三日目 眩しいたいよう その3
ガラガラ。
教室の扉が開く。穂乃佳たちが時音と新しい仲間を連れて帰って来たのだった。
「あ、ど、ども。」
少女がおどおどしながら先頭で横回転しながら、入って来た。教室は騒然となったが、みのると優燈は平然としていた。みのるは立ち上がって挨拶する。
「あ、どうも、空久保さん。今日もお元気そうで。」
「は、はいぃっ!!」
空久保さんは驚きの反動で、みのるに横直角90度の面を見せたまま直立不動の姿勢をとった。
「あ、十秒ずれてるよ。」
「お前、今そう言う状況じゃないだろ。」
空気を読まない優燈に龍人が的確にツッコむ。学校の電波時計は遅刻の言い訳にならないよう、校舎中の時計が同じ時間を刻むように設計されている。ましてや十秒なんてずれるわけがなかった。
「わー、みんなキャラ濃いねー!」
穂乃佳がのほほんと驚愕したように言った。
「コク」
時音が同意してうなずく。
「賑やかで楽しいね。」
美菜が微笑む。
「あー、やっぱり九秒かなー?」
優燈が明後日の方を向いて首を傾げる。
「み、み、み、ひょーいぃっ!!?」
空久保さんが横スクロールして32センチメートルの宙を舞う。
「いやいや、お前ら収まらねぇだろ! ちょっとは静かにしろよ!」
龍人がその場を鎮めようとはするものの、このメンツではかなり厳しい。
「全く……。」
「でも、これで十人揃った。これなら、作戦を実行できる。」
龍人が頭を抱えているその横で、みのるは冷静に考えていた。
「ともかく、みんな無事で良かったな。」
龍人は投げやり気味に言った。何とも言えない、本当に混沌としたカオスな状況になっている。
「あの」
「その」
「俺たちは?」
三銃士はもはや名前だけだった。
ー=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
三日目、昼。
「そろそろ昼飯にするか。」
作戦の内容が決まって来た。それと、準備も始まった。四日後に敵の侵攻があるのを考えると時間が足りないように思えてくる。
ただ、この十人の中でそのことを気にかけているのは龍人とみのる、美菜の三名だけだった。
それでも、腹が減っては戦は出来ぬので、昼食にすることになった。みんな思い思いのものを食べたくなって、「じゃあ、俺コンビニ行って来る」と言った龍人にあれを買ってきてー、これを買ってきて! とお願いする。教室を出る、あるいはコンビニに行くということはそういう運命にあるのだ。
「ああわかったわかった。買ってくればいいんだろ!?」
龍人は注文の嵐を途中で切り上げて、さっさと教室を後にした。
「全くあいつらときたら……!」
「あ、待って!」
下足室で靴を履き替える龍人に声をかけたのは、後ろから追いかけてきた美菜だった。彼女はみんなが龍人に注文している時に気が引けて、何もお願いすることが出来なかったからついてきたのだ。
二人は靴を履き替えて学校を出て行く。その様子を窓からじーっと観察している輩がいる。
「あいつ、剣道部のマドンナと……よくも!!」
三銃士のカケルと
「龍人はかわいい女の子に弱いからなぁ……。要注意。」
龍人の幼馴染の優燈、それから
「ギロリッ!!」
美菜大好き時音だった。
穂乃佳とみのるはお弁当勢。空久保さんはセロリ-メイトを食べていた。セロリ-メイトはセロリを乾燥させて粉末状にして、セロリの形に加工し直した『健康食品(笑)』である。細身の空久保さんには丁度良いのかもしれない。
その他はご想像にお任せします。
龍人と美菜が出かけてから不思議な話が延々と続く。
「そういえば、龍人くんが言ってたよねー。『相手は生身の人間じゃないし、実体を持たない』って。それでさっきね、時音を探しに行ったときに敵に襲われてさぁ、何とかたおしたんだけど、時音が敵を竹刀で打ったときに、プチプチをプチプチする音がしたんだー。たおしたあとをよくよくみるとねー、なんかサランラップみたいなのと、黒い小さい板と、おもちゃの剣がおちてたのー。ふしぎだよねー?」
「コク。」
「不思議だね。」
みのるはそう受け答えて、改めて考えてみた。
敵は確かに生身の人間ではないらしい。しかし、だとしたらなぜ敵は『実体のない兵士』を使っているのだろうか?
もし、敵が世界を征服するつもりならば、わずかな残党を生身の兵士で壊滅させることは容易なはず。わざわざ兵器に頼る必要が無いのだ。それも殺傷能力を持たない兵器を使うだろうか?
みのるの思いついたものは二つ。
一つ目は兵力の温存、つまり偵察。この考えは確かに、偵察程度ならば生身の人間を送るよりもよっぽど効率がいい。特に未知なる力を秘めた者を相手にするときは大量の情報が必要になる。敵が精神攻撃の作用を持っているのも、相手により実践に近い状態で戦わせるという魂胆があれば納得がいく。
二つ目は建物への影響を避けるため。精神攻撃だけであれば、建物に損傷を与えることなく侵略することが出来る。それに物量作戦に置いても、黒いチップ一枚で一人分の戦力になるのであれば兵の輸送で一度に大量の兵力を送り込むことが出来る。
しかし、上記はどちらも根本的なものではないような気がする。みのるは考えれば考えるほど分からなくなって行った。
「もー。龍人ったら私というものがありながら……。」
優燈はため息をつきながら教室に戻って来た。
「でも、こういう時は考えないのが一番!! さ、ごはんごはん!」
そう言ってご飯を食べようとするが、優燈は重大なことに気が付いた。
「私、ごはん持ってないや!! てへぺろっ☆」
「てへぺろって、古ーい!!」
「そんなことないもーん!!」
「古いってー。」
「えー。じゃあ、ぺろれろっ★?」
「よくわからんよ。」
どうでもいいのに、穂乃佳が優燈の独り言に首を突っ込んで大変なことになっていた。よくわからない会話が続くが、なぜかメンバーは笑ってしまう。
みのるは笑って優燈と穂乃佳の言い合いを見ていた。三銃士は廊下から入ってきて二人ともにちゃちゃを入れていく。そのたびに二人の話はあらぬ方向へ行ってしまう。それもまた箸が転げただけで笑ってしまう人にはとんでもない破壊力があるものだった。
「あははははっ!!」「ひひひ!!」「クスクス!」
「ファーい!!」「っておい!」
全員の輝くような笑顔が、お昼の教室に差し込んでいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ひひひ……。」
その眩しさが雲に隠れることを、優燈はすでに知っていた。