三日目 くもの上
空にはちらほらと雲が出てきていた。コンビニから帰る龍人と美菜。全員がとんでもない量の買い物を頼んだせいで二人はゆっくりと歩いていた。龍人が両手に一つづつ、美菜は両手で一つ。それでも美菜が重たそうにしていたので、龍人が持ってあげたのだった。
「ごめん、結局持ってもらっちゃって。」
「大丈夫だ、このぐらい。」
謝る美菜に龍人は優しく返した。
「ついて来てくれてありがとな。」
「うん。」
春の日差しが強く照り付ける。あまりの暑さに美菜はブレザーを脱いで腕をまくる。龍人は上着のボタンを外してブレザーごと腕まくりしていた。歩いていると赤いネクタイがゆらゆら揺れる。二人の影がアスファルトに映って重なる。
「その格好の方が似合ってるよ。」
歩きながら美菜が言った。龍人は三つの袋をまとめて片手に持ち、空いた方の手で頭を掻く。
「でも、そんなに涼しくないからなこの格好。滅多にしないかな。」
「そっか、残念だな……。」
美菜は足元に視線を落としていた。
「そんなに残念がることか?」
龍人が首を傾げると美菜はうなずいてからじーっと龍人を見た。
「どうしたんだ?」
龍人が訊くと美菜はふふっと笑って答えた。
「今のうちに見ておこうと思って。」
「変な奴だな。」
「うん。」
龍人が呆れても、美菜はずっと見続けていた。龍人の周りにはまっとうな人はいないのだろうか。龍人がため息をつくと、美菜は静かに切り出した。
「龍人君の家族は、いなくなったの……?」
「え?」
急にどうしてそんなことを訊くのかと、龍人が振り向くと、美菜はうつむいていた。顔には前髪がかかって表情までは見えない。ただ悲しんでいることは分かった。龍人も一旦うつむいて、けれど持っていた袋を肩にかけて前を向く。
「あいつらは、何であんなに明るいんだろうな。」
「……。」
美菜は黙って龍人について行く。足取りはさっきよりも重い。
「それはそれ、これはこれ。今は今。難しいけど、やってみる価値は、あるのかもな。」
そう言い終えてから龍人は歩きながら伸びをした。その横を美菜は無言で歩いていた。
空の日差しに黒い雲がかかりはじめる。
「笑えないよ、冗談でも。」
彼女は髪の毛に隠れて、唇を強く噛んだ。