあるなら、私に届いてしまった救いを無碍にすることなどできない。


「せめて、私の与り知らぬところで朽ちてほしい、なんて。酷い考えもあったものじゃないわね」


 死んでもこれでは、あまりにも救われない。聖女として生きた私。それしか道を用意されていなかった私だったのに、最後の最期でその役目を放棄してしまった。これはそんな私への天罰だろうか。祈る相手でしかなかった神のご意思がわからない。

 それでも、道を示されているのなら進むしかない。もう朽ちた身だ。悪癖をこじらせても、もう誰にも迷惑をかけないで済む。

 大切な彼にだって影響はない。私がいなくなった世界で、きっと私を疎んでいた奴らの施しを受けているだろう。口が悪いが、いい印象はほぼなかったのだ。こうなるのも仕方ないと割り切るしかないだろう。

 だって、もう私は彼に手を差し伸べることなどできないから。


――たすけて。おねがい、わたしを――


 声が叫ぶ。空間に反響していた思いが、今度は近くで聞こえた。意識の隙間に滑り込む負の感情に、唇を噛む。


「わたしをあいして」


 そんなの、私だってそうだ。

 愛してほしかった。私の名前は、聖女様(・・・)じゃない。


「わたしをしあわせにして」


 人々はそう望む。苦しみから解放されるのを望むのだ。そして、それができる聖女に縋りつく。聖女だって苦しみから解放されたいと、望んでいるのに。容易にその重荷を背負わせる。


「生きていてもいいって、わたしにおもわせて」


 息を呑んだ。その願いは、いつかの日の彼の願い。私が手を差し伸べるきっかけともなる、残酷な望み。

 剥き出しの魂が叫ぶ。そこから黒い粒子があふれだしているようだ。

 この目に映ったのは、今にも消えそうな小さな少女が虚空に手を伸ばしている姿。まるで、彼がそこにいるかのように錯覚させる。その少女に向かって光の道は続いている。

 目を細める。ここにいるということは、もう彼女は還れない。私と同じで死んでしまったのだろう。

 どうして、神様。放り出してしまった私に対する当て付けですか。

 できもしない望みを叶えようと奔走していた私に対する嫌がらせですか。

 奥歯が嫌な音を立てる。

 目を眇める。

 嗚呼、そうか。そうかよ、神様。


〔大好きだよ、×××〕


 彼の声が耳を掠める。壊れかけていた彼。縋りつく彼。私の名前を呼んでくれる、唯一の存在。

 手を差し伸べましょう。どうせ、ここには迷惑をかける存在はいない。


「キミ、どうしたの?」


 天使と謳われた笑みを浮かべましょう。騙されるのは誰かしら?


「たすけて、ほしい。わたしのかわりに、わたしをしあわせにして」


 とてもとても傲慢な、とてもとても身勝手な願い。それを綺麗だと持て囃された聖女様が聞き届ける。

 祈りましょう。心の中で、それは慈悲を赦す。


「わかったわ。私ができうる限りでそうしましょう」


 縋りつく少女は微笑んだ。彼女の原形を留めている手が私の手と触れ合う。


「しあわせに、なって」


 その囁きは、酷く私を不快にさせた。まるで私に幸せになってと言っているように感じてしまう。私は死んだのだ。殺されたのだ。轟く悲鳴と高笑う奴らの声が重なる。

 そして。

 突然、弾けるように消え行く少女。そこから飛び出す細長い糸に私は絡め取られてしまう。

 予想もできなかった。

 それは反応すら赦さない速度だった。私はなす術もなく引き上げられる。


「わたしのせいで、ごめんなさい」


 声が、世界を白く焼ききる。


 それが、この世界での最期だった。


 注意書き?

 この物語は“転生モノ”です。主人公に限らず、いろんなタイプの転生者が出てきます。もしかしたら悪役令嬢も出るかも?笑 後々の展開に期待はせずにお読みください。

 次回は聖女、元・聖女となる。

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